表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第三章 大森林の大問題

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/90

食事の時間だ!

 勇者様はすぐさまぶーちゃんを抱き上げ、褒めちぎる。


「まさか、ぶーちゃんがそのような戦闘能力を秘めていたとは! 私の目はたしかだったわけだな!」

『ぴい!』


 ぶーちゃんは非常食としてスカウトしたのに、まるで使い魔として契約を持ちかけたかのように聞こえてしまう。


「あのように巨大なモンスターを一撃で追い払うなんて、ぶーちゃんは天才豚に違いない!」


 ぶーちゃんは天才豚ではなく、聖猪グリンブルスティである。呪いで弱体化しているようだが、その辺のモンスター相手であれば十分に実力を発揮できるのだろう。


 勇者様はぶーちゃんだけでなく、イッヌも褒め始めた。


「イッヌも、出会ったころよりもずいぶんと大きくなったな! 最強のフェンリルになる日も近いだろう」

『きゅううううん!』


 ぶーちゃんのついでに褒められたイッヌは、尻尾が千切れそうなほど振っている。大喜びしていた。

 勇者様は大きくなったと言ったものの、イッヌはミニチュア・フェンリルで、今の姿が成犬である。いったいどこが大きくなったと言うのか。

 強いて挙げるのであれば、横方向に向かって大きくなっているような気がする。

 勇敢なる者バリアント唯一の才能ユニーク・ギフトを持つ勇者様の、特別な魔力を供給されたから、あのような体型になっていったのだろう。

 イッヌが旅に遅れるほど太る前に、魔力を少々制限してほしいとお願いしなければならない。


 それから、数体のモンスターと対峙したものの、すべて大森林の外で遭遇したよりも強かった。

 ひとまず大森林に出現するモンスターは、通常見かけるものよりも強化された存在であることがわかった。

 きっと世界樹と何か関係があるのだろう。


「モンスターの異変については把握できた。あとは、世界樹のもとに行って、様子を探るしかない」


 世界樹のもとには、本物の勇者様ご一行が行っているはずだ。モンスターの問題が解決していないということは、まだ行き着いていないのかもしれない。


 まだ勇者様と勇者様(本物)を会わせるのは早い気がするのだが。

 互いに魔王に打ちのめされた中、手を組むしかないというシチュエーションで出会ってほしいのだが。


「世界樹のもとへはどう行こうか」


 ざっくりとした強い魔力の流れはわかるようだが、正確ではないと言う。


「ああ、そうだ。私、大森林の地図を購入していたんです」

「そんなものがあるのか?」

「はい。限定販売されているようですよ」


 魔物避けを振りかけて簡易結界を作り、その場にしゃがみ込む。

 勇者様の前で、買ったばかりの大森林の地図を広げた。

 行動食をかじりつつ、地図に視線を向ける。


「勇者様、こちらです」


 地図には魔法が付与されていたようで、私達が現在いる現在地が微かに光っていた。


「おお! これはすばらしい機能が付いている地図だな」


 かなり高額だったものの、思いきって買ってよかった。


「えーっと、ここが現在地で、世界樹がある場所はわかりますか?」


 地図の中に世界樹らしき表示はなかった。

 勇者様は眉間に皺を寄せ、地図を眺めている。


「おそらくだが――月明かりがもっとも届くのは、この辺ではないのか?」


 勇者様が指差したのは、最深部であろう場所にぽっかり穴が空いた場所である。

 大森林の中でもっとも開けているので、マナの源たる月明かりを集めるのにうってつけの場所だと言う。


「かなり奥地になりますね」

「ああ」


 歩いたら何日かかるのだろうか。考えただけでもうんざりしてしまう。

 ただ、世界樹のもとに行く着くまでに、道具屋や宿屋、教会などがいくつか建っているらしい。そこに立ち寄りながら、先に進めばいいのだろう。 


「とにかく行くしかない、というわけか」

「ですね」


 死んでしまったら初めからやり直しなので、なんとか頑張りたい。


「なるべく、モンスターと遭遇しないように行きたいですね」


 そんな願望を口にしたら、ぶーちゃんが『ぴい!』と力強く返事をした。

 まるで、道案内は任せろ! と言っているように聞こえる。

 都合がいいように解釈しただけだろう。そう思っていたが、ぶーちゃんの先導で歩き始めた途端、モンスターに出会わなくなる。

 

「突然モンスターがいなくなったな。勇者である私に恐れをなしたか」

「そうだといいですねえ」


 勇者様を恐れてモンスターが回れ右をしたのではなく、ぶーちゃんがモンスターがいないほうへ導いてくれているのだろう。


 五時間ほど散策しただろうか。世界樹がある最深部はまだ遠い。

 

「勇者様、そろそろお腹が空いてきたので、食事にしましょう」


 そんな提案をすると、勇者様は警戒するように顔をしかめる。


「またこの前のように、ぶーちゃんの餌をいただくのか?」

「いいえ。聖都で携帯食を買ってきました」


 行動食を売っているお店で買ったものだ、と説明すると、勇者様の眉間の皺が和らいだ。


「ガッツリお肉が食べたいですか?」


 そう尋ねると、勇者様の眉間には再度皺が刻まれる。


「これまで生肉を持ち歩いていたと言うのか?」

「いいえ、干し肉です」


 そう聞くやいなや、勇者様の眉間の皺はさらに深くなっていく。


「干し肉を食べるくらいならば、イッヌやぶーちゃんを口に含んで、飢えをしのいだほうがマシだ」

「独特な方法で空腹を誤魔化さないでください」


 普通の道具屋で販売されている干し肉とはかなり違うものである。一度、その目で見てもらったほうがいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ