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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第三章 大森林の大問題

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27/90

ぶーちゃんの餌を食べよう

 このクソクソクソクソお坊ちゃんは、イモの芽を取り除かないどころか、土が付着した皮ごと食べようとしていた。

 私が止めていなかったら、再度お腹を痛めていたことだろう。


「ならば、果物のように皮を剥けばいいのか!?」

「そういう問題ではありません。イモは普通、加熱して食べるものなんです」

「ならば、得意の大噴火で焼いてくれ」

「魔法で焼いたら、一瞬で炭と化すに決まっているでしょうが!」


 本当に勇者様は生活の知識が欠片もない。

 これが幼少期からお世話されて育った、箱入り息子なのだな、としみじみ思ってしまう。


 ふと、辺りを見回してみると、先ほどよりも薄暗くなっている。

 この森の中は時間の経過が外界と違っているのだろうか。

 やってきたばかりだが、暗闇の中での散策は危険だ。

 なぜかというと、月灯りを浴びたモンスターは、昼間よりも凶暴化するから。そんなわけで、今日のところはここで野営するしかないだろう。

 魔物避けを振りまいて、野営地作りを行った。

 大森林のモンスターに効果があるか謎だが、やらないよりはマシだろう。


「魔法使い、私は何をすればいい?」

「では、辺りにある枝や枯れ葉を集めてきてください」

「わかった」


 勇者様はイッヌやぶーちゃんと協力し、その辺に落ちている木の枝や木の葉を拾い集めてきた。


 燧鉄ひうちがねを使って火をおこし、めらめら燃える様子を見守る。


「おい、この火でイモを焼くのではないのか?」

「火の中にイモを入れたら、あっという間に焦げてしまいますよ」


 ナッツでも食べて大人しくしているように、と言って手渡す。

 勇者様は焚き火を眺めながら、ぶーちゃんと一緒にナッツを食べていた。

 

 焚き火の火はどんどん弱くなり、最終的に消えてなくなる。

 この状態になって初めて、イモの調理を始めるのだ。

 長い杖スタッフで灰を掘り、その中に芽を取り除いたイモを入れて覆う。

 あとは、余熱でイモに火が通るのを待つばかりだ。


「魔法使いよ、あとどれくらい待ったら完成するのだ?」

「さあ? 気長に待ってください。夜は長いので」


 辺りはすっかり真っ暗である。

 幸いにも周囲にモンスターの気配はないので、しばらくはゆっくり過ごせそうだ。

 それから一時間半ほどで、イモは食べられる状態になった。

 長い杖スタッフでイモを掘り起こし、勇者様のほうへ転がしていく。


「どうぞ召し上がってください」

「とても配膳されている気分にならないのだが」


 まるで餌やりのようである。喉まででかかっていたものの、悪いと思って口にしなかった。


「おい、魔法使いよ、変なことを考えていないだろうな?」

「いいえ。お口に合えばいいな、と思っておりました」

「嘘を言え!」


 変なところで勘が鋭いので、表情管理もきちんとしなければならない。

 勇者様は一筋縄ではいかない人物なのだ。 


「イモの皮は灰まみれなので、きちんと剥いてから食べてくださいね。あと、熱いので手巾か何かに包んでから食べてください」

「そこまで口うるさく言わずとも、できたての料理が熱いことくらいはわかっている!」


 本人はそう主張しているものの、怪しいものである。

 イモは勇者様とぶーちゃんにふたつ、私はひとつ焼いてみた。

 まずはぶーちゃんの分の皮を果物ナイフで剥いてあげた。

 すると、イモの皮剥きに苦戦していた勇者様が物申す。


「お前、ぶーちゃんには優しいのだな」

「ぶーちゃんの蹄では上手く皮が剥けませんから」


 勇者様は立派な五本の指があるので、しっかり頑張ってほしい。

 岩塩も削いで、イモに少しだけふりかけてあげる。


「さあ、ぶーちゃん、どうぞ」

『ぴいいいっ!』


 ぶーちゃんは私にお礼を言うように鳴き、イモを食べ始める。

 おいしかったのか、瞳がきらりと輝いた。

 残りも剥いておき、ぶーちゃんの傍に置いておいた。

 勇者様はまだ、イモの皮剥きに苦戦しているようだ。


「あの、勇者様、剥いてあげましょうか?」

「いい! これくらい、私にもできる!」

「はあ、さようで」


 炭で加熱したイモは、ホクホクしていておいしい。

 空腹だったのも、いいスパイスになったのだろう。


 勇者様は苦労の末、イモを剥き終えた。その表情は達成感で輝いている。勇者様がもたもたしているうちにイモを完食していた私は、やる気のない拍手を送ったのだった。

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