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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第二章 新しい仲間(?)

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22/90

復活した勇者様

 今晩の宿はどうしようか。

 高級宿は普通の冒険者は門前払いを食らってしまう。貴族である勇者様がいるからこそ、宿泊できるのだ。

 かと言って、怪しい安宿には泊まりたくない。

 ただ、ここは聖都である。余所の街よりは、街の治安もいい。

 宿もそこまで悪いものではないだろう。

 どうしたものか、と考えているところに、白い鳩が飛んできた。


『くるっぽう!』


 教会が放った鳩だろう。腕を伸ばすと、鳩は私の手の甲で羽を休ませる。

 足には紙が結ばれていて、解いて読んでみると、勇者様の蘇生が終わったという旨が書かれてあった。

 どうやら宿選びをするより先に、勇者様を迎えにいかなければならないらしい。

 聖水に浸けなければならないと言っていたので、もっと時間がかかるかと思っていたが。

 

「教会に行きますか」


 私の独り言に対し、鳩が『くるっぽう!』と返事をするように鳴いたのだった。

 勇者様初めての単独死亡である。

 いったいどのような様子で復活を遂げたのか。


 教会に向かうと、勇者様はすでに私を待ち構えているような姿で佇んでいた。


「魔法使いよ、遅かったな」


 そんな言葉に対し、はーーーーーと盛大なため息が零れる。


「お前、私の顔を見るなりため息を吐くなど、失礼ではないか!?」

「はいはい、すみませんでした」

「心がこもっていないぞ」

「それはいつもです」

「なんだと!?」


 うっかりフォレスト・ボアを食べて死んでしまったと言うのに、反省するような様子はいっさい見られなかった。

 そんな勇者様の蘇生を心から喜ぶのなんて、イッヌくらいである。

 イッヌは今も勇者様にキラキラな瞳を向け、尻尾を健気に振っていた。


「勇者様、行きましょうか」

「そうだな」


 教会の外にでた勇者様は、聖都の白い街並みに感嘆の声をあげる。


「ここが聖都か! ようやく辿り着いたな!」


 その言葉は、自分の足で行き着いた人が言うものだろう。

 森から三時間もかけてイッヌと共に勇者様を引っ張ってきたのに、感謝も謝罪の言葉すらなかった。

 今になって、勇者様(本物)の仲間に志願しなかったことを後悔する。

 勇者様を見捨てていたら、受け入れてくれた可能性があったのに。


 それにしても、どうして勇者様と勇者様(本物)はあんなにもそっくりなのか。


「魔法使いよ、なぜ、そのように私の顔をまじまじ見つめる?」

「いえ、さっき勇者様にそっくりな人を見たんです。年齢が近い兄妹がいらっしゃるわけではありませんよね?」

「私はひとりっ子だが?」

「従妹などのご親戚は?」

「十歳以上年が離れた従弟なら数名いるが」


 十歳も離れていたら、勇者様の親戚という説はありえないだろう。

 不思議なのは、勇者様と勇者様(本物)様は顔がそっくりなだけでなく、身長や体格も鏡映しのように似ている点だろうか。きっと年頃も同じくらいだろう。

 通常、体格は男女差があるはずなのだが……。


「まあ、この世界には似ている者が三人はいるからな!」


 そんな言葉で片付けてもいいものなのか。

 まあ、考えるだけ無駄なのかもしれない。


「この街に大森林へ繋がる道があるようだが」

「ああ、教会に転移陣があるそうですよ。寄付で入れるそうです」

「詳しいな」

「喫茶店で話を聞きまして」

「そうか」


 大森林に向かう前に、準備が必要だろう。

 魔法薬はすべて、フォレスト・ボアを食べて倒れた勇者様が消費してしまったから。


「ひとまず、魔法薬を揃えて――」

「あとは食事をどうにかしたい!」

「具体的には?」

「回復師がしていたように、できたての料理を食したい」

「それは難しいお話です」


 調理道具を持ち運んで旅をするというのは無理だ。


「鍋くらいであれば、私が背負ってもいい。蓋は盾代わりにもなるだろうし」

「調理道具を戦闘に使わないでください」


 勇者様は苦しい思いをして死んだ痛みを、すっかり忘れているようだ。

 呆れたの一言である。


「勇者様、料理をするには鍋だけでなく、調味料や食器、食材など、豊富な材料が必要になるんです。収納魔法もなしに持ち歩くことは不可能なんですよ」

「まだしていないのに、なぜできないと言うのだ」

「結果がわかりきっているからですよ」


 最大の問題は、調理である。


「私は料理なんてできないですからね!」

「ならば、料理人を仲間に引き入れようか。調理道具もその者に持たせたらいい」

「戦闘能力がない料理人を、守りながら旅なんて続けられるわけがないじゃないですか!」


 ああ言ったらこう言う――そんな感じで、勇者様は料理に対し妥協しなかった。


「わかりました。では、料理の材料を買いに行きましょう」

「いいのか!?」

「ただし、私は調理道具は一切持たないですからね」

「ああ、わかった!」


 そんなわけで、私は勇者様と共に、しぶしぶ市場へ向かったのだった。

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