表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/30

22:僕達と氷のソルシエールの戦い


随分と立派に凍りついている、とやってきた町を見回しながらその氷の材質を調べた。


一緒に来たエシュリアが寒がっているから記憶からモコモコが首元についたコートを作り出して着せてあげた。ざっと気温は-5℃といったところか。はぁ、と真っ白な息を吐いた。


僕達は今、前のソルセルリーがあった位置の近くの町べリエに来ていた。事の発端はエスペラさんの話。


「べリエの町が凍り付いている?」

「そう。そもそも帝国には三従矢っていう幹部がいるのを知っているかしら?ゲンブのエルリル、研究所所長サイフォード、ここまでは私も知っていたのよ。でも、ルージュが偶然通りかかったサイフォードの思考を透視した結果。三人目を解放しようとしているのを知ったのよ」


三従矢、というのはエルリルが名乗っていたとエシュリアの記憶から読んだから知っていた。まさかその内一人が研究所所長の男だったとは思わなかったけど。そして更に三人目の存在も明らかになった。


三人目の名前はフリード。氷の魔力を持つ男らしく、高過ぎる魔力を常に体から放出しているらしい。過去の文献にあった大陸北の凍り付いてしまった土地というのはこの男が原因で出来たものなのだろう。


そして二百年前にフリードはあまりの魔力の高さを理由に研究所の地下に幽閉された。その男を解放したのだという。


「私達が逃げ出してきたのはこのことを一刻も早く伝えるためだったのよ。このままではフリードによってこの大陸は全て凍り付いてしまうから」

「なるほど……本来氷が相手となればレイが適任なんだけど……」


ぎゅうとレイを抱き締めて、ぶんぶんと首を振るシルルの様子を見るにまだ暫く動けないということなのだろう。そうなるとどう出るかが大事になる。


炎の魔力の使い手はリナさんもいるけれど相手の魔力が高過ぎるとなると普通の炎の魔力では太刀打ちできないかもしれない。かといって僕とエシュリアだけというのも厳しいものがある。となると頼れそうなのは。


「お〜い、なにか見つけたのか〜?」

「こっちは何も〜?そっちはどうなんだい!」

「こっちにも何もねえよ〜!!」


思い浮かんだのは四神には劣るものの神の魔力である風神と雷神のフウマとライマ。別の方向で探索していた二人と合流して、記憶の中のべリエの町の内北と東にバツマークをつけた。あとは南と西か。


ソルセルリーから離れた町にいるがそれはエスペラの空間転移とテレパシーリングを利用してのもの。元々四人が限界だったことから僕、エシュリア、フウマ、ライマでべリエに飛び僕とエシュリアが北、フウマとライマが東をさっきまで探索していた。


「それにしてもほんとにまだこの町にいるのか?」

「僕にも正直分からない。それに……元々この町にいた人たちは一体どこに……」

「確かに……どこに行っちゃったんだろう……?」


北側を探索したけれどどこにも人っ子一人見つからない。べリエの町は僕の記憶の通りなら村人は普通にいるはず。一体全体どういうことなんだ?


フウマ、ライマと話を終えたあと僕達は南側へ、二人は西側へそれぞれ探索をしに向かった。


南側にも人は全然いない。本当にどういうことなんだ、このべリエの町はどうしてしまったというんだ。どれだけ歩き回っても誰もいない。本当にどういうことだというんだ。


エシュリアと共に疑問を抱きながら歩き回っていると西側へ向かったフウマからテレパシーリングに連絡が来た。


「フリードと思わしき男を発見!!ただいま交戦中!!」

「場所は!?」

「西側の……っ!!ぐぁぁぁあっ!!!」

「フウマ!?」


叫び声とともに連絡が途絶えた。エシュリアも今の声が聞こえていたらしく、顔を見合わせて西側の方へと走り出した。


その道中で僕はとあることに気付く。よく見れば人がいた形跡はあった。しかし不思議なことに凍り付いた靴ばかりが残されている。不自然な形跡に余計に人々がどこへ消えたのか、その答えもフリードの元にあると信じてエシュリアと共に走る。


「フウマ!!ライマ!!」


辿り着いた先、そこには白色の長髪の男がフウマの首を掴み、魔力を発動させている様子があった。更にその足元には右脚が凍り付いたライマが倒れ込んでいた。


魔力が発動し、フウマの体が凍りついて行く。そこへ横槍を入れるように這いつくばりながらも魔力を発動させたライマが救い出していた。


慌ててエシュリアが短剣を持って駆けていき、その隙にフウマとライマを救い出すことに成功した。


「ジャマすんなよなァ?ちっ、飯がまずい……」

「……!?」


あぁ、そういうことか。この町の人達がいなかった理由。


後ろへ飛んだフリードは足元に転がっていた凍り付いた町の住人の右腕をもぎりとり、バクバクと食べ始める。よく見れば他にもパーツが欠損した凍り付いた住人やバラバラになった凍り付いた住人がある。


こいつ……凍らせた人間を食べているというのか。


「酷い……っ……」

「ンだァ?文句あんのかァ?人が二百年ぶりの食事してんのによォ、めんどくせェ……」


水色の目がギラりと光を放った瞬間、フリードの背後から猛烈な吹雪が僕達に向かって襲い掛かる。あまりの雪の量で前が見えない。視界が閉ざされ、完全に見失った瞬間、目の前にフリードが現れた。


咄嗟に避けようと後ろへ飛ぼうとしたが吹雪のせいで上手く飛べず、フリードに左腕を掴まれ、一瞬にして凍りついた。


更に地面にも魔力が放たれ、突き出した氷柱が僕達四人に襲い掛かる。吹雪に氷柱を合わせられ、まともに動けない中、ダメージだけが蓄積される。


更に氷柱が当たった場所から体が凍り付く。手も足も出せない……このままじゃ僕達も町の人達みたいに喰われる。


「大丈夫……あたしが治すよ!!」


吹雪と氷柱の中魔力を解放したエシュリアによって、凍り付いた僕達の体が元に戻っていく。それでも吹雪と氷柱のせいでまともに動くことが出来ないことに変わりはない。


フウマが僕の後ろで魔力を解放しているけれど、吹雪に押されて竜巻がまともに打てていない。神の魔力よりも勢いが強いのか。ライマも雷の魔力を解放して、氷柱を縫って電撃を放っているがどうやらフリードは氷の盾を貼っているのか聞いていない。


このままじゃエシュリアの魔力が切れて全員氷漬けにされる。記憶の中を探り、賭けに出る。正直魔力消費も激しいからあんまりやりたくなかったんだけど、やむを得ない。


吹雪の中宝剣を取り出して、構える。記憶から引き出したのは。


偽白炎斬(ファルス・はくえんざん)!!」


引き出したのはレイの白い炎の記憶。宝剣が纏った白い炎は吹雪を押し返し、氷柱を燃やし尽くしていく。やはりレイの炎なら効く。


これなら行ける。但し神の魔力を記憶から引き出しているから魔力の消費が激し過ぎる。本人を連れてくるのがやっぱり一番だったんだろうけど、結果論だから仕方ない。


吹雪も氷柱も燃やしたからこれで反撃は出来る。宝剣にセイリュウの魔力を纏わせて斬りかかっていく。更に続いてエシュリアとフウマも動き出す。


フウマがライマの足元に竜巻を発生させ、その勢いで飛び上がって両手に持った電撃の鞭を叩き付けに行く。


しかしフリードは氷の球体状のバリアを発生させ、僕とライマの特攻をガードした。それでも球体状のバリアの隙間から水化したエシュリアが飛び込んでいた。


「ジャマすんじゃねェよ!!」


怒りのこもったフリードの叫びが響いた瞬間球体状のバリアが弾け飛び、中から全身が凍り付いたエシュリアが転がり落ちた。そのまま踏み割ろうとして脚を振り上げたところで咄嗟に再び白い炎を纏った斬撃波を飛ばし、エシュリアから無理矢理フリードを引き離し、救出に成功した。


しかし完全に凍り付いてしまっている。もうエシュリアの回復は望めない。それに咄嗟に白い炎の記憶を引き出してしまったため更に魔力を消費している。使えてあと一回。


未だにろくなダメージすら与えられず、こちらだけが消耗している。倒せなくとも逃げる隙を作りたいけど……そうなるとこの一回は大切に取っておくしかない。


「フウマ、ライマはまだ動けるかい」

「正直オレの魔力が愛称めちゃくちゃ悪いっぽくてな。サポートに徹するから二人で何とか逃げる隙を作ってくれ」

「兄さん頼む……!」


確かに風と氷は相性が悪い。フウマはサポートに徹するのが最善だと思う。


今のところ見たフリードの魔力は猛吹雪と地面から生やす氷柱、更に球体状のバリアの防御。上手く近付いて、その記憶を消せればチャンスは出来るはず。


フウマにその事は伝え、再び猛吹雪と氷柱のコンボが来る前に足元に竜巻を発生させてもらう。


「行けっ、エリオ!!」


竜巻の勢いで飛び上がり、一気にフリードとの距離を詰め、右手を突き出す。その隙に地上からはライマが電撃を放って注意を引いてくれていた。


数秒で良い、フリードに魔力をぶつけられれば僕が記憶している魔力の使い方は忘れさせることが出来る。


少しずつ右手がフリードに近付いて行く。しかしその瞬間、僕に気付いたフリードは右腕に氷を纏い、剣のように変えて、思い切り振るった。


「避けたかァ、だがもう近づけねェよなァ!!」


体勢を崩しながらもなんとか氷の剣を避けたけど再び発生した猛吹雪に煽られ、ライマのところまで吹き飛ばされてしまった。


猛吹雪を消すには白い炎を記憶から引き出すしかない。あと一回しか使えないのにここで使うべきなのか、悩みながら猛吹雪の中立ち上がる。また地面からは氷柱が生え始めていた。


氷柱に触れればその場所が凍り付いてしまう。避けながら動こうにも猛吹雪でまともに動けない。隣にいるライマも同じ状況で電撃を放とうにも猛吹雪に掻き消されてしまう。


フリードから魔力の使い方の記憶を消せれば良いんだけど、相手の警戒心が高過ぎてその隙が無い。エルリルの時のように隙さえあれば遠距離でも記憶は消せるけど警戒心の高い相手には近付くしかない。それが出来ないとなるとまずい。


「ライマっ、あと一回だけレイの炎の記憶を使える、使った瞬間フウマに頼んで飛ばしてもらってフリードの動きを止めてきて欲しい」

「分かった……兄さん頼んだ……!!兄さん……?」

「しまった……っ」


フウマからの返事が来ないことに気付き、ライマと共に振り返る。そこには全身が凍り付いたフウマといつの間にか僕達の背後に回り込んでいたフリードの姿があった。


この猛吹雪の中、フリードは自由に動くことが出来る。しかも気配すら感じさせずに。


凍り付いたフウマの姿を見たライマは激昂、両手に電撃を溜め、無計画に殴り込もうとしていた。しかし、フリードの姿は吹雪の中に消え、代わりにライマの背後に回り込んでいた。これもフリードの魔力の使い方の一つだというのか。


「ライマを離せ!!」


背後に回り込んだフリードはライマの頭を掴んでいたのが見えた。宝剣を片手に斬りかかって行くがライマを盾に使われ、ピタリと寸前で刃を止める。そして目の前でライマが一瞬にして凍り付いて行く姿をただ見ていることしか出来なかった。


「ただこの距離なら……っ!!」


わざわざ近付いてきてくれたんだ。この好機を生かすしかない。宝剣を投げ捨て、右手をフリードに向かって突き出しながら魔力を解放。記憶を無理矢理共有し、僕の記憶の中にあるフリードの戦い方を消すことで共有した相手の記憶も消そうと目論む。


しかしその前に突き出した右手を掴まれ、フリードも魔力を解放。右手から僕の体が凍り付き、全身が凍り付く前に退避するために仕方なく使いたくなかった最後の一回の白い炎の記憶を引き出す。


偽白炎射(ファルス・はくえんしゃ)!」


左腕に記憶の魔力で作り出したボーガンを装着、レイの白い炎の矢をイメージし、至近距離でフリードに向かって放った。


白い炎は防御出来ないフリードは猛吹雪の中に消えることで逃げようとしていた。しかし、白い炎は猛吹雪も燃やし尽くす。逃げ回るフリードを記憶の魔力で足した追尾能力で追いかけ回し、吹雪も氷柱も貫き、そして勢いを失わないまま、フリードを貫く……はずだった。


フリードは全身が凍り付いたエシュリアを抱えていた。白い炎は悪しきものしか燃やさない、とはいえ矢そのものはダメージになる。このままエシュリアごと貫くわけにはいかない。なんとかそのまま上手く背中側に回せないかと操作しようとしたけど僕にはそこまでのコントロール技術は無かった。


「卑怯者め……っ 」

「知らねェよ、それよりも万策は尽きたかァ?」


上手く操作出来なかった矢は消え去り、思わず出た悔しげな表情を見られたらしい。


凍り付いたエシュリアを投げ捨てたフリードは再び猛吹雪を展開、咄嗟に見える内に矢を創造し、ボーガンから打ち出すが勿論猛吹雪に弾かれてしまった。


そして目の前にフリードの姿を見て、次の瞬間胸部に強い痛みを感じる。


「ただ凍り付かせるのも面白くねェからな!!」


どうやらあの腕を剣に変える使い方で胸部を斬られたらしい。更に氷柱が足元から生え、右太腿を貫いた。


寒さでどうやら感覚が狂い始めているらしい、痛みすらまともに感じられず、視界がぼやける。もう何度斬り付けられたか分からない。


「安心しな、すぐに喰ってやっからよォ」


体が凍り付く気配を感じる。このまま喰われて終わるというのか。


白炎斬撃波(はくえんざんぱ)!!」


聞こえるはずの無い声が聞こえ、ぼやけた視界の中で猛吹雪が一瞬にして溶けて消えていく。更に僕の事を心地よい朱色の風が包み込み、凍り付き、傷付いた体が回復していく。


同時にエシュリア、フウマ、ライマも朱色の風が包み込んでいた。どうして、ここに。


「レイ……それに……シルルまで……」

「助けを求めたのはお前の方だろ」

「え……?」


開けた視界の中、そこにいたのは診療所に残ったはずのレイと彼に着いていたシルルだった。

ご閲覧ありがとうございます。

宜しければ評価を宜しくお願い致します!

励みになります!


三従矢(さんじゅうし)最後の一人氷のソルシエールフリード登場。最後の一人と言いつつエルリルじゃない方の人も17の冒頭にしか出て来てません。

本来ならばレイを連れていきたいところを置いていかざるおえない状態となり出向くものの大ピンチに。

次回王子様オンステージ、ということで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ