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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

66.6MHz

作者: 海堂直也


 誰も気づかぬうちに始まっていて。


 誰もが知る頃には終わっていた。


 青く茂る春と秋の木々。桜の木陰は煩いほどの蝉時雨、金木犀の向こうからは風鈴の音。外を歩けば、そこかしこに夏の様相がチラホラ。


「夏かぁ〜、今年は折角だから夏っぽい事したいよなぁ〜。」


 当然の心の叫び。浪人生活と受験地獄を味わったその男は、夏の太陽より熱く、高気圧より暑苦しい。そして、35℃という気温はどうやら知性の融点らしく、思いついた夏っぽい事とは、BBQ。


 浪人中に彼女にフラレ、華やかなキャンパスライフを夢見ていた言い出しっぺの男を含め、サークルで仲の良い男女四人は夜の内に車で出発。ワイワイと買物をしていくと男二人が持つカゴは、いっぱいになった。

 

海に架かる橋を渡り、工場夜景を眺め、峠へ向かう。


BGMはカーラジオ、流行りの曲と懐かしい歌をバランス良く流してくれる、お気に入りの番組。車内の雰囲気は上々。しかし、そこに、誤算。その日の番組テーマは《夏といえば》ラジオDJのトークは、あるリスナーのメールから怪談話に……


その瞬間、運転手の男は何かを感じた。折角の雰囲気に水を差す、何か嫌な予感、そもそも恐い話が苦手。とにもかくにも番組を変えた。


しかし、時期的に何処でも同じ様な企画をしているのか、ラジオからは怪談話が流れる。


運転手の男はボリュームを下げて怪談話が終るのを待つ事にしたが、後部座席の女子二人からボリュームを上げて欲しいと頼まれてしまう。


「今ラジオで恐い話してたでしょ?聞きたい!聞きたい!」


女子の機嫌を損ねる程野暮な事はない、ボリュームを上げるのは容易い、だが怪談話は良くない、車は暫くするとトンネルに入りラジオは聞けなくなる、そのトンネルを抜けたら目的地は遠くない、それならばと思った矢先、助手席から伸びた手が、車内にラジオの音を行き渡らせる。


『すると其処には牛の首が……』

『うわー何これ!すげー恐いじゃん!よく読めたね。』

『私、読んでて《気》失いそうでした。この手の話一番苦手かもしれないです。』

『皆すごいよね。よくこんな恐いの書けるよね。ほんと、なんか、もぉ尊敬を通り越して、恐い。』

『はいはい、じゃぁ次の、その目の前にある原稿読んで下さい!リスナーさんから送られた沢山のホラー作品から選りすぐりのホラーですよ。恐くて読めなかったら変わってあげますけど?』


ちょうど、パーソナリティの会話から次の怪談話が始まるタイミング、そして前方にはトンネルの入口が見えて来る。


ラジオからの声はノイズが混じるが、トンネルに入っても途絶えなかった。


時折入る雑音が、余計に意識を耳に集中させる。“ゴクリッ”生唾を飲み込む音と共に車内は静まり返り、男とも女とも区別のつかない不思議な声が響く。


➖探して➖


「ラジオから、だよね?」

「ラジオでしょ?」

「パーソナリティ、声優だったし……」


運転手の男の嫌な予感は当たった。

何の応答もしない助手席に目をやると、そこには窓に写る自分の顔。助手席にはスマホだけが残され、背もたれとシートの間にはTシャツが挟まっている。パニックに陥った運転手に何かを啜る様な音が聞こえてくる。


“ズルッ、ズルッ”


➖➖引き返せ➖➖➖戻れ➖➖➖➖


「何か変じゃない?」

「ねえー嘘でしょ!やだー!やだっ!!助けて!!」


忽然と姿を消した助手席の男に続き、後部座席左側。操作していないスライドドアがゆっくりと開いて行くと、車体とドアの隙間へ女子が一人引き込まれていく。消えていく友人を目の当たりにした女子は、運転席と後部座席の間で頭を抱えて恐怖に震えている。トンネルを出ないと死ぬ、そう思いアクセルを踏み込んだ運転手に何かを潰す様な音が聞こえてくる。


“グシュッ、グチュッ”


➖➖➖➖➖助けて➖➖➖➖➖


「なんだよ!どうなってんだよ!」


不思議な声は響けども、運転手の質問に答えは返ってこなかった。そして、トンネルを出るとラジオの音声はクリアに聞こえてくる。



『かなり盛り上がったんで、次回のテーマは“恐い話”にするそうです。本当に恐いメール・FAXには、番組特製ステッカーをプレゼントします。』

『時間があるので最後にもう一通、メールを紹介しますね!』


➖初めてメールします。お題の“夏といえば”ですが、今、まさに、サークルで仲の良い、男2女2の4人でBBQと秘湯を目指しドライブ中です。アウトドアの達人に教えて貰った穴場なので場所は秘密ですが、そういった所は探せば結構あるそうです。


パーソナリティのお二人も、この夏


探して


引き返せ    戻れ


助けて  ➖



『え?何これ? やだーもぉ恐いメール来てるぅ?』

『これは何か嫌な雰囲気するね。ってゆーか前半のリア充ぶりは何?こーゆー輩はね、呪われちゃえばいいんですよ。』

『なんですか、そのひがみモードは。この世で一番恐ろしいのは生霊なんですよ。リスナーさんが本当に呪われたらどうするんですか。』

『そんなさぁ〜、俺一人の怨念なんて蚊も殺せないよ?』

『ま、そうですよね。本当に気をつけなきゃいけないのは、山の神様ですかね。』

『何?どういう事?』


『地方によっては色々しきたりがあるんですけど、有名なのは女人禁制、火気厳禁、殺生御法度ってやつですよ。山の神様は女性ですからね。あと気をつけるのは山に入っちゃいけない日!!昔、生贄の風習があった地域は、その日に山に入ると必ず行方不明になるらしいですからね……』

『へぇ〜。なんか、山……ってゆーか、自然って怖いよね。』

『なんにせよ、まぁ何でも?しっかり知る事が大切ですよね。それでは来週のテーマ“恐い話”お待ちしてます。』


ラジオを聞いて愕然とする運転手にパトカーが近づく。トンネル中程から50キロ超過のスピード違反。


警察官の質問に運転手の答えは支離滅裂。 


「本当です。車に呑み込まれたんです。」


三人の行方不明者を出した事件。運転手の供述は一点張り。だが警察の調べでは、トランクに積んだと言うBBQ用の食材は無く、代わりに『馳走』と血文字が残されていたらしい。


未解決の事件や失踪事件、行方不明者etc

この世は人間だけの世界では無さそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くっ……辛い浪人生活を終えて、やっと女子とバーベキューできるようになったってのに……その女子が食われちゃうなんて……あんまりだ!!!
[良い点] 本当に、確かに、やっぱり怖かったです。 パーソナリティーの軽さ加減が、よりリアルに恐怖を感じさせるんですよね。そのへんの塩梅が上手いなぁ、と。
[良い点] テンポの良い文章と理不尽な怖さに泣きそうになりました。 [一言] あんま怖くないって言ってたじゃないですかぁ。 油断して夜に読んじゃった。どうしよう…
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