第29話 情報を得て
リザードマン達が人狼の村にやって来て数日後の昼頃、アベルは其々の種族の代表を集めていた。
村の中央――人狼の村とリザードマンの集落の丁度中間にあたるところに新しく建造されたアベルとベェルの為の住居兼会議所である。
その会議室に、アベル、ベェル。人狼からは村の長であるオルーとトロス、リザードマンからはクシュとアムが集まっていた。
「――という事で、最短で数日後には冒険者達がやって来ることは確実みたいよぉ」
そんなメンバーを前に報告するのはサキュバスのリザベラだ。
その後ろには20人のサキュバス達が並んでいる。
彼女達サキュバスは、アベルの命令に従ってヴァルミラに潜入し、情報を集めていた。
「”七色の巨塔”に”盗賊の鎌”ねぇ……どれ程の規模なんだ? 情報は誰か掴んだか?」
「はい、”七色の巨塔”については私が聞き出しました!」
そう言って後ろに並んでいたサキュバスの一人が一歩前に出る。
赤髪をショートカットにした溌剌そうな少女だ。
勿論サキュバス故に、スタイルも良く、露出度の高い衣服である事は変わらない。
アベルは彼女の名前を何とか思い出した。
「お前は……ユアだったな」
「はいっ! 覚えて頂いて光栄です! ――っと、報告ですが、”七色の巨塔”に所属するという駆け出しの冒険者の1人に、《魅了》を使用し聞きだした所、ギルド”七色の巨塔”の冒険者の総数は50名。既にその半数がアベル様達によって倒されておりますので、残るは新人数名と幹部達、ギルドマスターを含めた23名になります!」
《魅了》はサキュバス等一部の魔族が使用するスキルで、対象を洗脳し、ある程度言う事を聞かせられる便利なモノだ。
勿論、冒険者達もそういう手段を使う魔族がいる事も理解している為、高位の冒険者であれば対抗手段を持っているだろうが、流石に街中にまで注意を向ける者はいないだろう。
「23人か……幹部達の冒険者ランクは幾つだ?」
「Aだったと記憶しております! ギルドマスターであるギリアンは"重戦車”の異名を持つのだとか」
サキュバスの報告に、アベルは満足そうに頷く。
「そうか。……”盗賊の鎌”の方は――」
「それは私が」
アベルの問いに一歩前に出たのは、金髪の美女――ナレヤである。
「”盗賊の鎌”の長に直接会えましたので、《魅了》を使用しました。”盗賊の鎌”の参加人数は100名、ただし駆け出し冒険者も多分に含まれておりますので、実際に戦力になるのは6割程度だとの事です」
「……60人だな。最悪で123人の冒険者を相手にする事になるか。……オルー、人狼達で戦えるのは?」
アベルの問いに、オルーが顎を撫でながら答える。
「我等は戦闘部族皆戦える……と答えたいですが、まだ幼い子供は戦場に立つにはまだ早いでしょう。戦える雌も含めて……22といった所でしょうな」
「リザードマンはどうだ?」
それに答えたのはクシュだ。
「ウチも子供と一部の雌を除いて……戦えるのは70といったところか」
「サキュバスは?」
「私達は全員問題ないけど……私達は戦闘が得意じゃないから、魅了とかのサポートしか出来ないわぁ」
人狼が22、リザードマンが70、サキュバスが20。アベルとベェルを含めて戦えるのは114名。
「ふむ……ゴーレム30にスケルトン40を戦力として数えるならば、数では此方の方が上か。……ただなぁ、Bランク以上の連中にただのスケルトンは数合わせにしかならないだろうしなぁ……」
スケルトンは相手に【神官】がいればスキルによって簡単に無力化されてしまう。
そしてスケルトン1体の武力などたかが知れている。
「……ベェル。リザードマンとスケルトンに人狼達と同じ様に魔法の武器を持たせたいんだが」
「出来るけどさぁ……僕、一応神様だよ? ま、キミの頼みならやるけどさー」
扱いに不服なのだろう、ベェルは不機嫌そうに頬を膨らませる。
仕方ない、奥の手を使うか、とベェルは決断した。
「後で俺を好きにして良いから――頼む」
ピクリ、とベェルは肩を震わせる。
その顔は――笑みに変わっていた。
「――へぇ、良い事聞いたうん、全力でやっちゃうよ。どんと来い!!」
どうやら機嫌は直ったらしい。
ベェルの笑みに嫌な予感しか浮かばないアベルであるが、それを頭の隅に置いておく。
「――じゃ、早速やって来よう。えっと、合計110個の魔術の掛かった魔法武器を用意すれば良いんだよね? ま、その程度、僕なら一瞬さ」
そう言うが早いか、ベェルは外に出て行く。
「アム、ベェルの様子を監視しとけ。やり過ぎる可能性がある」
流石に聖剣以上の武器をおいそれと多く用意されても、それを扱いきれるかわからない。
「わ、分かりました。ベェル様、待ってください!!」
アベルの指示に、慌ててアムがベェルを追い、外に出て行く。
二人がいなくなったのを見送って、アベルは次の話題に移る。
「暫くの問題は――どう他種族間で共闘するか、だな」
人狼、リザードマン、サキュバス。
習性も戦い方も違う3つの種族を、人間達と集団戦が出来る程度にまでしなければならない。
「急ごしらえになるが……2つのチームに分けて実践訓練といこう。オルー、クシュ、リザベラは今すぐ皆に準備をさせろ」
「はっ!」
「承知した!」
「わかったわぁ」
「大将、警戒役の連中はどうする?」
トロスの言葉通り、アベルは視力も良く嗅覚に優れる人狼達の幾匹かを周囲の警戒に当たらせていた。
「そうか、となると警戒役の連中は外さないといけないな。……休みの奴で参加したいって奴がいたら呼んでくれ」
「了解した」
自分の部下達が慌しく出て行くのを、アベルは笑みと共に見送った。
――結構、こういうのも楽しいな。
そんな事を考えながら。