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11:私と朱雀の持ち主

二日後。目を覚ました私は見慣れない天井を見ながら、ゆっくりと起き上がった。まだ腹部と後頭部が痛い。治癒の魔力をかけられた感覚はあるがそれでも治り切っていないということか。


窓の外を見ると朝日が昇ったばかりの時間帯らしい。誰もいない部屋にかけられていた私の衣服は汚れや破れが無くなっていた。恐らくエリオが魔力で戻してくれたのだろう。または単純に誰かが破れを縫い、洗濯してくれたのかもしれないが。


ベッドから降りて、頭に巻かれていた包帯を取り捨てる。まだ痛みはするが付けたままでは目立つ。かけられている衣服を手に取り、部屋にあった手鏡を上手く立て掛けて髪を結ぶ。いつもよりも少し雑だったかもしれない。


衣服を身に付け、誰にも見つからない内に今いる場所を後にした。外に出てから気付いたがどうやら診療所にいたらしい。


そのまま今いる町の出口を目指した。歩いている内に気が付いたがここはどうやらソルシエールの町、ソルセルリーだったらしい。意識を失ったあと運び込まれたということなのだろう。


ソルセルリーを出た私はフラフラと別の町を目指して歩き始めた。ふと見た右手の甲には消えることの無い白虎の紋様がハッキリと刻まれている。


「……まだ、完全では無いのか……?」


意識が途切れる前。後頭部と腹部を掴まれ、拷問のような状態に追い込まれた時。耳元で囁かれたエルリルの言葉がふと頭を過った。


『お前もまだ完全じゃねえんだな?完全で尚且つ闇の魔力も使える俺に……勝てるわけねえんだよ……』


ズキリと後頭部の傷が痛む。まだ完全では無い、その言葉が脳内でリフレインする。


私は魔力を使いこなせると知って、思い上がっていたのだろうか。まだ完全では無い神の魔力を使って、プライドだけで戦っていたのだろうか。


考える内に自信が無くなり、ふと手に取った魔力武具を見て、私はとあることに気が付いてしまった。


「……精神状態の問題、か」


いくら元のサイズに戻れ、と魔力を込めようとしても上手く魔力を解放出来ない。


魔力を使いこなせるかどうかは精神状態も大きく関係する。精神が衰弱すれば魔力は使えなくなる。今の私がその状態ということだ。


大きな溜息をついて、魔力武具をチェーンの先に戻す。消えることの無い紋様がチラついて、また小さく溜息をついた。


少し歩いていると複数の魔獣の姿が見え、見つからない内に踵を返そうとした。今の状態では戦えるわけが無い。


「……誰か、いるのか?」


元の視力もそこまでは悪くない。魔獣の目線から外れる方向へ逃げようと先に相手の目線を確認しようとした時にそこに誰か人間がいることに気付いてしまっまた。遠目の為よくは見えないが男女一人ずつ、逃げもしないで複数いる魔獣の中にいた。


「っ……頼むから使えてくれ……!!」


チェーンの先についた魔力武具を手に取り、ギュッと握り締める。頼む、その願いに応えてくれた魔力武具は元のサイズに戻ってくれた。


誰かを助けたい、そんな気持ちを表に出したことで精神状態が少しだけ回復したらしい。弓を片手に走り出し、魔獣を数体斬り捨てる。漸く見えた人は中年ほどの男女だった。夫婦なのだろう。


全ての魔獣を倒せるほどには精神状態は回復しておらず、仕方なく弓を元のサイズに戻し、夫婦(仮)の手を片手ずつ取り、走り出す。


「あそこの町へ!!」


俯いたままの二人を半ば引きずるように連れて、近くに見えた町へと向かう。魔獣に追いつかれないように願いながら、ひたすら走り、なんとか魔獣避けのある町の中に逃げ込むことに成功した。魔獣のタイプが小型のゾウやカバのような、比較的鈍足で助かった。


なんとか逃げ切ったところで手を離し、息を切らしていると俯いたまま顔をあげない夫婦は再び町の外に出ようとフラフラと歩き出そうとしていた。


「おいっ、死にたいのか!」

「……っ、死なせてください!!わたし達は最低の事をしたんです!!」

「最低の事……?」


二人を引き止めると漸く顔をあげ、泣きながらそう訴えかけられる。死なせて欲しい、そんなことを言われて止めないわけがなく。また町の外に出られては困るととりあえず片手ずつ手を握っておくことにした。


私が逃がす気がないと察したのか夫婦は町の外に出るのを諦めて、とある場所へと案内してくれた。そこはそれなりに大きな一軒家の住居。彼らの住んでいる家なのだろう。家に帰る気になったのなら良いが、まだ時々町の外を見ている。完全には諦めてはいないらしい。


「わたし達には一人娘がいたんです。今日十三の誕生日で、昨日からずっとそわそわしていました」

「ですが……親として最低の事をあの子にしてしまったのです」


どうやらこの夫婦には十三になる一人娘がいたらしい。その子にしてしまったことが最低の事だという。


父親の方が私に見せてきたのは一通の手紙。そこには帝国のマークが刻まれていた。


「『フェアーレ様へ 娘様の十三の誕生日おめでとうございます。貴方方の娘様はスザクの魔力の適合者に選ばれました。ですので当日、引渡しの方をお願い致します』……スザクの魔力……!?」

「……はい。あの子は魔力なんて元々持っていなかった。けれど帝国が行っている検査で魔力の器が平均の何倍も大きい事が判明してしまった。神の魔力でさえ、入ってしまうほどの」


手紙に書かれていたのは衝撃的な内容だった。一度産まれ持った人間から抜き出された神の魔力に別の適合者がいた。それだけでも驚愕の事実だが、その人物が今目の前にいる夫婦の子供でまだ十三歳の少女だというから驚きだった。


十三歳というのは確か後天的に魔力を受け入れても良い年齢のボーダーだったはず。誕生日が今日という事は帝国はこの日を待っていたということになる。


「お嬢さんに、この事は?」

「今日、初めて伝えました。そして、泣き叫ぶあの子をわたし達は帝国に……」

「最低の事をしたんです、だから」

「魔獣に喰われて死のうとした、そういうことか 」


こくりと頷き、母親の方は話している内に最後に見た娘の顔を思い出したのかその場に泣き崩れてしまった。


何も知らなかった十三歳の少女を帝国に引き渡す、しかも誕生日という大切な日に。それがどれほど最低の行為か、私でも分かる。そして後悔して死にたいという気持ちも分からなくはない。


「だが死んだらそこで終わりなんだぞ……?」


独り言のように呟いた。後悔から泣き崩れた母親を心配する父親の様子を見て、この夫婦が一人娘の事を想っている事はよく分かった。同時にそれでも娘を引き渡さなくてはいけないほど帝国の圧力が強いことも分かった。


しかし事情を知ったところでこの夫婦はこれからどうすれば良いか。そう悩んでいた時、町の中心地の方から激しい風が吹き抜け、雑に髪を結んでいたリボンが飛んで行ってしまった。


「この町は元々風が強いのか?」

「いえ……そんなことは……」


父親の方がそう答えてくれた。元々強いという事でないのならこの激しい風は……。


今度は更に強い風が吹き抜け、中心地の方で何かが崩れる音も聞こえた。そして風が吹いた方向からうっすらと大きな鳥のようなものも見えた。


「あれは……」

「どうして町の中に魔獣が……」

「……一つ聞きたいのだが、娘はどこで帝国に引き渡した?」

「町の中心地の方ですが……」


父親の言葉で繋がった。スザクは風の魔力、つまりこの強風もあの大きな鳥のような魔獣も、その魔力によるものだろう。


とするとあの魔獣の中には……まさか。強風の中中心地の方へと足を進める。押し返されそうになりながらも少しずつ、少しずつ。


「危ないですよ!?」

「……あの中に……帝国に引き渡された娘がいるはずだ、中心地で引き渡され、その場で魔力を注入されたのだとしたらだが……っ」

「だとしてもどうして貴方が……」


吹き飛ばされ、受身を取りながら夫婦の前まで戻される。引き止めようとする二人の手をやんわりと離させ、わたしは右手の甲の紋様を見せつけた。


「私も神の魔力の持ち主だ、同じ神の魔力なら、太刀打ちが出来るはず……」

「……助けて……くれるのですか……?」

「でないといつまでも後悔する事になるだろう?」


行ってくる、と背を向けて強風の中を突き進んでいく。


家族というものは……ちゃんと一緒にいて、それで普通の日常を歩むものだろう。私は孤児院にいた時そんな家族が欲しかった。……王子という立場になった以上望めなくなったが。


だから、一人娘の事で後悔している夫婦を放っておけなくなってしまった。私なら神の魔力を持っている、助けることも、きっと。


強風に逆らい続け、辿り着いた中心地には大きな鳥……朱雀の魔獣と何故かエリオとエシュリアがいた。私に気が付いた二人は焦ったように駆け寄って来た。


「やっと見つけた!!まだ安静にしてないとダメでしょ!?もう……」

「落ち着いてエシュリア、今はレイの事は後回し。あっちをどうにかしないと」


掴みかかる勢いのエシュリアをエリオが制してくれた。そういえば私は診療所から抜け出してここに来ていた、怒られるのも私が悪い。


そしてエシュリアを半ば無視するように私は中心地で暴れるように風を吹かせる朱雀の魔獣に視線を向けた。


「あれはやっぱり……」

「スザクの魔力が暴走している状態、といったところだよ」

「……助ける方法は無いのか?」


エリオに促され、エシュリアが見せたのは殆ど中身の無い注射器。ラベルには『スザク』と書かれていた。


「エシュリアが逃げた帝国の人間から盗んだんだって。見る限り残り10%、全てを注入される前に持ち主は暴走してしまったらしいね」

「それをどうすれば助けられるんだ?」

「僕とエシュリアがそうなんだけど、全く同じ魔力を分け合うと精神世界が繋がる……リナさんが名付けた『スピリットコネクト』が起こる。それであのスザクの魔獣の中に飛び込めばもしかしたらってところ。っておいっ!」


助ける方法を聞き、エシュリアから注射器を奪い取る。それをエリオに制されるものの避けて、左手に持った注射器を右手の甲に刺そうと構える。そこで今度はエシュリアに腕を掴まれて止められた。


「ちょっと!いきなり奪ってどういうつもり!」

「……助けたいんだ、スザクの持ち主を。それが出来るというのなら、私がやる」

「どうやら、わけありってところらしいね?」


私の腕を掴むエシュリアの手を優しく掴んで外させながら問いかけられに頷くとエリオは魔力を解放し、スザクの魔獣を大きな水の球の中に閉じ込めた。


「エリオ!?」

「やたら真剣そうだし、本人がしたいというのならさせてみよう。どちらにせよ僕達にはスザクの魔力も必要になる。エシュリアも手伝って」

「確かにスザクの魔力も必要になるけど……もう〜!!ちゃんと助けてきてよね、レイ!!」

「……感謝する……!」


エシュリアも魔力を解放し、水の球はより強度なものへと変わった。これで町への被害は心配無い。


改めて左手に持った注射器を右手の甲に突き刺し、残り10%のスザクの魔力を注入する。二つの神の魔力が混じり合い、不思議な感覚から片膝をつく。しかしそんな感覚に振り回されている時間は無い。


二人が言うところのスピリットコネクトとやらが行われ、私の精神はまだ見ぬスザクの魔力の持ち主と繋がった。そのまま意識を集中させ、スザクの魔力の持ち主の精神世界へと飛ばした。


辿り着いたその精神世界は無数のひび割れが入り、強風吹き荒れる場所になっていた。持ち主は一体どこに。


辺りを見回しているとふわふわと浮かんでいる大きなシャボン玉のようなものを見つけ出す。こんなものでも手掛かりになるかもしれない。意を決して触れるとそれは持ち主の記憶を見せてくれた。


ご閲覧ありがとうございます。

宜しければ評価を宜しくお願い致します!

励みになります!


10話まで纏め更新しましたがここからはのんびりと書け次第更新していきます。

いまのところ初投稿で長期連載というちょっと挑戦的なところもあってか、完全なる自己満足なものになっていますがいつか誰かの目に止まって、楽しんで頂けましたら幸いです。

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