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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第二章 新しい仲間(?)

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18/90

偶然の出会い

 私とイッヌは頭から魔物避けを被り、びしょぬれ状態で勇者様のご遺体を運ぶ。

 金ぴかの鎧を装備した勇者様はとてつもなく重たくて、なんだか腹が立ってきた。


「イッヌはこんなに重い遺体を、何度も街に運んでくれたのですね」


 私の言葉に対し、イッヌは気にするなとばかりに、尻尾をぶんぶん振ってくれた。

 三時間ほどかけて勇者様を街までつれて行く。

 ここは第二の都市とも言われている、枢機卿ガーディナルが治める〝聖都〟と呼ばれる街だ。

 白を基調とした街並みが、他とは異なる神聖な雰囲気を醸し出している。

 いつもだったら教会はすぐにわかるのに、どこもかしこも白い建物だらけで迷ってしまった。

 ようやく発見し、勇者様の遺体をひとまず預ける。

 聖司祭は慈愛の微笑みを浮かべながら、手を差しだしてきた。

 イッヌがお手をしようと前足をシャカシャカばたつかせる。小さな犬なので、聖司祭の手に届くはずがなかった。

 代わりに、私がハイタッチしておく。

 パァン! と心地よい音が教会内に響き渡った。

 聖司祭は一瞬ポカンとしていたものの、すぐにハッと我に返る。


「ち、違います! 寄付を寄越すようにと言いたいのです!」

「ああ、お金ですか」

「いいえ、寄付です!!」


 お金に違いないのに、どうして遠回りな言い方をするのか。まったく理解できなかった。

 白目を剥いている勇者様の懐を探りたくなかったので、ダメ元でツケを提案してみる。


「あの、こちらのご遺体はかの有名な公爵の嫡男であり、勇者様なのです。そのお金――ではなくて、寄付金は彼のご実家にたんまり請求していただけないでしょうか?」

「ああ、なるほど! そういうわけでしたか。では、勇者様のご実家に寄付のお願いをしたいと思います」


 あっさりツケが通用してしまった。


「その、こちらのお方は壮絶なご様子で息絶えているようですが、いったいどうやって亡くなられたのですか?」

「フォレスト・ボアのお肉をたんまり召し上がりました」

「ああ、禁忌を犯したのですね」


 禁忌を犯して死んだ場合は、聖水に浸けて浄化しなければならないらしい。でないと、殺したモンスターから呪れてしまうようだ。


「少し日数がかかるかと思います。復活しましたら、伝書鳩を送りますので」

「わかりました」


 どうやら時間潰しをしなければならないらしい。

 イッヌは勇者様の遺体の傍から離れようとしない。私はひとりで教会を出た。


 本日は晴天。空を飛ぶ鳥も聖都だからか白い鳥ばかりだ。

 修道士モンク修道女シスターが多く行き来していて、信者らしき白衣を纏う人々もたくさんいた。

 思いのほか、冒険者らしき人々が多いのは、旅の安全を祈願しにやってきているのか。

 聖都には祈りを行うための礼拝堂も多々あるという。

 

 さて、これからどうしようか。

 昼食は干し肉一枚しか食べていないので、お腹がぐーぐー鳴っていた。

 しかしながら、どこかで一度身を清めてから食堂に行きたい。

 フォレスト・ボアを焼いた臭いが、髪の毛や服に染み付いているように思えてならないのだ。

 キョロキョロ辺りを見回していると、大衆浴場を発見した。

 看板には〝聖水温泉〟と書かれている。

 なんだかスッキリしそうなので、ここに決めた。

 教会管轄の施設のようで、受付には修道女がいた。


「おひとり様、半銀貨一枚の寄付になります」


 意外と高かったものの、ギルド長から貰った報酬があったので、それで支払った。


「寄付いただき、ありがとうございます」


 いちいち寄付と言わなければならないのも大変そうだ。


「あの、服も洗っていただきたいのですが」

「では、追加で銅貨三枚の寄付をいただきます」


 こういう施設には洗濯メイドがいて、服を洗ってもらえるのだ。

 魔法で乾かすので、上がってきたころには服がきれいになっているわけである。

 これで完全に、フォレスト・ボアの臭いとおさらばできよう。


 出入り口は男女別れていて、女湯のほうはたくさんの人達がいた。

 服を脱ぎ、洗濯メイドに預けたあと、浴室へ向かう。

 ここでは必ず、体を洗わないと浴槽に浸かってはいけないのだ。

 浴室の床や浴槽は大理石でできていて、真っ白だった。

 壁際には蛇口があり、魔石を捻るとお湯がでてくる仕組みである。

 石鹸や垢擦り用のブラシは持参しなければならない。しっかり鞄の中に入れていたので、それで体を洗う。

 まずは髪を洗い、ブラシで体の汚れを落とす。

 長い髪は紐で縛ってから、お湯に浸かった。


 聖水温泉はお湯が白濁としていて、ミルクのようにとろりとしている。

 なんだか甘いいい匂いも漂っていた。


「ふーーーーー」


 ここ最近の疲れが湯に溶けてなくなるような気持ちよさだ。

 浴室は清潔だし、泉質も好みだ。高い入浴料を払っただけある。


 このあとは食堂に行って、何かおいしいものを食べたい。

 宿もいい部屋を取って、ふかふかの布団で眠りたかった。

 野望が次々と浮かんでくる中、突然声がかかる。


「あれ、もしかして魔法使いさん!?」


 声がしたほうを見ると、回復師が驚いた表情で私を見ていた。


「あ――」

「どうしたの、こんなところで!? まさか、あなたもパーティーから追放されたの!?」


 矢継ぎ早に質問され、たじろいでしまう。

 そんな私に助け船をだしてくれる者が現れた。


「回復師よ、そのように一気に話しかけてしまったら、彼女も困るだろうが」

 

 優しくたしなめるのは、金色の髪に緑色の優しげな瞳を持つ美丈夫――勇者様(本物)だ。

 改めて見ても、勇者様にそっくりである。

 その身は筋骨隆々で、腕や胸元に大きな傷があった。それらはモンスターと戦った名誉の傷なのだろう。


「ちょっと勇者! そんなちんちくりん女なんて、放っておきなさいよ!」


 続いて現れたのは、尖った耳を持つド迫力美女。

 ハイエルフの賢者だ。

 まさか勇者様ご一行と聖水温泉でバッタリ出会ってしまうなんて。

 人生、何が起こるかわからないものである。

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