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第21話 次のターゲット

 村でアベルとベェルが待っていると、トロス達人狼が人間を背負って帰って来た。

 全員怪我もない様だ。


「よぉ大将、狩って来たぜ」

「おう、皆、良く無事に帰って来たな」

「ハハ、楽勝よ!! って訳で今日の収穫だ」


 トロス達が背負った人間をアベルの前に並べる。

 その数は7人。


「……あれ、一人足りないな」


 アベルは魔術師が一人いない事を確認する。


「狩り損ねたのか?」


 アベルがトロスに尋ねると、トロスは肩を竦めた。

 どうやら狩り損ねたらしい。


「……悪イ、アベル様。俺達が仕留め損ねちまっタ」


 そう言って謝って来たのは、支配すると宣言した時にくって掛かて来た人狼――ハイエだった。

 あの時は生意気で威勢も良かったが、今ではすっかりアベルとベェルに従っていた。


「どういう状況だったんだ?」

「冒険者達が二手に分かれた……いや、何かがあって遅れたんだろうが……そこで俺達は群れを二つに分けた。10を遅れた方に、残りをもう一方に分けて追ったんだ。俺達は全員殺した……が」


 そこまで説明して、トロスがハイエを見下ろす。

 ハイエは肩を落として、


「……魔術師が一人、立ち向かって来タ。そいつが結構抵抗して来テ、俺達はソイツに手こずっタ」

「成程」


 アベルは大方理解する。

 Bランクの魔術師だ。防護壁を壊したのを見るに、それなりに威力の高い魔術等も扱える筈だ。

 魔術師というのは肉体的には他の職業に劣っていても、その攻撃力は高い。

 文字通り、全身全霊、命を懸けた抵抗にあったのだろう。


「……今回の戦闘で怪我した奴はいなかったか?」

「それは私達が治しました」


 そう言ったのは雌の人狼の一匹だ。

 手には杖を持っている。ベェルを崇拝する【神官】の人狼だ。

 彼女達は簡単な治癒魔術であれば行使する事が出来る。


「そうか。……一人逃したか。……どう思う?」


 アベルは隣で浮いているベェルに尋ねる。


「今頃森からは出てるんじゃないかなぁ……。今追っても流石の人狼でも間に合わないだろうね」

「……だよなぁ。あー……ちょっとマズいな」


 問題は、ヴァルミラに――そこにある冒険者ギルドに、この村の存在がより詳細に知られる事だ。

 武器を使う人狼、ゴーレム、防護壁……そして魔術師はアベルとベェルがこの村を統治している事を知っている。

 それもギルドに報告するだろう。

 次はより高位の冒険者が来るか、それか以前より更に多い人数でやって来るだろう。

 と、なるとである。


 ゴーレムが10、人狼が30……どう考えても戦力が足りない……訳ではないが、そう嘗めてかかれば、痛い眼を見るだろう。

 最終的にはヴァルミラという国自体が敵になる事も考えれば、数百という冒険者と戦う事になる。

 アベルとベェルは問題ないが、人狼達は恐らく全滅とまではいかないまでも、何匹かは死ぬだろう。

 死んでもベェルによって蘇生出来ると言ってしまえばそれまでだが、人狼達も何回も死にたくはないだろう。

 それでは使い捨ての駒である。

 アベルとしてはそんな事はしたくなかった。

 自分が、人間達にそう扱われたも同然であるが故に。



 結論、


「……仲間を増やすしかねぇか」


 人間が数を増やすのであれば、此方も数を増やす。

 そうするしかない。


「……近くになんかの巣ってあるか?」


 アベルの質問に、皆顔を見合わせる。

 ――と、


「あるみたいだよ」


 そう声を上げたのはベェルだった。

 手にはいつの間にか、地図が握られている。


「ほら、ここ」


 指差したのは、マルクト大森林に隣接する湿地帯だ。

 湿地帯に住む魔物といえば幾つかいるが、対話出来る魔物と言えば――


「リザードマンか」


 アベルの次の標的が――決まった。












 一方、ヴァルミラの会議室――そこで18の席にギルドマスター達が座っていた。


「手前んとこ、依頼に失敗したなァギリアン?」


 ギルドマスターの一人が挑発する様に笑う。

 対して、笑われた”七色の巨塔セブンスカラー・タワー”のギルドマスターであるギリアンは、苦虫を噛み潰した様な顔で舌打ちするだけだ。


「ならウチが代わってやろうか? 武器を使おうが人狼ならウチだけで十分だろ」

「いや、その巣にあるゴーレムに興味がある。ウチがやろう」

「おいおい、ウチを忘れちゃ困るぜ」


 別のギルドマスター達が口々に言うが、


「……うるせぇ」


 突如聞こえた低い声に、その場にいた全員が一斉に黙り、声の主の方を見る。


 声の主は、鍛え抜かれた巨躯で腕組みし、瞑目している。


「……ギリアン。連合からの依頼に対しての2度の失敗だ。手前ンとこだけの話じゃなくなってくるのは分かってるよな?」


 声の主の発言に、ギリアンは黙って頷く。


「――わかってるならなんで全力で潰さなかった!!」


 声の主が突如豹変する。

 机を強く叩いて立ち上がる。


「手前等だけならまだしも、冒険者自体の腕が疑問視されンだろうが!! わかってるよなぁギリアン!! その依頼、俺がやってやっても良いんだぞ!!」

「……次は全力で潰す! もう1度、もう1度チャンスをくれ!」


 ギリアンは慌てて頼み込む――が、声の主は首を横に振った。


「ダメだ。……ダニー、手前ンとこも出ろ」

「――っ! へへ、やっぱそうだよなぁ!! 任せてくれ!」


 ダニーと呼ばれた男が、嬉しそうに頷く。


「流石話がわかるぜ――ロシフォールの旦那は!!」


 声の主――”豪勇勇者”にして現ヴァルミラの18の大ギルドの代表でもあるボーディン・ロシフォールは、不愛想な表情で椅子に座り直した。



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