第26話 村の拡充
「ベェル! 早かったな」
「思ったより交渉が簡単にいったからね」
「交渉?」
「うん。――入って来て良いよ」
ベェルが住居の外に向けてそう声を掛けると、外で待機してたのか住居の中に入ってくる。
露出度の高い衣装を着た、スタイルの良い20代中盤位の外見の女性だ。
一見すれば、人間の女性にも見える。
だが、背中には翼が生えており、頭には角、そして尻には尾が生えていた。
「――サキュバス、か?」
アベルが女性の正体に当たりを付けて種族名を口に出した。
正解だったのか、女性は身体付きには似合わない少女の様な可憐な表情でニッコリと笑う。
「正解よぉー。アナタがベェル様の伴侶ねぇ~。中々に良い男だわ~。後で私と”イイコト”しましょう?」
そう言うと、サキュバスはアベルに近付きもたれかかってくる。
「アハハ、ダメだよリザベラ。僕のアベルを取っちゃ」
ベェルの忠告に対して、リザベラと呼ばれたサキュバスは「あら~嫉妬ですか?」と笑って受け流した。
アベルは鼻の下が伸びない様気を付けながら、コホンと咳払いをする。
「で、だ。話を戻そう。……ベェル、作れば良いってどういう事だ?」
「簡単な話さ。……フフン、僕は神様だよ? 地形の1つや2つ、簡単に変えれるさ」
ベェルはリザベラの逆の肩にもたれかかりながら、自慢げに言う。
「地形を変える? そんな事が可能なのですか?」
話に横槍を入れて来たのはアムだ。
ベェルがアムの方を見る。
「うん? 簡単な事でしょ?」
「「「「……」」」」
アムも、それに他のリザードマン達も絶句している。
まぁそれは絶句するだろうな、とアベルもリザードマン達に同情する。
常人がそんな事を言えば、正気を疑うだろう。
だが、ベェルは神である。
「それはどれ位の期間が必要なのですか?」
クシュが、アベルには一度も使わなかった敬語を使い、ベェルに尋ねる。
それにアベルが気付くが、話を止めるのも悪いので口を慎む。
「期間? あー……もしかして土を掘るとか水を引くとかの面倒な作業の事を言ってる?」
「え、えぇ」
「そうだねぇ……まぁ水を引くのは出来るし、湿地帯を作るのなんてそう時間もいらないし……あ、土木作業とかはゴーレムやスケルトンとかの下僕を増やせば良いから……集落を造るのも含めてまぁ掛かっても半日ってところかな?」
理屈はアベルにもさっぱり理解出来ないが、ベェルが出来ると言ったら出来るのだろう。
「「「「……」」」」
再度、リザードマン達は絶句する。
言うだけでこれなら、実践して見せたら卒倒するか最悪死人が出るのではないか。
アベルはリザードマン達の呆然とした表情を見て、そんな事をぼんやりと考えていた。
有言実行。
リザードマンの代表者であるクシュを連れ、アベル達はマルクト大森林に一瞬で転移した。
これもまた、ベェルの力である。
「いつかアベルにも教えてあげるよ。今の君なら出来るだろうしね」
――神に出来ない事なんてないんだよ?
とベェルはいたずらっ子の様な笑みを浮かべて言っていたのはさておいて、アベル達の目的は人狼の村の近くでリザードマン達が暮らすのに相応しい場所を探す事だ。
最終的に至った結論としては、人狼の村に隣接する様に造った方が色々と便利だろうというモノだ。
なので、木を切るなどして村を拡充しなければならない。
先ずは更地を作るところから。
「じゃ、準備は良いかいアベル?」
「おう」
更地を作る役割を、アベルは自ら志願した。
目的は更地を作る事であるが、それと同時に、自身の魔力と使う魔術が神になった事でどれだけ強力になったのかを試すという目的もある。
なので、アベルは自身が人の身であった時に使えた最大級の魔術を放つ。
「行くぞ――《エクスプロージョンフレア》!!」
《エクスプロージョンフレア》。
人が扱える最上級の炎系魔術である。
座標指定した箇所からある一定の範囲を瞬時に大爆発させると同時に、炎によって焼き焦がすという凶悪な魔術だ。
人の身であれば1回発動するだけで魔力を使い切って倒れる様な強力な魔術であるが――
「うん、こんなモンか」
アベルは未だ自分の中にある膨大な魔力を感じ取れた。
あと数回どころか無限に撃てそうだ。
魔力もそうだが、威力や範囲も強化されているらしい。
辺り一面が見事に更地になっていた。……というかやり過ぎである。
「加減が難しいな」
「魔術を使ったのはこの身体になって初めてだったんでしょ? ま、そこら辺はおいおい慣れてこうよ」
「そうだな。――さ、次は集落を造らなくちゃな。やるべき事は沢山あるぞ。さ、人間達が襲って来る前になんとか終わらせないとな」
呆然としている人狼達とクシュを促すアベルだった。