ずっと昔に亡くなった友人の事を、ネットで詳しく知る
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チャイムと共に授業が終わり、それぞれが帰宅や、部活動のために教室を出て行く。
私は帰宅する用意をしながら、ふと窓の外を見た。
子鹿君だ。
(彼のイメージのままの仮名です)
校門手前を一人で歩く、同級生の子鹿君が見える。
まだ2階の教室にいた私は、急いで窓を開けて大声で言う。
「こじかああ!子鹿くーーん!一緒に帰ろっ!今行くから待っててぇーー!」両手を上げて大きくぶんぶんと振って見せた。
子鹿君が振り返り、にっこりと笑って頷くのが見えた。
子鹿君は誰からも愛されるタイプ。
いつもニコニコしていて可愛いキャラだ。
私は、飛んで跳ねてボールがどっか行っちゃう、壊れたピンボールみたいな感じ。
ぱっと荷物を持って、急いで階段を降りる。
下駄箱の所に、同じクラスの鈴木さんがいた。
鈴木さんにも声を掛ける。
「一緒に帰ろっ!子鹿君も待ってる」
家が同じ方向の鈴木さんと、子鹿君と、私。
鈴木さんは一見大人しいが、話しがとても面白いタイプ。
待っていてくれた子鹿君のところまで行き、くだらない話しに笑いながら帰った。
……
別の日、下駄箱前で靴を変えているところに、子鹿君が来た。「一緒に帰る?」ニコニコしながら子鹿君が言う。
私は嬉しくてにんまりと笑う。
「うん!一緒に帰る!」
側から見ても色気のある関係には見えないのだろう。
私と子鹿君が仲良く二人で帰っていても、誰も冷やかす人はいない。
「あの二人付き合ってるの〜?」なんて噂も立ちゃしない。(ちぇっ)
……
子鹿君は小さい頃から夢を持っていて、その夢のために頑張っていた。
学校を卒業してから、新聞の隅や、テレビで子鹿君の活躍を見るようになるまで、そう時間はかからなかった。
今と違って、ネットなんてないから、子鹿君の活躍を知りたかったら専門の雑誌や、新聞をくまなくチェックしないといけない時代。
それでも知っている人は子鹿君のことを知っているので、私は「子鹿君と同級生で、よく一緒に帰って…」と、鼻高々に子鹿君自慢をした。
そんなある日、子鹿君と私の友人関係を知る人が「…子鹿君…大変な事になってるよ…」と言って、子鹿君のことが大きく書かれた新聞を見せてくれた。
重大な事故。
子鹿君は意識不明…
……
三日後、子鹿君の死亡のニュースを、新聞やテレビで知った。
家が近かったから、母親同士で情報交換して、お通夜やお葬式の日取りや場所も知れた。
お通夜もお葬式も関係者がたくさん来るだろうから…と、同級生数人で、子鹿君の実家へお線香をあげに行った。
写真の中で、やっぱりニコニコ笑っている子鹿君。
死んだって言われてもぴんとこないよ。
おばさんは目が真っ赤だった。
おばさんに「よく一緒に帰ってた」と言うと「息子が死んだ時、「私が彼女でした」って言う人が6人来たのよ。その中の一人しか知らなかったけどね」と言っておばさんが笑った。
その時、友人が「あ、じゃあ私も実は彼女です」と手を上げた。私も「実は私も…」とそろそろと手を挙げた。その場にいた友人が数人「実は私も…」と言った。
男の同級生が「この流れだと俺もって言わないといけなくない?」なんて言うから、おばさんも大袈裟に驚くふりをして…みんなで一緒に笑った。
……
ちょっと前、子鹿君のことを検索した。
ネットの世界ってすごいよね。
当時は知れなかった事が詳しく書いてあったよ。
最後の会話まで書いてあった。
検索すればなんでも知れて…残酷だな〜…と思った。
さすがに彼女6人ってのはなかったけどね。
も〜…
子鹿君がいつもニコニコしてるから、勘違いしちゃってる女の子がたくさんいたじゃん。
子鹿君と同じ仕事の人がさ、女性関係の謝罪してるのをたまにテレビで見るよ。
もし子鹿君が生きていたら、その謝罪は子鹿君だったかもしれないよね。そうしたら私は「子鹿君は昔からそうでした〜」って、知ったようにまた子鹿君自慢出来たのに。
まだ先だと思うけど、いつか子鹿君に会いに行くからさ、6人の彼女の話、本当のところはどうだったのか詳しく教えてよ。
内容によっては、お婆さんになった私が、若いままの子鹿君に説教しないといけないよね。
楽しみにしておいてね。
6人の彼女は、おばさんが知る一人が本命で、あとは女の子の勘違いだと思っています。
…たぶんね。
拙い文章、お読み下さりありがとうございました