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9:私と玄武の戦い

エシュリアを見送った直後。私の前には帝国の腕章をつけた大男がいかにも悪そうな面で笑っていた。その首筋には蛇が巻きついた亀の紋様が刻まれていた。


「帝国の……神の魔力の持ち主か……!?」

「ご名答、お前も神の魔力の持ち主らしいなぁ?俺はゲンブのエルリル」

「ビャッコのレイウェル、レーゼズ王国の王子として……お前を倒させてもらう」


エシュリアをその場に寝かせ、魔力を込めて元のサイズに戻した弓を左手で構える。相手は武器は持っていないらしい、どう仕掛けてくるか分からない以上いきなり接近戦を仕掛けるのは危険だ。


魔力で作り出した矢を牽制するように放ち、数発はエルリル本体を狙い放つ。しかし、土の壁が現れ、全ての矢を弾かれてしまった。


その土の壁がエルリルが殴ったことで砕かれ、全てが私に向かって飛んでくる。飛んできた破片を矢で全て撃ち壊し、再びエルリル本体へ白い炎の矢を撃ち放つ。


「効かねえなぁ?」

「らしいな。ならば……っ!!」


エルリルの体は大地のように固くなり、炎の矢は弾かれてしまった。遠距離戦は不利、そう判断し、弓を右手に持ち替えてエルリルへと駆け寄っていく。


そのまま白い炎を纏わせた刃でエルリルに斬りかかっていく。大地のように固くなったことで油断していたのだろう、エルリルは避けもせずに私の刃を受けた。


「ほう?なかなかやるんだな?」


体に傷を付けられたことで自分の防御を上回られた事を悟ったエルリルは再び斬りかかった私の刃を避け、地面に手を付けた。その瞬間足元から土の柱が生み出され、距離を取られてしまう。


しかし生み出された土の柱に咄嗟に飛び乗り、上から斬りかかり、エルリルの右肩に傷を付けることに成功した。


「ってぇなぁあ!?」


怒りのまま生み出される土の柱を避け続け、その隙間を縫うように弓を左手に持ち替え、矢を放つ。放ったのはスピードに特化し、一点だけを貫くように調整した白い炎の矢。怒りのままに攻撃をし、隙だらけのエルリルの右肩を一瞬の内に貫いた。


「ぐっ……!!クソがぁあ!!」


怒りの咆哮に合わせ、生み出された土の柱が魔力を放出して一斉に砕け散る。爆発に巻き込もうとしたのだろう。咄嗟に両足に白い炎を纏わせ、その勢いで飛び上がり、爆発から逃げ出し、三本の矢を撃ち出す。


「一本目は速く真っ直ぐな矢」


エルリルの左腿を貫く速く真っ直ぐと飛んでいく矢。


「二本目は遅いが攻撃力の強い矢」


左腿を貫かれ、動きが止まったエルリルの右腕を貫く太く攻撃力の強い矢。


「そして三本目は曲線を描き、背を貫く矢。白炎三矢(はくえんさんし)!」


二つの矢をまともに受けたエルリルの背に突き刺さる三本目の矢。


全てをまともに受けたものの咄嗟に体を土のように固くしていたのか致命的なダメージには繋げられなかったらしい。


「はぁ、はぁ……危ねぇなおい。ちょっとは冷静にならねえとってことか」


確実にダメージは蓄積されているらしく、息を切らしながらも怒りを静めたエルリルに更に追撃をしようとした瞬間背後に気配を感じ、両足に炎を纏いその勢いで後ろに大きく飛んだ。


「避けやがったのかよ」

「作り出したのか……」

大地亀(アースタートル)、俺の傀儡みてえなもんだ。さて、かわせるか?」


感じた気配は地面から作り出された土の巨大な亀。決して遅くはないスピードで襲いかかる亀に対し、魔力を込めた弓を構え、その場で一回転。生み出した炎の真空刃で牽制し、右足にだけ炎を纏い、勢いで飛び上がり、弓で亀を斬り裂いた。


そこへ隙をついたであろうエルリルが私の目の前まで飛び込んできていた。


咄嗟に左手に弓を持ち替え、超至近距離で腹部に押し付け、思い切り右手を引く。


「喰らえ……っ!!」


引いた右手を離せば思い切り引き絞った白い炎の大きな矢がエルリルの腹部を貫いた。しかしそれと同時に放たれた土の刃に右腕を抉るように斬られてしまった。


お互いに攻撃が通り、大きな矢に貫かれたエルリルはそこから広がる白い炎に焼かれ、大きなダメージを受けていた。こちらも右腕にそれ相応のキズは負ったが幾分かは有利な立場に立った。


「あちぃな……」

「その白い炎はお前を燃やし尽くすまで消えない、呆気なかったな?」

「ふっ……はっはっはっ……!!」

「!?何がおかしい!!」


突如として大きな笑い声を上げたエルリルから禍々しい魔力が溢れ出るのを感じる。その魔力によって炎が消されてしまう。


更に地響きを感じ、咄嗟にエシュリアを片腕で無理矢理抱き抱えて飛び上がる。すると数秒前までいた地面に巨大な割れ目が作られ、そこから無数の小さな刃のような土の破片が飛び出してきた。


重力を無視して上へと飛んでくる破片をエシュリアを抱えつつ、足に炎を纏いその勢いだけで何とか避けていく。それも限界はあったが。


「はぁ、はぁ……っ」

「さっきまでの威勢はどうした?王子様よぉっ!!」


避け切れなかった破片に斬られ、エシュリアを庇った結果身体中に浅い傷が無数付けられ、体力も大きく削られた。


それでも割れ目が出来ていない地面に着地し、その場にエシュリアを下ろす。その瞬間を狙われ、気付けば目の前にエルリルが迫っていた。


「右腕が使えねえんじゃ、もう攻撃出来ねえよなぁ!?」


殴り掛かるエルリルに対し、痛みから殆ど動かせない右腕に一瞬だけ目をやり、左手に持つ弓を構えた。


「受け止めるので精一杯か……っ、くっ……」


弓に白い炎を灯し、なんとか攻撃を受け止めることには成功したが先程までのエルリルの勢いとは何かが違っていた。増した魔力によって押し切られそうになり、白い炎の勢いも足していく。


「がら空きだな!!」


受け止めた方では無い方の手、それがいつの間にか腹部に添えられていた。攻撃を受け止め押し返すことに夢中になっていた隙をつかれ、腹部を魔力を纏った拳で殴られてしまう。


「何本か骨は持っていっただろうし、息も苦しいだろ??」

「お、まえ……っ、くっ……ゴホッ……」


片膝をつき、何度か咳き込む内に血が混じり始める。それを拭い、立ち上がり、目の前で笑うエルリルに左腕に持った弓でふらつきながらも斬りかかる。


勿論簡単に受け止められてしまうが目的は斬りかかることでは無い。


受け止められた瞬間に痛みを堪え無理矢理動かした右手に弓を持ち替え、首を狙い、左手に魔力を込めて思い切り引き絞り、すぐ様矢を放った。


「まだそんな元気があるんだな?王子様はよぉ?」


放った矢はエルリルの紋様を裂くように首筋を掠めて行った。咄嗟に右手に持ち替えた為上手く照準が合わしきれなかったらしい。


反撃から逃れるためにエルリルの体を駆け上がるように蹴りを入れ、無理矢理離れる。その瞬間を狙われ、細い土の柱が絡み合うように私の体を捕らえた。


「やっと捕まえた、喰らいな。アーススクリーム!!」


絡み合った土の柱が一斉に魔力を解放し、砕け散る。逃げることが出来ずに今度こそ爆発をまともに喰らい、身体中が悲鳴をあげた。


「しぶてぇな、王子様」


それでも私は倒れなかった。いや、倒れることは出来なかった。


エシュリアを守ると約束した。だから、こんなところで倒れるわけには行かない。


「私は……負ける訳には、いかない……っ!!」


身体中が痛い。それでも。右腕の痛みを堪えて、弓を構える。左腕を思い切り引き、魔力の矢を生成していく。


想像するのは私の魔力……白い虎。


放たれた白い炎の矢は避けようともしないエルリルへと真っ直ぐに向かっていく。そして当たるその瞬間に白い虎へと姿を変える。


「喰らい尽くせ!!白炎ノ(はくえんのとら)!!」


エルリルを喰らい尽くさんとばかりに牙を剥く白炎ノ虎。勢いを増していく炎に飲まれ、もがき苦しんでいる。そう思い込んでいたが白炎ノ虎が少しずつ勢いを失っていく。


そして禍々しい魔力が白炎ノ虎を完全に破壊してしまった。


「なかなかの魔力だが……こっちには闇の魔力があるんだよ……!!」

「っ……闇の……魔力……っ……ぐっ……ぁぁ!?」


白炎ノ虎を破壊したエルリルは禍々しい魔力を纏った拳を地面に叩きつける。魔力が込められた地面は大蛇に姿を変え、私に巻き付き、締め付け始める。


魔力を解放しようにも大技である白炎ノ虎に注ぎ込んだせいですぐには出来ない。ミシミシと軋む骨の耳障りな音と身体中の痛みが広まり、意識が遠のく。それでも私が倒されればターゲットは眠ったままのエシュリアに向いてしまう。


倒される、わけにはいかない……っ。


「ぐ……ぅう……ぁ……!!白炎よ……私を……助けろ……っ!!」


無理矢理動かした両手で弓に絞り出した魔力を注ぎ込む。引くことも斬ることも出来ない。それでも。私の魔力武具は応えてくれるはず。


渾身の魔力が込められた弓はひとりでに動き出し、地の大蛇を切り裂き、私を救い出した。魔力武具が私の魔力に応えてくれた、そう確信した。


「ほんとにしぶてぇ王子様だなぁ??」

「私にもプライドがある……負ける、訳にはいかない……っ」


身体中が痛い。苦しい。魔力も殆ど使えない。それでも、守ると決めた。だから、負ける訳にはいかない。


激しく息を切らし、弓を構え直す。上手く動けない、目を開けるのもやっとだ。それでも絞り出した魔力を目に宿し、白炎の目を発動させた。これで相手を見失うことは無い。


立っているのもやっと、それでも攻撃を仕掛けようとした瞬間。不意に肩を叩かれ、振り返る。そこには目を覚まして微笑んでいるエシュリアの姿があった。


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