表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/31

第17話 冒険者6

「はぁ、はぁ……はぁ!」

「……っ」


 テルとユーマはマルクト大森林の中を全速力で逃げていた。

 周囲に仲間は他にいない。

 二人は他の仲間達から大きく遅れていた。

 魔術師である二人は、身体能力が高いとはいえない。

 今それなりの速度で走れているのも、《身体能力強化》の術を使っているからに他ならない。

 それでも尚仲間達から遅れるあたり、二人の運動神経や体力がないかを物語っている。

 やがて二人は体力を使い果たし、木の根元で腰を下ろした。


「だ、大丈夫? ユーマ君」


 息も絶え絶えにテルがユーマを気遣う。


「え……えぇ、それにしても人狼が武器を使うなんて、聞いた事もない」

「う、うん。そ……そうだね」

「それに後ろにいたゴーレムを見ましたか? あんなゴーレム見た事も聞いた事もない」


 人狼達の周囲を囲む様に配置された、見た事もないゴーレム。

 テルの魔術師としての知識にも、冒険者としての知識にもなかった。


「恐らくあれは特別なゴーレムです。……調べてみたいですが……現状では不可能ですね」


 ユーマは魔術師――知の探究者である。

 知見のない未知のモノを前に、調べたいという欲求が湧き出たが、即座に無理だと判断した。


「……皆と逸れちゃったね」

「えぇ……我々は魔術師です。肉体的には劣っていると認めなくてはなりませんね」


 だが、ユーマの表情は未だ自信に満ちていた。


「それならそれで頭を使えば良いだけの事。……テル君、君は《透明化(インビジブル)》を使えますか?」

「え、あ……うん」


 《透明化》は冒険者パーティーに所属する魔術師として必要不可欠とまではいかないが、使用する頻度が高い魔術である。

 自身のみならず他者にも使用出来るこの魔術は、主に斥候達に掛ける。

 そうすれば、敵に視認されずに斥候が行えるからだ。

 更にこういった逃走の際にも使える。


「では、それを使って身を隠しながら行きましょう」

「う、うん。――《透明化》!!」

「では僕も……《沈黙(サイレンス)》」


 透明化は足音までは消せない。

 なので、冒険者達は《沈黙》を併用する事で、足音を消すのだ。

 一方で、《沈黙》は話し声まで消してしまうというデメリットもあるが、それでも尚強力な術には変わりない。


「――」


 ユーマが無言で走り出すのに次いで、テルも再び走り出した。

 それを、既に人狼達が捕捉しているのにも気付かずに。







 一方で他のパーティーメンバーもまた、森の中を駆けていた。


「テルとユーマは?!」

「もっと後ろだ!!」

「クソッ、こんな事になるならこんな依頼受けなきゃ良かったぜ」

「全くです!」

「兎に角全力で逃げるしかねぇ! 走れ!!」


 全員とっくに一時的に身体能力を向上させる、前衛には必須の《身体強化》のスキルを使用している。

 その速度は、並の魔物以上だろう。


『ウオオオオォォォォォォン!!』


 遠くから人狼の遠吠えが幾つも聞こえてくる。

 それがどんどん迫っている事に、皆気付いていた。


「どんどん声が近付いてやがる。マズいぞ!!」


 最後尾を走るヴォールが叫ぶ。


「どうする?!」

「戦うか?!」

「――無理だ! 見ただろ、あの数を!」

「神よ……我等をお救い下さいっ!!」


 仲間達のそんな会話を聞きながら、ヒュードリクは無言で走っていた。

 その脳内は、絶えずこの状況を如何に打破するかを考えていた。

 テルとユーマはいない。魔術師のいない状況は、彼等の範囲攻撃魔術やサポート魔術を頼れない、という事だ。

 つまり、もし人狼を相手にするならば、一匹一匹を倒していくしかない。

 それは不可能に近い事だ。

 Cランクの冒険者20人と、8人のBランク冒険者。

 実力は圧倒的に自分達があるとはいえ、やはり数というのは如実に現れる。

 他のパーティーに声掛けすれば良かった。

 ギルドマスターにそう提案すれば良かった。

 しかし、今はただ生き残るだけだ。

 命さえあれば、どうにでもなる。


「兎に角今は声のしない方向に走るしかない!! 走れ!!」


 ヒュードリクは、今はそう指示するしかなかった。






 だが、――人狼(捕食者)は確実に冒険者(獲物)を追い込んでいた。


 マルクト大森林は彼等のテリトリーである。

 人狼は自分達の獲物の行く先を、上手くコントロールしていた。

 行き着く先は――山だ。


 マルクト大森林には峻厳な山々が連なっている場所がある。

 その裾野には、切り立った岩肌の崖の様になっている場所もある。

 人狼達はそこに追い込んだ。


 崖は人間ではなんとか登れるかどうか、という位に聳え立っている。

 そこに追い込まれたヒュードリク達が振り返ると、既に人狼達が姿を現していた。

 その数ざっと15匹。


「――クソッ、囲まれた!!」

「戦うしかねぇ!!」


 ヒュードリク達が武器を構えた――瞬間、


 ヒュン!!


「――がっ!!」


 武器を構えたバルべの胸に、矢が刺さった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ