第23話 話し合い
住居の中では、6匹のリザードマン達が中央を囲む様に座っていた。
その一番奥に座るリザードマンがアベル達を睥睨する。
「――来たか」
低い威圧する様な声。
声を上げたのは立派な体躯のリザードマンだった。
所々に傷跡が残っており、傷跡のある左眼は閉じられている。
恐らくは群れの長だろう。
他のリザードマン達は声を出して慌てる様子もない。
アベル達が侵入する事が予めわかっていたかの様だ。
「よぉ、話に来たぜリザードマン」
アベルがニヤリと笑うと、傷のあるリザードマンは「シュルル」と喉を鳴らした。
どうやら笑っているらしい。
「話か……人狼を連れた人間の話が、一体どの様な話なのか聞きたいものだ」
「お、聞いてくれるのか?」
アベルが驚いて聞き返す。
「……あぁ」
「それなら話が早い」
アベルはズカズカと歩き、躊躇なく中央に座ると、口を開く。
「支配を――しに来た。俺の部下になってくれ」
アベルがそう言った途端、ゾワリ、とその場の空気が一変した。
リザードマン達から殺気にも似た視線が、アベルに向けられる。
それを察知したのか、
だが、口を開く者は誰もいない。
「――ハハハハハ!!」
傷のついたリザードマン以外は。
傷のついたリザードマンは天を仰いで一頻り笑った後、アベルを睨む。
「面白い事を言うな。……部下になれ、という事は従え、という事だろう?」
「あぁ」
シュルル、と傷のついたリザードマンは先程同様喉を鳴らして笑う。
同時に、バチンバチンと尻尾が木の床を叩いた。
「――人間、お前は我等リザードマンの掟を知っているか?」
「あぁ、最も強き者が長になる……だろ?」
僅かにリザードマンの右眼が驚きに開かれる。
「知っていたか。……そうだ。『最も強き者が長となる』――つまりこの俺、クシュ・リュクシスこそが、この集落において最も強き者だ。……つまり俺を倒せば、誰であろうと長になれる。……がその前に」
そこでリザードマン――クシュはチラリと横に控えるリザードマンを見る。
アベルが視線を追うと、そこに座っていたのは雌のリザードマンだった。
全身に複雑な模様が刻まれている。どうやらドルイドか、それに近い魔術を操る者の様だ。
「――この者は祖霊を感じ、”視る”事が出来る。人間、お前には――祖霊の気配を感じる様だ」
コクリ、と雌のリザードマンが頷いて口を開いた。
「強大なる祖霊の力を、貴方からは感じます」
「祖霊の?」
アベルは首を傾げる。
リザードマンの祖霊などとアベルは縁がない……筈だ。
”勇者”として何十体ものリザードマンを倒してきたので、そう言った意味では寧ろ、呪われていそうだ。
「その祖霊ってのは……」
「我等が偉大にして強大なる祖霊とは……竜だ」
「竜?」
「そう、我等は強大なる竜の末裔である。我等はいずれ竜へと成る為に、己を鍛え、戦いを行うのだ」
なら、人間の間で噂されていた『リザードマンは竜の末裔』という話は真実だったのか。
アベルは一人で納得すると同時に、気配の正体が分かった。
「俺にまつわる竜ってんなら……この腕か」
骨だけの右腕を持ち上げる。
ベェル曰く竜の中でも強大な力を持っていたという”竜王の腕”だ。
「それです!!」
雌のリザードマンが叫ぶ。
「それをどこで?」
「ん? あぁ、神様からの貰いモンだ」
大雑把な経緯を説明する。
「成程、神は実在したか。まぁ良い……それはさておき、おい、今俺がこの人間と戦って勝てるだろうか?」
クシュが雌のリザードマンに尋ねる。
雌のリザードマンは首を横に振った。
「この方からは強大な力を感じます。それも祖霊と同等か……それ以上の」
「そうか。他の者はどう思う?」
クシュが周囲に意見を尋ねる。
意見は半分に分かれた。
半分はクシュが勝利すると、半分はアベルが勝つと。
「良し――分かった」
そう言うとクシュは立ち上がる。
「立て人間。外へ出るぞ」
「? ……何をするつもりだ?」
「決まっているだろう?」
さも当たり前かのように、クシュは歯を見せ獰猛に笑って言った。
「――戦いだ」
アベルとクシュ、二人は集落の中央で向かい合っていた。
その周りを、100はいるだろうか、リザードマン達が囲んでいる。
「――良いか皆の者!! これより行うのは群れの長の地位を巡っての戦い――決闘だ! 俺が負けたら、俺達はこの人間の支配下となる! 意見のある者はいるか?!」
誰一人として声を上げる者はいない。
『強者は絶対』――最強の雄であるクシュに歯向かう者などいる筈がなかった。
それ程までに、このクシュという雄は群れの中で勝利を重ねて来たのだ。
「では名を聞いておこうか、人間」
「アベルだ」
「アベルか。……ではアベルよ。いざ祖霊の名に恥じぬ戦いをしようではないか!!」
クシュは武器を構え、アベルも右手を握りしめた。