第9話 復興
冒険者を倒し終えたアベル達が最初にする事は、死んだ人狼達を復活させる事だった。
人狼達の死体は村の真ん中に集めてあり、アベルとベェルはその前に立っている。
その周囲を、心配そうに人狼達は囲っている。
死者の復活はアベルの意志ではなく、ベェルの意志によるモノだ。
死者の復活――《蘇生》。
人間においても最上位の、更にごく限られた神官か魔術師のみが行使出来る秘術である。
行使する代償は重く、術者の生命力を死にはしないまでも奪ってしまうのだとか。
更に、生命力の弱い者は術に耐え切れず、復活出来ず灰になってしまうらしい。
らしい、というのは、カインがそれを見た事がないからだ。
エレン達が魔王に倒された時に使用した復活の薬は、《蘇生》の効果を更に限定的にしたものだ。
《蘇生》にはない『スキルや魔術の消失の可能性がある』という副作用もある。
だが、そんな事は神にとって関係ない。
「それじゃ、やるよ~」
ベェルはそう言うと、死体に手を翳す――こともなく、ただパチンと指を鳴らした。
それだけで、殺された人狼達の傷が治り、次々と眼を覚まし、起き上がる。
復活した人狼達は困惑した様子で、周囲を見回している。
「こ……これは」
「おれた……ち……どう……なって……」
周囲の人狼の幾匹かが、生き返った人狼達に駆け寄って抱き着く。
家族なのだろう。
その光景を見て、長やトロスを筆頭に人狼達に驚きが広がる。
「……これ程まで多くの死者の復活! 正しく【神】の御業! 我等をどうかお導き下さい。ベェル様、アベル様」
長がそう言って頭を下げると、他の人狼達も整列し、傅く。
復活したばかりの人狼達も、周囲に合わせてアベル達に向けて頭を下げた。
「うんうん。神様ってのはやっぱこうやって奉られる存在であるべきだよね。ね、アベル?」
眼の前に広がる光景に、ベェルは満足そうに頷く。
「左様で」
それを呆れながら、アベルは見ていた。
傅かれるのは、あの憎き人間の王達と同じな気がして、気分が悪かった。
(俺はゴメンだな)
さて、どうすれば傅かれずに済むだろう。
そんな事を、考えていた。
それから数日後、アベルとベェルは未だに人狼の村に留まっていた。
村の中を、アベルとベェルはのんびりと散策する。
周囲では慌しく人狼達が動いていた。
「皆、急げ!!」
村の長が、人狼達に指示を出しているのを見て、アベルとベェルは近付いて声を掛けた。
「よぉ、頑張ってるな。オル―」
アベルは村の長に声を掛けた。
「これはアベル様、お早う御座います。準備には今暫く掛かります。お待ちを」
「分かってるよ」
人狼達が慌しくしている理由。
理由は簡単。それは復興だ。
冒険者は全員アベルが殺した。
恐らく、冒険者ギルドも冒険者達が帰ってこない事に数日の内に気付き、調査を行う筈だ。
この儘留まっていては、また次の冒険者がやってくるだろう。
それをオル―に話すと、
「ふむ、アベル様はどう思われますか?」
と言われ、その場で話し合いをした。
人狼達の意見としては、『人間から逃げるのは誇りが許さない』というモノだった。
【人狼】は誇りを重要視する種族故に、そういう意見の人狼が多かった。
アベルの考える個人的な意見としては、『素直に新天地へ移住する』というモノだ。
次にやって来る冒険者は、先刻襲ってきた冒険者より実力の高い冒険者になる可能性が高い。
雌や子供、老いた者やまだ若い者ばかりのこの一団では、現状冒険者がやって来た場合、今度こそ全滅するだろう。
だが――
「……人狼達の言う通り、此処にいよう」
ここにいるメリット、そして移住するデメリットを考え――結果、アベルはここにいる事に同意した。
アベルの意見に反対する者は現れなかった。
人狼達は既にアベルとベェルを上位者として、自分達を統率する群れの長として認めていた。
人狼達はアベルとベェルの言葉に従うだろう。
”強者に従う”。それが人狼の掟であるが故に。
「大将、それは良いが……冒険者が来るんだろ?」
人狼達を代表して、トロスが訊ねてくる。
「……地図でもありゃ良いんだが、流石に持ってないよな?」
人狼達を見回すが、誰一人答える者はいない。
「ベェル、どうにかならないか?」
「うーん、人間達が持ってるかもしれないね。探してみようか」
人間達の持っていた荷物は、一ヵ所に纏めてある。
人間の文字を読めるのはこの中でアベルとベェルだけだ。
――何人かに人族の文字を教えないといけないかもなぁ。
教えるべき事が多いな、とアベルは頭を掻く。
「ちょっと待ってろ」
人狼に荷物を取りに行くよう指示を出そうとして……人狼達ではわからないだろうと考え直し、立ち上がって地図を取りに行ったのだった。