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第18話 冒険者7

 矢が刺さった場所から血が吹き出し、バルべが仰向けに倒れる。


「バルべ!! 大丈夫か?!」


 マーティンが駆け寄るが、バルべからは返事が返ってこない。

 既にバルべは死んでいた。


「畜生、神官から狙うとかありかよ!!」

「狙ってやったのか?!」

「嘘だ! そんな事ある訳ねぇ!!」


 バルべを撃ち抜いたのはトロスの弩だ。


 では神官(バルべ)を狙っていたか、という問い答えるならば、答えはイエスだ。

 トロス達はアベルに冒険者の職業を粗方教え込まれていた。

 そして最初に狙うべきは遠距離攻撃を行う魔術師や味方を回復出来る神官だとも。

 故に、トロスは一番最初に神官であるバルべを狙ったのだ。


 ヒュードリク達に残された回復手段は、自分達が雑嚢にいれているポーションしかない。

 だが、それを飲めるだけの隙があるかと言われれば――そんなものはない。


「落ち着け! 皆、どうにかここを切り抜けるぞ!!」


 慌ててヒュードリクが指示を出す。




 人狼達がアベルから教わった一番重要な事。――それは油断をしない事だ。

 獲物を前に舌なめずりをするなどもっての外。

 冷静に、冷酷に、冷徹に、相手を追い詰める。

 故に次に狙うべき相手は決まっていた。


「――一番五月蠅い奴だ」


 そう呟いてトロスが狙ったのはヒュードリクだった。

 矢を装填し、放つ。


「くっ!!」


 警戒されていたからか、今度は避けられる――が、


「なっ?!」


 避けた筈の矢がもう一矢飛んできて、今度は間違いなく胸を――心臓を貫く。

 トロスが独自に編み出したスキル《不可避の二の矢(セカンドアロー)》によるモノだ。


 この《不可避の二の矢》は、技術に近いスキルで、囮として放つ一矢の直後即座に矢を再度装填し、捕捉・調整を行い再び標的に向け撃つ、というモノだ。

 的確に相手の急所を見極める人狼の持つ優れた視力と、卓越した狙撃手としての技術を使ったスキルである。

 標的は二度の攻撃を――それも二度目は精密に調整された矢を――避けなければならない。

 そしてそれを避けるのは、先ず人間には不可能である。


 そもこの弩もただの弩ではない。

 外見はどこにでもあるような弩であるが、神であるベェルが手ずから作った武器である。

 それは”勇者”エレンの持つ聖剣にも、勝るとも劣らない”神器”足りえる一品だ。

 それをベェルはなんてことなしに人狼達に作った。

 どれだけベェルがこの”復讐劇”に身を入れているのかが分かるだろう。

 その事実を知っているのはベェルとアベルの二人だけであるのだが……。


「さぁ、もういっちょ」


 ヒュードリクが倒れたのを確認し、次の獲物に移ろうとして――弩を下げた。

 今回”狩り”に来ているのは自分だけではない。

 周囲の人狼達も――二手に分かれた精鋭も――”狩り”に来ているのだ。


「キルズ、ナレム、ドズ。お前等も自分を試せ」

「「「応!!」」」


 トロスが名を呼ぶと、其々武器を持った人狼達が出てくる。

 キルズと呼ばれた人狼は剣を、ナレムと呼ばれた人狼はメイスを持っている。

 ドズと呼ばれた人狼は、一際大きな巨体だ。


「油断はするな。危険なら遠慮なく獲物を横取りするからな?」

「あぁ、分かってるさトロス兄」

「俺等の腕、試させて貰うぜ」

「思う存分、アベル様との訓練の成果を見せてやるさ」


 キルズは斥候のバイトに視線をやる。どうやら獲物を彼に定めたらしい。

 キルズが早速バイトに斬り掛かるのと同時に、ナレムがベネデットに向けて走り出す。

 ドズはヴォールに狙いを決めた様だ。盾を構えるヴォールに向けて、その巨体を揺らしながら近付いていく。

 残るはマーティンただ一人。


「――畜生がッ!!」


 マーティンは仲間が勝つ事を信じて、トロスに剣を向ける。

 それはトロスが他の人狼達に指示を出していた様に見えたからだ。

 指揮官を倒せば群れはバラバラになる。そうなればこの状況――ヒュードリクとバルべが死んだこの最悪の状況だ――もどうにかなる。そんな淡い希望を抱いて。


 トロスは戦闘の意志を見せるマーティンを見て、笑う。


「良いねぇ。……そうじゃなきゃ面白くねぇ」



【人狼】には古くから語り継がれている話がある。


 肉を喰らうと、喰らった肉は己が血肉となり、力となる。


 今はアベルに禁止されているが、それまでは人狼達は死んだ仲間でさえ喰らっていた。

 死んだ仲間の力を、意志を受け継ぐ為に。

 ここ最近、強い獲物を喰らう事はなかった。

 マルクト大森林に生息する同族の【(ウルフ)】や【野猪(ワイルド・ボア)】等の、自分達より下級の相手ばかりだった。


 人間を喰うのは久しぶりだ。

 今は亡き魔王軍に従軍していた父が、休暇に帰ってきた時に連れ帰って来た人間の味を思い出す。

 涎が出そうになるのを堪え、トロスは弩を構えた。


「来いよニンゲン。手前は俺が喰らう。――喰らって力を、もっと力を付ける」


 ――大将の復讐の為にな。

 そう言ってトロスは獰猛に笑った。

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