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27:あたしも飛べるよ

エリオはその記憶の魔力から色んなことを教えてくれてちょっと性格はひねくれてるところもあるけど基本的には優しいところがある。それにあげた宝剣が魔力武具らしくて、使いこなしてる。


レイはとにかく強い。元々こんなに強かったんだって思うくらい強い。それに頼もしくて大人の男性としても成長してた。


シルルちゃんは魔力を手にしたばかりなのにとにかく純粋で、その気持ちを魔力に乗せてるのかな、あっという間に魔力を自分のものにしてる。とにかくレイの事を愛してる。そんな気持ちがよく見える。


みんな成長してる。魔力の使い方も、戦い方も成長してる。なのに、あたしは。


一度もちゃんと勝てたことがない。いつも守られて、いつもエリオと一緒で。エルリルに負けたから、一方的に追い詰められてボロボロになったから。怖くなってた。戦うことが、命を賭けることが。あたしは怖いんだ。


エリオはそんなの怖がってない。命に関わることなんて沢山されてたんだろうから。


レイもそう。エルリルにあんなにボロボロにされて、一度はエリオに刺されて死にかけたのにそれでも戦い続けてる。全部、シルルちゃんのためなんだと思う。


シルルちゃんもきっと死ぬのは、命を賭けるのは怖いと思う。それでも自分が死ぬことよりも自分が傷付くことよりも、シルルちゃんはレイが死んでしまうことが傷付くことが怖いから戦える。


……それじゃあ、あたしは?命を賭けられる?エリオに偉そうなことばっかり言って、あたしは何もできてない。あたしは。あたしは。


「目を覚ましてよ、エシュリアさん」

「シルル……ちゃん?」


パチンと響いた音に気付いて、我に帰る。右の頬がヒリヒリして痛い。あたし、シルルちゃんに叩かれたみたい。いつの間にかポイスドとエリオが呼んでいた女はシルルちゃんに吹き飛ばされていた。


情けないな、この子は年下でレイの話しじゃ、戦うことだって最初は出来なかったのに。今じゃこうしてあたしを叩いて励まそうとしてくれてるんだと思う。


あたしなんかよりしっかりしてる。


「なんで戦ってくれないの!なんで!!エリオも意識無くなってるの、このままじゃ……レイもエリオも死んじゃうんだよ!?」

「……あたしじゃ、役に立てないよ」

「エシュリアさんしかいないの!!シルルだけじゃダメなの、だから……っ」


あたししかいない、なんて言われても。レイもエリオも死んじゃう、なんて言われても。


あたしには自信が無い。シルルちゃんをちゃんと助けられる自信が無い。このままじゃダメだって分かってるのに、脚が動かない。手の力が抜けて短剣も落としそうになって、シルルちゃんにその手を握られた。


「落とさないで。エシュリアさん……ううん、リアは……エリオの事大事じゃないの?大事なら、助けたいって思わないの!?」

「思うよ……思うけど……怖いよ……死にたくない……」


またパチンと音がして叩かれた。どうしてシルルちゃん……シルルが泣いてるの。泣きたいのはあたしの方なのに。


脚の力が入らなくて座り込みそうになるとシルルが脇に腕を挟んで来て無理矢理立たせられた。そのまま、抱き締められた。


「シルル……?」

「あ、やっと名前呼び捨てにしてくれた。シルルはレイの事死なせたくないの、でもシルルも毒に侵されてて上手く魔力が使えないの、体力もちょっと足りないの。だからリアにいてもらわなきゃ困るの、死にたくないのはシルルだって一緒だよ。でも、シルルは自分以上にレイに死んで欲しくない。だから戦うの。大丈夫、リアも死なせたくない、シルルが死なせないから」

「……ほんとに?」


こくんと大きく頷いたシルルはあたしに一つの注射器だけを託してさっき吹っ飛ばしたポイスドへと向かっていく。その背中が頼もしく見えて、渡された注射器を眺めた。


注射器には本当に僅かに魔力がおさめられていた。シルルがどういうつもりでこれを渡したのか。分からない中でもシルルを信じて、左腕にその注射器の針を突き刺す。


打ち込んだのは多分シルルのスザクの魔力だと思う。あたしの中のセイリュウと混ざりあって、包み込むように青色の風が吹き始める。そして精神世界にシルルが触れた。


「あたしのこと、守ってくれてるの……?でも……守られてばかりじゃ……ダメだよね……」


シルルはポイスドの放つ蜂を全部落として、なんとか避け続けてるけど回復し切れてない毒が回り始めて、動きが鈍ってきてる。だから、あたしも行かなきゃいけない。シルルに全部押し付けちゃダメなんだ。守ってもらってばっかりじゃダメなんだ。


シルルが戦いの中でもあたしの精神世界に触れて、支えてくれようとしているのを感じて、やっと足を踏み出した。


青色の風があたしの背中を押してくれる、守ってくれる。だから、それに応えなきゃ、逃げてばっかりじゃダメ。


あたしだって、飛べるよ。シルルが遠くに行っちゃって、エリオはもっと遠くにいて、レイなんてもう見えなくて。だからあたしも行かなきゃ、置いていかれたくない。怖がってばっかりで立ち止まってばっかりじゃ、あたしはひとりぼっちになっちゃう。そんなのイヤだ。あたしもみんなに追いつきたい。


「シルル避けて!!」

「っ……うん!!」


青色の風を纏ってポイスドへと猛スピードで突っ込んでいく。シルルに避けるように指示して、そのまま両手に構えた短剣で体をグルグルと回転させながら斬りかかっていく。


多分蜂の魔獣も放たれてたっぽいけど全部関係無く切り裂いて、ポイスド本体を切り裂く。そのまま避けた時の勢いで転けて、立ち上がれなくなっていたシルルに左手を差し伸べた。その左手に治癒の魔力を込める。シルルの魔力に煽られて、いつもよりも治癒魔力が強くなってる気がする。掴んでくれたシルルの手にそのまま治癒魔力を流し込んでいくと安心したようにシルルは微笑んでくれた。


「はふぅ……やっといつも通り魔力が使えるようになった……ありがと、リア」

「お礼を言うのはあたしの方だってば。それじゃ、あいつを」

「うんっ、倒そう!」


手を繋いだままポイスドと対峙する。さっき聞こえたけどレイの身は十分しかもたない、あそこから七分くらいは経ってるから早くしないと毒に侵されて死んじゃう。だから急がなくちゃいけない。


さっきの回転しながらの切り裂きで結構なダメージは与えられたはず。だから次の攻撃に賭けて、レイとエリオの治癒に集中しなきゃいけない。


ふとシルルの顔を見るとニッコリと微笑んであたしの左手を両手で握っていた。そしてその両手に朱色の風を纏ってきたことに気付いた。


「え、シルル何する気!?」

「リア、行って来てーーーっ!!」

「わ!?わ……!?わぁぁぁあ!?!?」


一体全体どこにそんな力あったのっていう力でシルルに投げ飛ばされた。朱色の風の勢いで飛ばしてるんだと思うけどめちゃくちゃなことをされて焦っているとそのままあたしの体を青色の風が包み込んで行く。


もうこうなればこの勢いに乗って行くしかない。こうなればやけだ。両手に短剣を持って、纏った青色の風ごとポイスドへと一直線に突っ込んでいく。近づいて行くごとにあたしの両腕が魔力を纏って鋭い羽のように変わる。そのまま突っ込んでいって、ポイスドを魔力で貫いていく。


「シルルがヴァーミリオンスワローだから、リアはブルースワローだね!」

「い、いきなりはやめて……ビックリしたから……」


シルルの行動が心臓に宜しくない。命名ブルースワローの大技でポイスドはキランと空へ吹き飛んで行った。夜なら星になってたね。


今更心臓に悪過ぎてドクンドクンと分かりやすく脈打ってる。いきなりぶっ飛ばすなんてシルルは意外と思い切りがいい、いや、良過ぎる。


「と、とりあえず二人を治癒しないと……」

「もう始めてるよ〜!!エリオの分も蜂は倒しておいたから頑張って!」

「わ、分かった……」


そして行動力が凄すぎる。いつの間にかレイの頭を膝の上に乗せて、治癒を始めていた。レイとエリオの周りを飛び回っていた蜂の魔獣もいつの間にか全部いなくなってる。直ぐにエリオに駆け寄って、治癒魔力を解放してく。シルルの魔力も加わって、いつもよりも治癒がしやすい。


苦しそうに吐いていた息も少しずつ落ち着いてきた。顔色も随分良くなってきて、やがて穏やかな寝息を立て始めた。


「リア〜!!エリオは大丈夫〜??」

「大丈夫みたい、レイはどうなの?大丈夫?」

「息も落ち着いてきて、もう大丈夫そう。怪我も殆どしてなかったから解毒だけだったし、直ぐに終わったよ」


直ぐに終わったってサラッと言えるのが凄い。あたしはそれなりに時間をかけて治癒していたのにシルルはもうとっくに終わらせてたみたい。ほんとに敵わないな。


エリオを軽く引き摺りながら、レイを膝枕してるシルルに近付いて行く。いつの間にか元の姿に戻ってて、寝ているレイを見下ろして、穏やかに微笑んでる。


「そういえば急にリアって呼び出したけどどういう風の吹き回し?」

「へ?あ〜なんか、エシュリアさんって他人行儀かなって……でもエシュリアって長いから縮めちゃった!」

「あ、そういうことなの?」


えへへ、と微笑んでるシルルに聞き返したあとは何も言わなかった。すっかり疲れちゃったのか近付いたあたしの肩に寄りかかって寝てしまったから。


やっぱりこうやって見てるとシルルはまだ幼くて、あたしより歳下なんだってよく分かる。それと寝ててもいつの間にか握ってたレイの手を離そうとしない。本当に離れたくないんだね。


「シルル……ありがと、あたしも飛べたよ」


シルルの風があたしの背中を押してくれた。死ぬのが怖くて何も出来なくなっていたあたしの事を守るって言ってくれた、大丈夫って言ってくれた。


やっとあたしも飛べたよ。まだ弱くて小さい羽だけど、きっと追いついてみせるから。


「さてと、エスペラさんに連絡して空間転移してもらわないとね」


穏やかにシルルの寝顔を見ながら、テレパシーリングに魔力を込めて、エスペラさんに連絡を入れた。


ちゃんとみんなで帰らないとね。……ありがと、シルル。


ご閲覧ありがとうございます。

宜しければ評価、いいね、感想コメントなど宜しくお願い致します!

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シルル↔エシュリアが漸く仲良しになりました。一人だけ劣っていると思って自信を無くしたエシュリアを励ましてくれたシルル、相変わらず思い切ったことを思いついたら直ぐにやっちゃうタイプの子です。

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