18:あたしが見た本気の王子様
突然地中に落とされてどうしようと慌てていた時レイに抱き抱えられて助けられた。あのまま慌ててたら多分そのまんま落ちて大怪我してたから本当に有難い。
抱き抱えながら脚に白い炎を纏わせて短時間だけ飛ぶことで少しずつ降りて着地。下ろしてもらった。それにしてもここは何処なんだろう。エリオとシルルちゃんの姿は見当たらないってことははぐれちゃったってことになるし。
「とにかく前に進み、合流を目指す、それで良いか?」
「良いよ、とにかく立ち止まらないで進まないとね!」
万が一何かに出会した時に備えてレイがあたしの前を歩いてくれた。その進める足はどこかいつもよりも早足に見えた。……早くシルルちゃんに会いたいってことだよね、ちょっと急いでるのは。
シルルちゃんはまだエリオとは二人きりで動いたことも無いし、そこまで心を開いてる様子も無い。正直そういう事を考えるとあたしも不安だよ。エリオは出会った頃よりは人間として成長しているとは思うけど、シルルちゃんに何か余計な事を言ってたりとかしないか心配。慣れてない人に変な事を言われてシルルちゃんが傷付いていないか心配だし、それがレイに伝わった時に喧嘩とかされても困る。
お願いだから余計な事は言わないでシルルちゃんと仲良くしてて欲しい、そう願いながら歩き続けるとあたし達は開けた場所に出た。そしてそこで待ち受けていたのはサンディードだった。
「0105がいねえ、運が良いんだかわりいんだか分からねえな……?まあ良い、誰だろうと」
「邪魔をするなら斬り捨てる、こちらから仕掛けさせてもらおうか……!」
正直このタイミングでレイに喧嘩を売るのは自殺行為だと思う。シルルちゃんに会いたくて仕方ないであろうあの早足の移動、あといま物凄くキレてる様な声色になってる。あたしは下手に手を出さない方が良さそう。邪魔になっちゃうだろうし、何より水属性は確実に雷属性との相性が悪い。ここで酷いダメージを受けて、エリオに心配もかけたくないし、あたしが動ければレイがダメージを受けても回復してあげられる。
喋っている隙に懐へと一気に飛び込んで、レイは一気に油断しているサンディードを斬りあげ、更にはその無駄に長い脚……いつも思うけどほんとに無駄に長い、その脚を振り上げて、斬りあげたサンディードの腹部に思い切り振り下ろす。痛そう。
「喋っているところに攻撃するのは反則だろお前!!ちっ……神鳴!!」
「そんなルールが、通じると思うな……!!」
片腕で腹部を押えながらもう片方の腕から解放した魔力で放たれた電撃を飛び上がって避けた上でレイが放った矢は空中で無数に分かれてほぼ全てサンディードへと向かっていく。残りの矢は何故か全然違う地面に向かって突き刺さる。そこから魔獣の呻き声が響き渡る。
「な……っ!?」
「魔獣を隠しておいていざという時に使おうとしたのだろう?この開けた場所に来て直ぐに見渡して気付かせてもらった、さて、さっさとそこを退いてもらおうか」
サンディードはこの空間にモグラの魔獣を隠していたみたい。それを白炎の瞳で見通したレイはいまの無数の矢でぜんぶコアを撃ち抜いて倒しちゃったみたい。声はキレてるのにいつもよりもずっと冷静だし、いつもよりもずっと強い。もしかしてこれが本当のレイの実力ということになるの?元々強いとは思ってたけど。
降り注ぐ矢を何とか電撃で相殺しながらも魔獣を失い、狼狽えるサンディードに対して、レイはまだまだ攻める。低めの体勢で近付き、両脚を右脚で払い相手の体勢を崩し、右腕を左手で掴み、力の限り壁に向かって投げ飛ばす。……そんなパワーあったのレイ……。と思ったけどよく見たら左手に白い炎を纏わせてる、火の勢いで飛ばしたってことね、多分。
壁に飛ばされたサンディードに更に矢を放って、衣服に突き刺すことで壁に磔にして、物理的に退かすことに成功。……倒せてないけど退いてはいる。
「行くぞ、エシュリア」
「え、置いてくのあれ!?」
「今は別に倒す必要無いだろう」
ふぅ、と仕事を終えたように息を吐いて、レイは入ってきた方とは逆側の通路へと向かって歩き出す。あくまでも倒すんじゃなくて退かすのが目的だからこれで良いのかなぁ。勿論サンディードは諦めてなんていないけど。
「お前……っ!!調子に乗るなぁぁあ!!!」
体から放電することで衣服に刺さった矢を消し去り、壁から解放されたサンディードは電撃を鞭のように振り回し、レイへと駆けていく。なのに全く振り向く気が無いしなんなら避ける気配すら無い。なんなら弓を持っていない方の手はコートのポケットに入れちゃってる。勿論後ろにいるあたしなんか見てないサンディードはレイだけを見て鞭を振るう。
鞭を振り上げ、レイに叩きつけようとしたその瞬間。サンディードを複数の矢が一気に貫いた。左足首に刺さったことで体勢を崩して、そこへ無慈悲なまでに矢が刺さり、サンディードは吐血して倒れそうになる。それでも、右腕をつき、倒れようとはしなかった。そのサンディードをいつの間にか近付いていたレイが見下ろしていた。
「さっき撃った矢の残りだ、天井に刺しておいて、お前が最後の足掻きをすることを読んでいた。死にたくなければ、諦めろ」
怖い。レイの声がめちゃくちゃ怖い。完全に怒らせてる。しかも喋りながらしっかり白い炎を纏わせて斬りつけてる。すっかりボロボロのボロ雑巾みたいになっちゃったサンディードを見下ろし、意識が無くなったところで向かっていた出口の通路から誰かが現れたことに気が付いた。
気配に気付いたらしいレイもそちらを向くと今まで纏っていた怒りのオーラがフッと消えた。だって、そこにはシルルちゃんがいたから。
「シルル!!」
走り出したレイはシルルちゃんを抱き締め、ほっとした様子で息を吐いていた。良かったね、レイ。
まあ……ボロ雑巾サンディードはご愁傷さまってことで……と思っていたらさっきサンディードの隣にいた男が駆け寄り、その後ろからエリオも駆け付けてきた。そのまましゃがみこみ、サンディードの額に右手をかざしていた。
「エシュリア今すぐ回復!死なせたらダメだこの人は!」
「え、そうなの?わ、分かった……!」
サンディードの状態に焦ってるエリオに指示されて慌てて魔力を解放して、回復し始める。もう一人いた男の人も焦った様子でボロボロのサンディードを抱き抱えている、どういう関係性なんだろう。
レイが付けた傷を丁寧に治癒して、その間にエリオも魔力を解放して何かを行っていた。多分記憶にまつわる何かみたいで時折サンディードは苦しげに息を吐いていた。……単純に死にかけてたって言うのもあるとは思う声だけど。
治癒も終わった頃にエリオのやっていた事も丁度終わって、意識が戻ったサンディードは何度か瞬きをして、自分を抱き抱える男の人を見て、一筋の涙を流した。
「フウマ……兄さん……?」
「そうだオレだ……!良かった……ライマ……!!」
「……なにこれ感動の再会?」
「そう、五年間近くにいたのに兄弟として会えなかった二人の感動のね。ところでライマはなんであんなにボロボロだったんだい?」
抱き合うサンディード改めライマとフウマという人は兄弟らしい。何でも帝国に洗脳されて五年間近くにいたのに兄弟として認識出来ないままそれぞれに過ごしていたらしくて、四つの神の魔力を守護する風神と雷神の魔力の持ち主、所謂特別なソルシエールだったみたい。しれっと右手を握られていて流し込まれた記憶で二人の関係性を知ったあとでライマがボロボロだった理由を聞かれて、思わず乾いた笑いが出た。
あれ説明していいのかなぁ。シルルに会いたくてレイがキレてボコボコにしてました、なんて。と思っていた矢先あたしの笑いを聞いて記憶を読んでくれたみたいでエリオはシルルちゃんを抱き締めているレイを見て同じく乾いた笑いを浮かべていた。
「シルルも結構強かったんだよね……愛は強しってところかな?」
「そうなるよね……愛は強し……ってエリオからそんな言葉が出るなんてね」
「あの二人の関係性を表すにはそれしか無いだろう?」
確かにその通りではある。というかシルルちゃんも似たようなことをしたって事だよね今の口ぶりだと。エリオからそんな言葉が出てきたのは正直意外だけど。
とりあえず無事にサンディードとウィンディードとやら、改めてライマさんとフウマさんを倒し……てはいない、洗脳から救い出したは良いけれど。そういえばここからどうやって出ればいいんだろう。落とされたところに戻っても結構地下深くまで掘られてるから難しい気がする。
そんなあたしの疑問はとんでもない力業で解決した。
「シルルちゃんにフウマの魔力纏わせて天井に突進させる!?!?エリオそれ本気で言ってるの!?」
「本気も本気。同じ風属性の神の魔力だからね、合わせればかなり魔力になる。穴が開いているところに戻る時間も惜しいし、これが手っ取り早いと思うけど?」
「そもそもシルルの足に掴まるとしても持ち上げきれるのか?」
「それもフウマの魔力で解決出来るよ、下に向かってフウマが思い切り竜巻を放てば勢いで飛び上がれるはず」
エリオの考えた作戦は今いる広間の天井に向かってフウマさんの魔力で強化された魔獣化したシルルちゃんが突進して、その脚に掴まって脱出するというとんでもない力業だった。確かに手っ取り早く帰りたい気持ちはあるけどシルルちゃんの負担があまりにも大き過ぎる。説明されてもあたしは賛成出来なかった。
それでもシルルちゃん本人が意外なことにやる気満々で既に魔獣に変身してるんだけどね。レイも本人の気持ちを尊重したのか反対は結局しなかった。
「みんなしっかり脚に掴まってね!離したら落ちちゃうからね!フウマさん、お願いしま〜す!!」
「分かった……ほんとに上手くいくのかこれ……?」
物凄く不安そうなフウマさんを他所にみんなでシルルちゃんの脚にしがみつき、それを確認したところで浮上開始。それと同時にフウマさんが魔力を解放して、シルルちゃんに竜巻を纏わせる。更に地面に向かって別の竜巻を放つことでかなりの勢いが生まれる。そのまま物凄い勢いでシルルちゃんは天井に向かって突進していく。
「いっけーーーーっ!!!」
だからなんでそんなに乗り気なの、と突っ込みたいけど今口開けたら絶対に舌を噛むからそれはやめておく。とんでもない勢いのまま天井をぶち破っていくシルルちゃん、フウマさんの魔力のおかげで降ってくる土片とかは届かないもののかなりの勢いに掴んでいる手が震える。エリオってば思い切りのいいアイデア過ぎるよこれは。
「だっしゅ〜つ!!」
勢いのまま進んでいって、遂にシルルちゃんは地上に到着。エリオの作戦は成功したということになる。とんでもない力業だけど。
無事に到着して、元の姿に戻ったシルルちゃんはそのまま糸が切れた人形の様に倒れ込んでしまった。慌ててレイが受け止めて抱き抱えてるけど、やっぱり流石に疲れちゃったみたい。フウマさんも魔力を一気に使って消耗して、ライマさんに肩を貸してもらってる。それぞれに消耗したりしてる中あたしだけ何事も無い状態なのは何となく気まずい。
「……!?おいっ、なんで見えるんだ……!?」
「見えるって……っ、なんで!?ソルセルリーが見える!」
帰ろう、と真っ先にソルセルリーに向かおうとした元々目の良いレイが見たものを直ぐに振り向いたあたしもぼんやりとではあるけど見ることとなった。本来見えるはずの無い、隠れているはずのソルセルリーが何故か普通に見えてしまっているのだ。
あたし達の焦りようにソルセルリーを知らないフウマさんとライマさんは顔を見合わせて戸惑っていたから、エリオが二人に纏めてソルセルリーの事についての記憶を読ませてくれていた。その記憶を見て、事の重大さに気が付いてくれて、二人も連れて、あたし達はソルセルリーへ大急ぎで帰った。
シルルちゃんを起こさないようにしてるからレイが一番後ろでフウマさんに肩を貸しているライマさんがその少し前、あたしとエリオが一番前を走って、辿り着いたソルセルリーで待っていたもの。それは。
「……姉、さん……?」
あの日エリオの前から姿を消したはずのお姉さんの姿だった。
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サンディード(ライマ)まさかのボコられるの巻。シルルと離れ離れになったレイに喧嘩を売るとこうなります。愛の力は強しってことで。