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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第三章 大森林の大問題

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勇者様の成長!

 紙袋から干し肉を取りだすと、勇者様は「やっぱりな」という視線を向けていた。

 ここからが見所なのである。その辺で摘んだ大きな薬草の上に干し肉を置き、水をかけた。すると、全体がふやけていき、最終的に生肉になる。

 

「な、なんなのだ、この肉は!?」

「旅先でもおいしい物を食べたいという、貴族達のワガママから生まれた商品のようです」


 肉はお店で売っている物と相違なく、とても干し肉をふやかした物には見えなかった。

 そんな肉に岩塩、香辛料や臭み消しの薬草をふりかけ、お皿代わりにしていた葉っぱで包む。

 紐でしっかり縛り、焚き火で炙るのだ。

 ほどよい木の枝がなかったので、勇者様の金ぴか剣に結んで吊した。

 焚き火を熾し、肉を包んだ葉っぱごと炙るように火にかける。

 勇者様は期待が高まっているのか、わくわくした様子で見守っていた。

 三十分ほどで、十分火が通っただろうか。

 火から下ろし、勇者様にお披露目する。


「肉の葉包み焼きです」

「おおおおお!」


 果物ナイフで肉を切りわけ、お皿代わりの薬草の上に置く。

 

「これは、立派な食事に見えるぞ! ここで作った物とは思えん!」


 勇者様のお口に合えばいいのだが。

 なかなか食べようとしないのでどうしたのかと思っていたら、ナイフやフォークなどのカトラリーがないことに気付く。

 勇者様は肉に手を伸ばしては引っ込めているので、素手で掴んで食べるか否か迷っているのだろう。


「勇者様、よろしければこちらをお使いください」


 予備として持ち歩いていたもう一本の果物ナイフを差しだすと、勇者様は「これで食べるのか」と絶望したような声で呟いていた。

 そんな勇者様の発言は無視して、私は果物ナイフに肉を刺していただいく。


「――んん!?」


 肉は信じがたいほどやわらかく、噛めば噛むほど旨みがじゅわっと溢れる。

 少し塩っけが強い味つけだったものの、疲れた体に沁み入るような味わいであった。


 勇者様よりも先に、ぶーちゃんが食べ始めた。

 肉を食べるか心配だったものの、問題なく食べていた。


『ぴいいいいい!!』


 おいしかったのか、瞳がキラキラ輝いている。

 ぶーちゃんが喜んでいて嬉しいのか、イッヌも一緒になって『きゅうううん!』と鳴いていた。


 ぶーちゃんまでもが絶賛した肉を、勇者様もついに食べるようだ。

 慎重な手つきで肉にナイフを刺し、そっと持ち上げる。


「このように肉を切りわけもせず、ナイフに突き刺して食べるのは、山賊のようだ……」


 昔童話で読んだ山賊が、挿絵でこのように食べていたらしい。 


「野蛮だ」


 そう言いつつも、勇者様は肉を噛み千切った。


「むう!?」


 勇者様は目をカッと見開き、拳をぎゅっと握る。

 すぐにふた口目を食べ、もぐもぐと食べていく。


「これは、おいしい!! なぜ、干し肉だったものが、このようにジューシーなのか!? 不思議でならないぞ!!」

「まったくそのとおりです」


 勇者様の舌を唸らせる携帯食だったわけだ。

 それにしても、フォレスト・ボアを食べてうっかり死んでしまったところから、ずいぶん成長したように思える。

 今度は勇者様に調理を教えてみよう、と心に誓ったのだった。


 それから三時間ほど歩いていたら、周囲は瞬く間に真っ暗になっていった。

 

「今日はこの辺りで野営をするか」

「ええ」


 私達は熱帯雨林を抜け、枯れ葉が目立つ秋の森に行き着いていた。

 暑くもなく、寒くもなく、快適な中で一晩過ごせそうだ。

 勇者様には枯れ葉の布団を作ってあげた。ここにマントを広げたら、簡易的な寝床になろう。


「今晩は私が先に火の番をしておきますので、あとで声をかけますね」

「ああ、わかった」


 焚き火を前に、長い夜を過ごす。

 勇者様は横になり「案外快適だ!」と言っていた。地面で眠ったあとなので、余計にそう思うのだろう。


 勇者様は秒で眠っていた。あまりにも早い入眠である。


 イッヌは勇者様の顔面の前で丸くなっていた。すでに眠っている勇者様の口に、イッヌの毛が入り込んでいる。あれは大丈夫なのか。

 まあ、寝顔が穏やかなのでよしとしよう。

 孤独な夜を過ごすはずだったが、ぶーちゃんが私の隣に並んでくれた。


『ぴい~!』


 まるで付き合ってあげよう、とでも言っているようだった。

 焚き火に木の枝を入れてべつつ、長い夜を過ごしたのだった。


 五時間ほどで交替してもらう。勇者様を起こし、火の番を頼んだ。

 イッヌも一緒に起きて、頑張ると主張するかのように『きゅん!』と鳴いていたものの、目は半分以上閉まっている。

 勇者様も、寝ぼけ眼でのろのろ起き上がっていた。


「頼みますからね」

「ああ、任せろ」


 木の枝はぶーちゃんが集めてくれたので、十分すぎるほどある。

 あとはテンポよく、焼べてくれたらいい。


 焚き火がパチパチ鳴る音を聞きながら、私とぶーちゃんは眠りに就いたのだった。


 翌日――イッヌの悲痛な鳴き声で目を覚ます。


『きゅううううううん!!』

「え、何?」

『ぴいい?』


 のっそり起き上がると、イッヌが私に向かって駆けてきた。


『きゅううん! きゅううううん!』

「え、なんですか?」

『ぴ、ぴいい……』


 ぶーちゃんが勇者様のもとへ視線を向ける。

 

「え……勇者様?」


 勇者様は白目を剥き、口から血を吐いて倒れていた。

 手には、木の枝に刺さった食べかけのキノコがある。


「あ、それ、猛毒キノコ」


 勇者様はまた、バカな行為を働いてくれたようだ。 

死因:勇者→猛毒キノコを食べたことによる毒死

概要:猛毒キノコ。この世界に存在する最強の毒を持つ。少し舐めただけで死ぬ。

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