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26:僕と毒蜂の罠


レイとシルルが診療所の方へ引っ越してから三日後。結局僕の脚もなかなか治らなくてエシュリアもずっと診療所に泊まり込んでいた。正直リナさんには少し悪い気がしたけど。それも今日で終わり。


無事にドクターから完治の報告を受けて、久しぶりにソルセルリーの外に出ることが出来た。僕がいない間に調査は進んでいて、周辺地図も作られていたから全て記憶に入れておいた。


そして今日は僕、エシュリア、レイ、シルルの四人で周辺にあった魔獣の巣と思われる洞窟に行くことになっていた。フウマが見つけてくれていたらしいけどライマとの二人だけだととてもじゃないけど対処し切れそうにない数の魔獣がいるらしい。


相変わらずシルルには距離を置かれており、レイにくっついたまま。エシュリアとは何をきっかけになのかは詳しく話してくれないから分からないけれど少しだけ距離を戻したらしい。聞いても絶対に教えないとエシュリアに言われてしまったから分からないし、それを記憶で読むのも流石に反則だから読まないけど。


「レイ、どの程度魔獣がいるか見えるかい?」

「ざっと数百匹、全部同じ蜂型の魔獣で全員色とりどりの花を持ってる……あと一匹だけ巨大なものがいるがそれ以外は小型。どうやらこの洞窟は蜂の巣、ということらしいな。正直見てるこっちが気持ち悪くなるんだが」


レイの白炎の瞳はどうやら洞窟程度の壁越しならある程度見通せる能力らしい。最早そこまで行くと素の視力に影響が出そうなものだけど意外なことに彼は素の視力も僕達の中で一番良い。だからこそここまで生かせているのかもしれないけど。


その瞳で見通したのは数百匹の魔獣、確かにそんなものが見えたら気持ち悪くなるのも分かる気がする。しかも小型の魔獣となれば余計に。


「とりあえず殲滅向きなレイとシルルが前線で一気に片付ける感じで頼めるかい?」

「構わないが……残った分は頼むぞ」


小型の魔獣が多数となれば一気に殲滅が可能なそもそも攻撃型属性のレイと攻撃範囲の広いシルルを前線に行かせて、水属性、しかも半分ずつしか持たない僕とエシュリアは前線の二人が逃がした分をきっちりと倒すのが最善だと思う。


その考えの通り、無数の矢を放ち、相変わらずコアだけを的確に撃ち抜くレイと最近半分だけ魔獣化するというとんでもない魔力の使い方を編み出したシルルが大方の魔獣は片付けてくれた。


とんでもない、と言ったけれど神の魔力を自らの身に宿して魔獣化するという時点でそもそも聞いたことも無い魔力の使い方だったし、それをコントロール出来ているのもまた恐ろしかった。にも関わらずその魔力を凝縮して、肉体の半分だけを魔獣に変える方法まで編み出しているのだからとんでもない事をやってのけている。もしかしたら本人は全く自覚が無いとは思うけどシルルもまた魔力コントロールに長けた才能の持ち主なのかもしれない。絶対自覚は無いと思うけど。


二人が殲滅しそこなって残った分は思っていた以上に少なかった。数百匹の魔獣をあの二人だけで八割、いや九割は片付けている。そして残った一割を僕とエシュリアでしっかりと残さず片付けていく。


「エリオ……あたし、役に立ててる?」

「いきなりどうしたんだい?」


残った一割とはいっても数十匹。それを黙々と片付けていると急にエシュリアに話しかけられる。役に立ててるか、そんなことを聞かれても。


何となく様子がおかしいエシュリアがなにか答えようとした瞬間にシルルが吹かせたであろう朱色の風が辺りを吹き抜けて、声が届かなくなってしまった。エシュリアは何を言いたかったんだろうか。


レイとシルルがどんどん前に進んでいくことですっかり二人の姿が見えなくなって、風も止んだところで聞き直そうとすると今度は前の二人が逃した分の魔獣に遮られてまたエシュリアの声が聞こえない。羽音がうるさ過ぎる。


置いていかれないように歩みを早めなくてはいけなくなって、余計にエシュリアと話が出来ない。本当に一体何を言うつもりだったのだろうか。


追いついた頃には殆どの魔獣がレイとシルルによって殲滅され、残っていたのは僅かな数と最奥地にいた巨大なサイズの蜂、女王蜂といったところか。


でも既に虫の息だった。女王蜂には無数の矢が羽に突き刺さって壁に磔にされていて、残されていた僅かな小型もいまシルルが全て纏めて殲滅した。


わざわざ磔にしたのは逃げられるのを防ぐためだろう。この最奥地は吹き抜けになっていて、見上げると空が見えるからそのままにしておくと逃げられる可能性があった。尚且つさっきまでは小型の魔獣がいたからコアも狙いづらかったのかもしれない。


そして今目の前でレイの放った矢が女王蜂のコアを貫いたことで消滅。この洞窟にいた無数の蜂はあっという間に殲滅された。


「意外と呆気なかったな」

「ん〜まだ動けるよ〜!」


一体全体どういう体力をしてるんだ。そもそもあの数の魔獣を殆ど殲滅して、女王蜂もしっかり討伐しているというのにレイもシルルもまだまだ行けるとばかりに元気そうにしている。シルルの場合は空元気っぽさもあるけど、レイは涼しい顔をしてそんなシルルの頭を撫でている。


そんな二人の姿を僕の後ろから眺めていたエシュリアはどこか悲しげな表情をしていた。そういえば結局エシュリアの話はなんだったんだろうか。


聞こうとレイとシルルに背を向けたその瞬間。視界がグラりと揺らいで脚が震えて、その場に立っていられなくなった。そしてそれと同時に後ろからもドサリと倒れる音が二つ聞こえる。


視界がぼやける、その中で見えたのはゴホゴホとむせて血を吐いて倒れているレイとその隣で倒れているシルルの姿だった。一体、何があったと言うんだ。


そう思った矢先、レイの前に鈴蘭の紫色の着物を着た紫と黒のオッドアイの黒い髪の女性が現れた。あいつは確か。


「ポイスド……お前何をした……!」

「ふふっ、覚えとるもんやなぁ?妾はポイスド。さっきの蜂は妾の傀儡じゃ、毒は沢山撒き散らしてもらったで?」


レイのコートの襟を掴み、持ち上げたポイスドは掌から先程まで飛び回っていた小型の魔獣より更に小さな蜂を生み出し、そのままその針をレイの首筋に突き刺す。


ポイスド、僕の記憶にもあるその姿は実験の際に見たもの。毒を生み出す魔力を持っていて、僕の記憶を利用して様々な毒を作らされ、テストのために打ち込まれた。全て僕の記憶から作った解毒薬で打ち消したけど。けれど、いま僕を襲っているであろう毒はあの時は知らない毒。解毒薬を作ろうにも頭にモヤがかかって上手く魔力を使えない。


針を刺されたレイは意識を失い、シルルから遠ざけるように放り投げられる。その周りに守るように無数の小型の蜂の魔獣が舞う。


「蜂達は花を持っておったじゃろ?あの花一つ一つに毒を仕込んで花粉を撒き散らしたのじゃよ。全てを吸ったであろうあの王子様は臓器を全て侵され、いま刺した針で魔力も封じた。それにお主も魔力は使えんよ。もうひとつ教えてやろう、女王蜂の撒き散らした毒は猛毒……もってあと十分といったところじゃ」


高笑いしながら僕を踏み付けたポイスドは目の前で朱色の風に吹き飛ばされた。いつの間にかふらつきながらもシルルが立ち上がっていた。


ポイスドはわざとレイを狙ったのだろう。彼がいるといないとで正直状況は大きく変わる。それだけレイは強くて頼もしいということだ。僕もあの時……メリディを守ろうとしていた時に分かった。レイがいると状況をひっくり返せないと思ってしまうほどに強い。


しかし持っている魔力を全て攻撃に回しているからなのか基本的に防御力が低く、打たれ弱い。これに関しては心身ともにといったところだけど。それでも反則級の強さなのは確かだ。何せ、僕、ライマ、フウマ、エシュリアの四人で挑みほぼ敗北したフリードをたった一人で一方的に倒した。だからこそなのだろう、帝国もレイの事はかなり警戒している。そして僕もそうしたけど変則的か奇襲的な戦法に弱いから仕掛けてきたのだろう。


そして多分次に警戒されてるのがシルルだと思う。研究所所長サイフォードとやらを倒しているし、今も毒に侵されているはずなのに立ち上がっている。多分、あの半分の変身の間マスクを付けているから毒をあまり吸わずに済んだのだろう。レイを狙うのはシルルを潰す意味もあると思う。二人は互いに依存している、互いを支え合っている。だからどちらかを潰せば、もう片方も潰せると思われているのだろう。


何にせよ、僕とエシュリアだけ残せばポイスドは一方的に倒せるとでも思ったのだろう。


「こほっ……こほっ……うぅ……くるし……でも……レイのために、シルルは……っ!!」

「この小娘が……っ!!ん?なんでそっちの小娘は立っているのじゃ……!?」


小さくむせながらも苦しみに耐えて立っているシルルに対して、僕の後ろにいたエシュリアは苦しむことなくその場に立っていた。でも、短剣を構えることなくただ眺めているだけだった。


「エシュリアさん……っ!!手伝って、シルルだけじゃ……っ!」

「……あたしは……」


後退りしてエシュリアはシルルの手伝いをしようとしなかった。多分僕の後ろにいたから毒をあまり吸わなかったのだろう。戦えるはずなのにエシュリアは動こうとしない。まるで戦うことを拒否するように。


そんなエシュリアに小型の蜂を無数放ったポイスドを見て、シルルは走り出していた。そしてそのまま覆い被さるように庇う。


「ぁう……っ……!!い、た……い……っ」

「馬鹿な子……その蜂は当たった対象を溶かす毒……痛いやろ?苦しいやろ?」


咄嗟に庇ったシルルの背中の翼に取り付いた蜂はそのまま翼を溶かし始める。痛みに苦痛の声を上げたところで漸く我に帰ったのかエシュリアがその翼を回復。更にシルルの毒も少し回復してくれたのかその苦しげな息が落ち着く。


それでもエシュリアは攻撃に転じようとしていなかった。回復して落ち着いたシルルを見上げたまま、握り締めた短剣を見つめて、その刃を下ろした。


そろそろ僕自身も毒が回ってきて、意識がもたない。いつの間にか僕の周りにも無数の蜂が守るように飛び回っていた。そこからも毒入りの花粉が撒き散らされていたのか頭がボーっとして来た。


そんな中で鮮明に聞こえたのはパチンっ、という音。そして最後に見えたのは右の頬を赤く染めたエシュリアの姿だった。

ご閲覧ありがとうございます。

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王子様はチート過ぎるので不意打ちでやっつけ得というのが明らかになりました、というか前からそうですね、はい。ボロボロになりがちなんですが単純に強過ぎてバランスブレイカー過ぎるので退場してもらう事が多いというかいや、書いといてなんですけどほんとに王子様バランスブレイカーなんですよね。四対一で四が負けてるのに相性もあるんですけど一対一で勝ててるので。


チート王子様はさておき、次回は今までまともに戦っていなかったエシュリアのターンです

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