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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第三章 大森林の大問題

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29/90

街へ戻ろう……

 大森林内に死者蘇生を施してくれる教会があるようだが、強力なモンスターが出現する中を歩き回りたくない。どこにあるかもわからないし……。

 それにしても、何をしているのか。

 入場料を払ったばかりで、着地地点から一歩も歩いていなかった。

 そんな状況なのに、勇者様が死んでしまうなんて。


 転移陣は一方通行で、私達をここに飛ばした魔法陣は見当たらなかった。

 大森林内にある、教会に戻る転移ポイントを探すつもりもない。

 私は潔く、購入したばかりの転移魔法が付与された魔法巻物を使うことにした。


「イッヌ、ぶーちゃん、これから転移魔法を展開するので、勇者様にしがみついていてください」

『きゅん!』

『ぴい!』


 イッヌとぶーちゃんは完全に私の言葉を理解しているようで、勇者様にヒシッと身を寄せていた。私は勇者様の腹部に腰を下ろし、魔法を発動させる。

 景色はくるりと一回転し――見慣れた教会の祭壇の前に下りたった。

 聖司祭が待ち構えていて、私に問いかけてくる。


「お亡くなりになってしまわれたのですね」

「ええ、まあ」

「おお……なんと嘆かわしい」


 聖司祭は涙を拭うような素振りを見せつつ、寄付を寄越せと言わんばかりに手を差し伸べてきた。

 同情と集金を一度に行うなんて、無駄がない人生を送っているものだ。

 金貨五枚を手渡したが、聖司祭は手を引っ込める。


「え?」

「大森林で得たアイテムをお持ちですね。今回はそちらで、死者蘇生を承ります」


 どうやらこの聖司祭は、私が使う千里眼のような魔法を使えるらしい。

 私達が所持するアイテムを把握しているようだ。

 目的は勇者様とぶーちゃんが作ったキュア丸薬だろう。そう言えば勇者様が、高値で取り引きされていると話していた。


 命には替えられないと思い、聖司祭にキュア丸薬をすべて差しだした。


「ありがとうございます。では、死者蘇生を施しますね。今回はどのようにしてお亡くなりになったのでしょうか?」

「雪を布団代わりにして眠っていました」

「おやおや、凍死ですね。大森林では多い死因なんですよ」


 大森林はありとあらゆる季節が同時に存在しているらしい。

 春のように暖かなときもあれば、夏のように茹だる暑さに晒されるときもある。秋のように暑かったり寒かったりする気候もあれば、冬のような厳しい寒さに襲われる日もあるようだ。


「大森林へ入ったばかりなのに雪に降られるなんて、お気の毒に……」


 死者蘇生の魔法を施した勇者様は、修道士の手によって運ばれる。これから聖水温泉に浸からせるようだ。


「寒い中での散策は特に注意が必要ですよ。すぐに体力を消費してしまうんです」


 食事を十分用意するだけでなく、行動食と呼ばれる栄養補給を行う軽食を持ち歩くのも大事らしい。


「行動食、ですか」

「ええ。最近、貴族出身の冒険者の中で流行っているそうですよ」


 なんでも現在、貴族の中で娯楽を目的とした冒険が流行っているらしい。

 ここ最近、狩猟の代わりにモンスターの討伐を推奨されていることから、始める者が多くいるようだ。


「行動食にご興味がおありなら、聖都の中央街にある、貴族様御用達の道具屋に行かれてはいかがでしょうか?」


 貴族が出入りする道具屋があるなんて知らなかった。そこに行ったら、勇者様のお口に合う行動食とやらが入手できるかもしれない。

 勇者様の懐から財布を引き抜いていたので、お買い物をしよう。


 イッヌは勇者様に付き添い、聖水温泉のほうへ行ったようだ。

 なぜかぶーちゃんだけ、私の傍にいる。


「ぶーちゃん、勇者様のもとに行かなくてもいいのですか?」

『ぴい、ぴいい!』

 

 何を言っているのかは謎だが、置いて行かれたわけではないのだろう。


「ぶーちゃん、勇者様が目覚めるまで、私と一緒に買い物に行きますか?」 

『ぴい!』


 そんなわけで、ぶーちゃんと共に街へ繰り出す。

 ぶーちゃんの首輪や鎖は勇者様が持っている。そのため、胸に抱いて移動することにした。

 街を歩いていると、豚を大事そうに抱いている……といういたたまれないような視線がグサグサ刺さっていた。

 ぶーちゃんの正体はかの高名な聖猪グリンブルスティだ。

 皆、ぶーちゃんの真の姿を見たらひっくり返ることだろう。

 ぶーちゃんと共にてくてく歩くこと十五分ほど。中央街にあるという、貴族様御用達の道具屋はすぐにわかった。

 看板が金ぴかだったわけである。外観から、勇者様が好みそうなお店だった。

 さっそく店内にお邪魔すると、店主が笑顔で迎えてくれた。

 白衣に身を包んでいるので、教会の信者なのだろう。

 聖司祭が熱心な様子で教えてくれることに対し、若干不思議に思っていた。恐らくだがここは、教会の息がかかったお店なのだろう。


「いらっしゃいませ! ようこそおいでくださいました!」


 門前払いを食らう可能性も考えていたものの、快く迎えられたので拍子抜けする。

 念のため、質問してみた。


「あの、ここのお店は貴族だけが利用できるのですか?」

「いいえ! 訪れたお客様すべてにご利用いただいております」

「そうですか」


 念のため、ぶーちゃんも大丈夫か聞いてみる。


「豚様も問題ありません」


 ならば、遠慮なく店内を見学させてもらおう。

 普通の道具屋とは、商品のラインナップが大きく異なる。

 まず、普通のアイテムでも高い価格で販売されていた。

 半銀貨一枚ほどで販売されているヒール丸薬は、金貨一枚もする。高級そうな透し細工の木箱に入っているので、値段がかさ増しされているのだろう。


 他にも、貴重な召喚札やモンスター辞典、魔法書など、貴重な品が所狭しと並べられていた。

 使役させるモンスターまでも販売されているようだ。さすがに店頭に置かれていないのだが、ワイバーンやサラマンダーなど、珍しいモンスターの使役権までも売られている。


 店内をうろついていたら、店主が揉み手をしながら話しかけてきた。


「お客様は本日、何をお求めですか?」

「行動食を買いにきました」

「でしたらこちらです。ご案内しますね」


 そこまで広くない店内を、店主は商品が置かれた棚まで導いてくれる。


「行動食はここ最近、大人気でして。よく売れています」


 一番人気は、銀紙に包まれた長方形の食べ物らしい。


「こちらは干した果物をたっぷり混ぜた、ショートブレッドです」


 店主は包みを開き、私に中身を見せてくれる。

 ショートブレッドというのは、クッキーとパンの中間のような食べ物らしい。


「片手で食べられるので、冒険しながら栄養補給ができるというわけです」


 店主はショートブレッドを半分に折り、私へ手渡してくれる。残りの半分はぶーちゃんに食べさせてくれた。 


 ショートブレッドはサクサクとモサモサを同時に味わえる不思議な食感で、干した果物の甘酸っぱさがじゅわっと口の中に広がっていく。

 携帯食がまずい、というイメージを払拭してくれる一品だった。


 味も干し果物の他に、チョコレートやナッツなど、種類豊富に取りそろえてある。

 そこまで大きくなく、重たくもないので、私でも持ち歩けそうだ。


 ぶーちゃんもお気に召したようで、あっという間に食べてしまったようだ。


「では、この行動食を二十本ほどいただけますか?」

「ありがとうございます」


 店主はにっこり微笑みながら、両手いっぱいにショートブレッドを抱えたのだった。

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