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第一話『勇者 死す』

「役に立たん回復師よ! お前を私のパーティーから追放する!!」


 金ぴかの鎧に身を包んだ勇者様が、回復師を指差して宣言する。

 勇者様は金色の髪に緑色の瞳を持つ、十九歳の美貌の青年だ。

 黙っていたらかっこいいのに、喋るともれなくバカが露呈ろていする。全身金ぴかな鎧を纏う様子が、頭の悪さをさらに演出させているような気がした。

 勇者様は自分の発言が世界一正しいと信じ込み、自信満々な様子でいる。

 その一方で、追放を言い渡された回復師はポカンとした表情で、勇者様を見つめていた。

 ひと息ついて言葉の意味を理解したのか、彼女の天頂の青アザーブルーの瞳が困惑に染まっていく。


「ね、ねえ、追放って、いったいどういうことなの?」


 なんの前触れもなく言われたので、回復師は混乱状態らしい。

 いったん考えてみようと思ったのか、小首を傾げる。肩までの長さの美しい黒髪が、さらりと揺れた。


 回復師はかなりの美人で、彼女みたいに容姿端麗で性格がいい女性を見たことがない。

 いつだってバカな勇者様にも、慈愛に満ちた様子を見せていた。

 それなのに、勇者様は回復師に追放を言い渡してしまう。


「しらばくれるな! お前が使う回復術が、世界樹が生み出す世界に満ちる力――マナと引き換えに行っていることなど、お見通しなのだ!」

「いや、それは違うよ。私の回復術は、自身の魔力を使って発現するものだから」


 人の魔力は命と繋がっている。

 通常の魔法を使う際、魔力を消費しても回復するのだが、魔力を使って発現させる回復術はそうではない。術者の命を削る危険な行為なのだ。


「そのような芸当が可能なものか! 仮にそうだとしても、回復術を使うたびに、自らの命を消費しているようなものだろう!」


 回復術というのは祈りの力で傷を癒やす奇跡で、神学校でのみ習い、習得を可能としている。

 けれども私達のパーティーにいる回復師は、魔法学校の卒業生だというのに、回復術を使えるのだ。


 魔法学校に通う者が回復魔法を扱うなど前代未聞。

 稀代の天才だと囁かれていたらしい。


 絶賛ばかりされる回復師を、勇者様は面白く思っていない部分があったのだろう。


「神学校に通っていたわけでもないのに、お前が回復術を使えること自体、おかしいとずっと思っていたんだ!」

「違う! 私の力は――」

「言い訳なんぞ聞くものか! 私達の旅は、マナを奪う魔王を倒すことを目的にしているのに、まさか仲間だと思っていたお前が魔王と同じ暴挙に出ていたなんて! 同級生のよしみで、追放だけにとどめておいたんだ!」


 勇者様と回復師は魔法学校の同級生だったらしい。

 回復師は首席で、品行方正な生徒だったという。

 勇者様の成績は後ろから数えたほうが早い。つまりバカだったというわけだ。


「お前との旅もここまでだ」


 勇者様はそう言って、転移魔法の魔法巻物スクロールを回復師の額に貼り付ける。

 紙面に書かれた呪文を指先で摩ると、魔法が展開された。

 回復師は慌てた様子で魔法陣を剥がそうとしたものの、転移魔法が発動するほうが早かった。


「ちょっ、魔法使いさんとふたりだけで旅するなんて、無理があ――!」


 回復師の姿はあっさりと消えていった。

 勇者様はこくこくと頷きながら、回復師を見送っていたように思える。


「回復師よ、この世の平和のためだ。これからはバカな行為など止めて、達者に暮らせ」


 バカな行為を働いたのは間違いなく勇者様である。

 回復師の支援がない状態で、魔王になんて勝てるわけではないのに。


「さあ、魔法使いよ。魔王討伐の旅を再開しようか」

「その前に勇者様、ケガをしたさいの回復はどうなさるおつもりで?」

「お前、誰に物を言っているんだ? 私は勇者様だぞ?」


 自信に満ちた様子で言ったものの、その瞬間、草陰からゴブリンが飛び出してきた。

 勇者様の顔面に、ゴブリンの棍棒こんぼうが振り下ろされる。


「うぎゃああああああ!!!!」


 勇者様は大量の血を吐きながら倒れ、そのまま動かなくなる。

 ゴブリンによる、一撃必殺ワンパンキルだった。


「勇者様……」


 これまでの旅では、モンスターが出現したら回復師が勇者様にバリアを展開し、さらにケガをした瞬間に無詠唱での回復術を展開していた。

 それだけでなく、回復師は勇者様の武器である剣や身体能力をも強化させる、サポート魔法での支援もしていたのである。

 それらのすべてを、勇者様は自分の実力だと思い込んでいたのだ。


 ピクピク痙攣けいれんする虫の息な勇者様を眺めていたら、私もゴブリンから攻撃を受けてしまった。

 後頭部に一撃――視界がぐらりと浮かぶ。


『ギッ、ギッ、ギイイイイイーーーー!!』


 倒れた私の体を、ゴブリンが行進するように踏んでいく。

 ミシ、ミシと骨が軋み、ついに鋭い足の爪が私の首筋を切り裂いた。

 悲鳴をあげることもできず、ヒューヒューと空気が漏れるような音が鳴るばかりであった。


『ギャッ、ギャッ、ギャアアアア!!』


 最後にゴブリンは私の顔を思いっきり踏み抜く。

 ここで意識がぶつんと途切れた。


 魔王を倒す勇者のパーティーが全滅した瞬間である。

 回復師がいなければ、信じられないくらいの小物ザコなのだ。

 これもすべては、勇者様が回復師を追放したからである。

 非常にわかりやすい〝ざまあみろ〟であった。

敵:ゴブリン

死因:才能ギフト死の行進デス・マーチ〟による圧死

概要:死の行進・・・敵を踏みつけることに成功した場合のみ、死ぬまで連続で踏みつけ、殺すことができる。

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