3:僕と彼女のお師匠様
姉さんが僕を守るために魔力を使い、倒れてしまった。僕が姉さんを守らなくちゃいけなかったのにも関わらず、立場が逆転。
守られる立場になってしまったことを悔いながらも信じて欲しいと見つめたエシュリアを信用し、彼女のお師匠様とやらの待つ町へと向かっていた。
「本当はその宝剣を盗んだあとでこの町で合流する予定だったんだよね。確かここの宿屋の裏手に……」
「裏手?」
「そっ、お師匠様もソルシエールだからあんまり目立つことは出来ないんだって。それで同じように目立ったことを出来ないソルシエールがこうしてソルシエール用の宿屋を町の裏手に用意してることが多いらしいの。ここね」
辿り着いた町はそれなりに栄えていた。目立たぬように人混みに紛れ、表の通りにある宿屋の裏手に回り込んでいくとそこには確かに別の小さな宿屋が存在していた。
「お師匠様〜!」
「遅いわよエシュリア……ってその人達は」
「とりあえずお部屋貸してください!話はその後で!」
「……分かったわ。そっちの子、一緒に来て。部屋を貸すわ」
お師匠様、と言っていたからてっきり老人が出てくるのかと思っていたが現れたのはピンク色の腰ほどまである長い髪を赤いリボンで止めてポニーテールにしている目の色が緑色の若い女性だった。ざっと年齢は二十代前半くらい。
彼女に案内され、ソルシエール用の宿屋の一室を借り、姉さんを寝かせた後。
「つまりゼロ属性の逃げ出した実験体に協力しちゃってます、ってこと?」
「そうなっちゃいます……でも放っておけなかったんです!それと……あたしも魔力を手に入れられたんです、やっと」
「それがまさか四神の魔力なんてね。でも嬉しいわ、これであなたもソルセルリーに案内できるもの」
「ソルセルリーって?」
エシュリアの話を聞き、お師匠様とやらは意外とすんなりと受け止めていた。同じソルシエールとだけあって思うところはあるのだろう。
「ソルセルリーっていうのはソルシエールだけが住む隠された町のことよ、この近くだからすぐに案内出来るわ。……と自己紹介がまだだったわね、私はリナ・レヴェイユ。エシュリアの一応お師匠様、ということになってるわ」
「そんな町、僕の記憶には……」
「あなたの記憶って基本的に本由来よね?それなら当然よ、ソルセルリーは本に乗らない。だから、知っている人も少ないのよ。帝国には存在は知られてしまっているみたいだけど」
本には乗らないソルシエールだけの町、聞いたことも無いし見たこともない、信じられない。怪訝そうな顔をしていたのか不意にリナさんが僕の手を取る。
「あなたの魔力は記憶、だったわよね?私の記憶からソルセルリーを探してみて?」
「……分かった。記憶捜索」
リナさんの手を握り返し、魔力を解放、その記憶の中からソルセルリーにまつわるものだけを捜索し、僕の記憶に移し替えていく。
「ソルセルリー……確かに存在するようだね。疑ってしまったことは謝るよ」
「良いのよ、隠されているものだから急に言われても信じられないのは仕方ないわ。さて、善は急げってね。早速行きましょう。ほら、エシュリアも準備準備!」
「も〜相変わらず人遣い荒いんですからお師匠様は!」
くつろいでいたエシュリアにも発破をかけ、僕がまだ眠っている姉さんを抱き抱えて、リナさんと共に宿屋を後にした。
再び人混みに紛れ、町を出た僕達はリナさんの案内でソルセルリーを目指す。エシュリアも元はソルシエールじゃなかったから場所は知らないらしく、姉さんを抱き抱えてる僕を心配しながら歩く。
「ちょっと2人とも止まって」
「どうしたんですかお師匠様」
「……おかしいのよ」
「おかしいって一体何がおかしいんですか?」
「昨日ソルセルリーからさっきの町に移動したんだけど……こんなところに町なんて無かったはず」
僕達の目の前には確かに一つの町が存在している。さっきまでいた町と同じように魔獣に襲われないようにバリケードで囲まれている。けれど僕の記憶の中のこの大陸の地図にもこの座標には町は存在していない。勿論、ソルセルリーの場所もリナさんの記憶から記憶の地図に足してあるからそこでもない。
「なんて、白々しくてごめんなさいね。私の本当の目的はソルセルリーの付近に突然出来たこの町の調査だったの。エシュリアにはそのお手伝いをしてもらうつもりだったのよ。巻き込んでごめんなさい、エリオくん」
「騙すようなことをしたことについては少し信用が落ちたけど……でも、ソルセルリーの平和のためにってことなら。姉さんの安心にも繋がるし」
「もう〜最初から言ってくれたら良かったのにお師匠様〜!!」
「ごめんなさいね、町で変に盗聴とかされてたら困ったのよ。それじゃあそう言う事情ということで、行くわよ」
少し騙された感じはするけれど確かにさっきまでいた町で宿屋の中とは言えど話をしていた場合何があるか分からない。それだけこの大陸においてソルシエールは警戒される存在ではある。リナさんの判断は間違ってはいないと思う。
「入ってみて分かったけど……作られた町ね、ここは」
「作られた町……?」
「そう。恐らく帝国はソルセルリーの大体の場所にはもう気付いている。だからそこから出てくるソルシエールを捕らえて場所を暴こうとしてる」
「それじゃあ、いまあたし達は」
「罠の中、ってところね。来るわよ!!」
リナさんの合図で警戒すると町にいた住民が魔獣に姿を変えて襲いかかってくる。正確には元が魔獣で住民に姿を変えていたものが正体を現したというところか。
「記憶創造守りの球!」
姉さんを抱き抱えて応戦するのは流石に無茶が過ぎる。記憶の魔力を解放し姉さんを守るように作り出したのは防御力に長けた巨大な球状のバリア。魔獣からの攻撃が万が一当たったとしてもそう簡単には壊れないはず。
「とりあえず魔獣を全部片付けるよ!」
「あっ、お師匠様のカード!!」
「……カード?」
「これが私の武器なのよ、よく見てて。五枚の炎札!」
リナさんの手元には5枚のカード。それを魔獣に投げつけると炎を纏い、魔獣に突き刺さり、延焼していく。更に投げつけられたカードが炎の中でも突き進む魔獣の腕や足を切り落とす。
「なるほど、魔力を内封出来るカードというわけか。それも魔力で作っているから無限に生み出せるってことか」
「良い観察眼ね。あとこんなことも出来るのよ」
投げられたカードは魔獣に突き刺さり、その中に吸い込まれていく。そして戻ってきたカードには魔獣が持っていたであろう水の魔力のマークが刻まれていた。
「魔獣の魔力を吸収した……!?」
「吸収の札。ちょっと難しい魔力操作だから乱発は出来ないし、大きな魔獣とかには使えないんだけどね。ほらほら、見てないでエリオくんも動いて!」
あまりにも興味深い魔力についつい動きが止まってしまう。見たところ火のソルシエールみたいだがその魔力を操作してカードの形に固めている、それに付与効果まで付けている。
「魔力操作のプロ、といったところか」
「やっぱり良い観察眼。エシュリアも頑張って戦っているみたいだから直ぐに終わりそうね」
言われてみれば周りにいた魔獣はかなり数を減らしていた。それと同時に僕達のいた町はいつの間にか跡形もなく無くなっていた。
「帝国も諦めたみたいね。あとは魔獣さえ倒してしまえば良さそう」
「お師匠様もエリオも強い〜!!」
「僕なんてまだまだだよ」
「私もよ?さて、片付けも終わりよ。巨大札!」
「記憶創造分身」
投げられたカードが巨大化し炎を纏って魔獣を真っ二つに切り裂く。水化したエシュリアが魔獣の攻撃を避け、ダガーナイフで確実に切り裂いていく。そして僕もまた残った魔獣を自分の記憶の残像を作り出すことで3人に分身し、一気に切り裂いていく。
「いっちょあがりっと。2人ともありがと。それじゃあ早速ソルセルリーに向かいましょう」
残された魔獣の残骸を尻目に歩き出すリナさんに僕は姉さんを抱き抱えてエシュリアと着いていく。
「本当に巻き込んじゃってごめんなさいね、でも私1人だとちょっと不安だったのよ」
「あたしは別に大丈夫だったけど……」
「僕も基本不満は無いよ、騙されかけたのはちょっとだけ不満だったけど」
「そこは本当にごめんなさいね」
両手を合わせてごめんなさい、と繰り返されると流石に不満を見せる気も失せる。
「そろそろ着くわ。それぞれに魔力を解放しておいて、じゃないと弾かれちゃうわよ」
本当に何も無い方向へと歩いていき、急にそんなことを言われ、魔力を解放しつつ歩いていく。すると突然リナさんが何も無いところへと消えていく。
「消えた……?」
「何か、隠すような魔力が発動しているようだね。行ってみようか、エシュリア」
「う、うん」
先に歩みを進めた僕に着いてくるようにエシュリアも歩みを進める。すると何も無かったはずの空間に人々が行き交う町並みが広がった。
「ようこそ、ソルシエールだけの町、ソルセルリーへ」
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