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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第一章「お願い! 死なないで勇者!」

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再出発

 金貨三十枚の寄付と引き換えに聖石を手にした私達は、再出発する前にギルドに立ち寄る。

 ギルド長は腐死者を討伐して戻ってきたと思ったようで、ぬか喜びさせてしまった。

 勇者様は潔く、腐死者に殺されて戻ってきたと打ち明ける。

 

「それはそれは、大変でしたね……」

「これから再度向かい、腐死者討伐を行う」


 リーフ村へ行った冒険者は、これまでひとりも戻ってきていないと言う。

 命があるだけでも、儲けものなのだろう。


 ちなみに、出発から丸二日経っていたらしい。思っていたよりも長い間、意識を失っていたようだ。


「本当に、生きて帰ってきただけでも奇跡のようだと思います」

「そうだな。おそらく冒険者達は腐死者に襲われ、そのまま帰らぬ者となっているのだろう」

「ええ……」


 依頼を買って出た冒険者だけでも、二十名以上にわたるらしい。村人の被害者を入れたら、もっと多いのだろう。

 全員がもれなく腐死者の餌食になっているなんて、恐ろしい話だ。


「このように被害をだしていたら、騎士隊が動くのではありませんか」


 そう指摘すると、ギルド長は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。


「一度、村長が騎士隊に相談したようですが――」


 騎士隊の回答は信じがたいものだった。


「物理攻撃を得意とする騎士は過去に、物理攻撃に強い耐性がある腐死者と戦い、大きな損害を被った記録があるようで」


 もしも騎士隊が動くのであれば、腐死者を討伐するのではなく、村ごと灼き尽くすようだ。


「うちに務める受付がリーフ村の出身でして、それはどうしても許せないと言いまして……」


 他にも、ギルドにはリーフ村で生まれ育った者が多く、ギルド長はどうにかできないかと考え、村長からの依頼を引き受けたようだ。


「勇者様、どうか頼みます。リーフ村を救ってください!」


 ギルド長は深々と頭を下げ、勇者様は神妙な面持ちで頷いていた。

 あとはアイテムを買い足して、再出発だ。なんて考えていたら、背後から私達を追う者が現れた。


「あ、あの! 勇者様ご一行ですよね!?」


 二十代前後の年若い女性が、顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。


「そうだが?」

「よ、よかった! あの、私はギルドに務める受付係でして」

「ああ、ギルド長が話していた、リーフ村出身の?」

「はい!」


 なんでも彼女は村長の孫らしく、腐死者の騒動が起きてから一度も実家に戻れていないらしい。


「家族に会いたかったのですが、お祖父ちゃんが騒動が収まるまで帰ってくるな、って言いまして」


 人がよさそうな村長が言いそうなことだ。

 昨日会った村長は元気だったと伝えておく。


「よかったです。お祖父ちゃん、少し偏屈で、勇者様に失礼がなかったか、心配だったんです」


 偏屈な印象はなかったが、家族にしか見えない意外な一面があるのだろう。


「それで、その、お願いがありまして、こちらをお祖父ちゃんに渡していただけますか?」


 受付嬢は少し照れた様子で、毛糸で編んだセーターを差しだす。

 編み目はバラバラで、ところどころ毛糸が解れていた。おそらく編み物はあまり得意ではないが、祖父を思って一生懸命作ったのだろう。


「わかりました。村長に渡しておきます」

「あ、ありがとうございます!」


 セーターを鞄に詰めたら、パンパンになってしまった。これからアイテムを買い足そうと思っていたのだが……。

 まあ、いい。おそらく次は大丈夫だろう。たぶん。


 二回目の訪問はギルドが用意してくれた馬車で行く。歩いて三時間だったが、馬車だと一時間半ほどで到着した。

 村は先日訪れたときよりも閑散としていた。腐死者騒動があったので、皆、警戒しているのだろう。

 村長の家に行くと、私達を見るなり驚いた表情を浮かべていた。


「ご、ご無事でしたか!!」

「おかげさまでな」


 夜、腐死者討伐にでかけてから戻らなかったので、帰らぬ人になってしまったのだろう、と思い込んでいたらしい。


「一応、墓場に行って、おふたりの遺体がないか探し回ったんです!」


 きっとイッヌが教会へ運んだあとに探しに行ったに違いない。

 なんとか無事だったと告げると、村長は安堵の息を吐いていた。


「ああ、そうだ。村長よ、孫娘から贈り物を預かっているぞ」

「孫娘、ですか?」

「ああ、そうだ。魔法使い、渡してやれ」

「はいはい」


 鞄からセーターを取り出し、そのまま村長へ手渡す。


「夜は冷えますので、これを着て温まってください、と孫娘さんはおっしゃっていました」

「ああ、なんて優しい子なんでしょう」


 村長は嬉しそうに言いつつ、セーターを広げて体に当てる。

 すると、一回りほど小さいことに気付く。


「寸法が合っていないな」

「もしかしたら完成したあと、洗ったのかもしれませんね」


 毛糸は水を含むと繊維が膨れ上がる。その状態でごしごし洗ったら繊維が絡まり、全体が縮んでしまうのだ。


「はは……困った孫娘ですね」


 村長は苦笑しつつも、大切にすると言って大事そうにセーターを抱きしめていた。

 

「では、夜に備えてゆっくりお休みになってください」

「ああ、そうだな」


 本日も村のごちそうをいただき、温泉にゆっくり浸かって、夜までぐっすり眠った。

 夜になると、憂鬱な気持ちで外にでる。

 勇者様は聖石を腰からぶら下げ、しっかり対策していた。イッヌの首輪にも、聖石の欠片がぶら下がっている。勇者様の聖石の一部を分け与えたのだろう。

 私も手に聖石を握り、墓地へと向かう。


「魔法使い、ゆくぞ!」

「ええ」


 今日は酷く冷えるので、村長には家で待っておくように言っていた。

 重たい足取りで墓地に向かう。

 さっそく、腐死者が土の中から這い出てきた。


「おい、魔法使い! あの腐死者はお前を噛んだ、才能ギフト持ちだぞ!」

「よく顔を覚えていますね」

「ひとりひとり違うだろうが!」

「見分けがまったくつきません」


 腐死者の顔を見分けるという、勇者様のまさかの能力に驚いてしまう。

 なんて、話している場合ではなかった。もうあのように噛みつかれて死ぬなんてまっぴらである。

 勇者様に下がるように言ってから、火魔法を展開させる。


「――噴きでよ、大噴火イラプション!」


 地面が割れ、そこから火に包まれた岩漿マグマが噴きだしてきた。

 岩漿は腐死者の頭部や腕を吹き飛ばすだけでなく、燃やしていく。

 全身、火を纏った腐死者はしばしジタバタ暴れていたが、勇者様が足を切り落とすと動けなくなる。


 その辺にある草木に火が燃え移っていたものの、イッヌがおしっこをかけて消火してくれた。


 あっという間に腐死者の体は燃えてなくなる。


「倒した――ようだな」

「ええ」


 ホッと胸をなで下ろす間もなく、腐死者が土から次々と這いでてきた。 

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