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旅は再開されない

 聖布で下半身の急所を隠しただけの、ほぼ全裸な勇者様と共に、魔王を倒す旅を再開させる。


「仕方がないが、これで行くしか……というか魔法使い! お前はなぜ服を着ているのだ!? どうして略奪者に奪われなかった!?」

「お守りを装備していたからです」

「な、なんだのだ、そのお守りというのは?」

「金貨を五枚ほど包んだものですね」


 略奪者が発見したら、お守りのみ引き抜き、身ぐるみは剥がされないのだ。

 命が金貨五枚で助かるのだから、安いものである。


「なぜ、そのお守りとやらについて私に教えなかった!?」

「勇者様は最強なのでしょう? それゆえ、お守りは必要ないと判断しました」

「ま、まあ、言われてみればそうだな!」


 物わかりがいい勇者様はそれ以上私を追及せず、教会を後にする。

 ひとまず、その辺に落ちていた太い木の棒を剣代わりに戦うようだ。


「それにしても、略奪者め……! この私の装備品を奪うなんて。よほど、かっこいいと思ったから、すべて盗んでいったのだな」


 それはどうだろうか?

 全身金ぴかな装備品は単純に、お金になると判断されたのだろう。

 ただあれは、勇者様のご実家が用意した、勇者専用装備であった。彼以外着こなせるものではないだろう。


「勇者様、きっと近くの街に行ったら、なんでも屋でそのまま売っていますよ」

「いや、略奪者が大事に保管しているに違いない」


 その自信はどこからやってくるのか。

 本当に不思議である。

 そもそも、魔法学校でも大した成績でなかったのに、魔王を倒す旅に出る勇気は相当なものだ。

 勇敢なる者バリアント才能ギフトを持つだけある。


 なんでも勇者様は魔法学校の卒業後、婚約者と結婚し、魔法省に務めるはずだった。

 けれども彼の運命は大きく変わる。

 始まりは卒業後のパーティーでの事件がきっかけだった。

 仲良くしていた婚約者以外の女性とパーティーに参加していたら、婚約者である伯爵令嬢から婚約破棄を言い渡されたらしい。

 もうこの時点で、バカとしか言いようがない。公式行事に、異性の友達と一緒に行くなど礼儀に反した行為で、通常は婚約者と参加するのが正解だ。貴族でない私にだってわかる常識である。

 おそらく勇者様は日頃からのクズ行為を重ねた結果、婚約者に愛想を尽かされてしまったに違いない。

 勇者様の愚行が知れ渡った結果、魔法省の内定も取り消しとなり、しばらく無職で引きこもりの状態が続いていた。その期間はさすがの勇者様も落ち込んでいたらしい。

 そんな中で、世界を滅ぼそうとする魔王が出現した。

 〝予言プロフェシー〟の才能ギフトを持つ聖司祭が、この世界は勇敢なる者バリアント才能ギフトを持つ者が救うと宣言したのだ。

 勇者様の地に落ちていた名誉はあっという間に回復し、魔王討伐の旅に出たというわけである。

 そんな勇者様の幼馴染みであり、魔法省で働いていた回復師は心配し、旅に同行していた。

 それなのに、この仕打ちである。

 ちなみに私は死体として転がっていたところを勇者様が発見し、教会へ連れて行ってくれた。そんな恩があるので、魔王討伐の旅に同行していたわけである。


 裸足でのっしのっし歩いていた勇者様だったが、突然悲鳴を上げる。


「ぎゃあ!!」


 膝から崩れ落ち、足を押さえて転がっていた。

 いったい何があったのかと覗き込むと、トゲトゲとした草を踏んでしまったようだ。


「クソ! 靴まで奪うとは、略奪者め、卑劣な奴!」


 これ以上、もう歩けないとまで言いだした。


「おい、魔法使い。魔法薬を寄越せ!!」

「持っていませんが。旅に必要な道具を管理していたのは、回復師です」

「な、なんだと!?」


 旅に必要なありとあらゆる道具を回復師に押しつけていたのは勇者様である。

 回復師は大量の道具を持ち運べる空間魔法を習得していた。そのため、なんでもかんでも彼女にすべて預けていたのだ。


「ならば、回復術は使えないのか!?」

反回復術アンチ・ヒールなら使えますが」

「な、なんだその、不気味な響きの魔法は!?」

「回復する対象の命を削って行う闇魔法です。使いますか?」

「バカ! 使うな! どうしてお前はそんな邪悪な魔法を知っているんだ!」

「勇者様にもしものときがあるかもしれないと思い、念のために習得しておきました」

「私の命と引き換えに行う魔法など、許可するわけがなかろうに!!」


 止血する布をと言ったものの、私も私物は回復師にすべて預けていた。


「手巾の一枚もないのか!?」

「残念ながら……。その、腰に巻いた聖布でも使ったらいかがですか?」

「これを使ったら全裸になるだろうが!」


 ギャアギャア文句ばかり言っていた勇者様であったが、何かに気付いたようでハッとなる。

 草っ原に這いつくばり、その中にあった草を摘んで掲げた。


「これは、ヒール草だ!」


 なんでも魔法学校時代、ヒール草を採取し、魔法薬を作る授業を行っていたらしい。

 

「このヒール草を煎じて、聖なる水を混ぜたら魔法薬になるんだ!」


 ちょうど近くに、教会の井戸があった。そこで水を汲み、石を使ってすり潰したヒール草を混ぜた。

 魔法薬は液体かと思いきや、薬草を潰して水分を加え、丸めたものである。


「よし、できたぞ!」

「あ――!」


 私が止める前に、勇者様は魔法薬を口に放り込んだ。


「ぐは!!」


 次の瞬間、勇者様は大量の血を吐き、その場に倒れて動かなくなった。

 魔法薬が完成した瞬間に千里眼を使って見たのだが、勇者様が作ったのは毒薬だった。

 最初に発見したのはヒール草ではなく、ポイズン草だったみたいだ。

 このふたつの薬草は見た目がよく似ている。

 見分け方を習っていただろうに間違えるとは、さすが魔法学校の成績下位者、としか言いようがない。

 虫の息になった勇者様を教会まで運び、ポケットマネーである金貨五枚と引き換えに、聖司祭に蘇生してもらった。

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