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第16話 冒険者5

 仕合開始のゴングが鳴り、両陣営が睨み合う。


「見ろよあれ、ゴーレムまでいるぞ」

「……嘘だろ」

「10匹とはいったが、周囲の人狼が襲ってこない確証はないぞ」

「ど、どうしましょう」

「どうする?」

「ヒュードリク、判断してくれ」


 仲間達が呟く中、ヒュードリクは一瞬だけ瞑目し、考え――


「撤退!!」

「「「「「「「――っ!!」」」」」」」


 ヒュードリクは一瞬で判断し、叫ぶ。

 それと同時に、8人全員が一目散に自分達が破壊した防護壁の方へと走り出す。


 ――これは自分達の手には負えない。勝てる相手ではない。


 ヒュードリク達の冒険者の勘が囁いたのだ。

 いや、もっと根源的なモノだ。

 生存本能。

 それが「ここにいては危険だ」と知らせていた。


 ただでさえ強力な【人狼】。

 それが人間を()()()武器を使うなどある筈がない。

 更には得体のしれない人間と少女、精鋭と思われる十匹の武器を持った人狼。更には二十匹以上の人狼に、ゴーレム。

 たった8人で勝てる相手ではない。


 こういう場合、冒険者が優先するべきなのは――身の安全だ。


 兎に角逃げ、ギルドへと報告する。

 そうすればより高位の冒険者に依頼を出せる。


 ギルドマスターの「失敗するな」等という言葉は、既に頭の中にはなかった。

 8人の頭にあったのは、


 ()()()を引いた。


 という言葉である。

 ハズレ、という言葉は冒険者の中で業界用語の様なモノとして浸透している。

 冒険者が受ける依頼には、得てしてそういった類の『ハズレ』の依頼が混ざっている事がある。


 よく駆け出しの冒険者が受ける『ゴブリンの討伐依頼』に、【大型ゴブリン(ホブ・ゴブリン)】や【魔術師ゴブリン(ゴブリン・ウィザード)】などが混ざっていた、などの話は珍しくない。

 それで全滅や半壊に陥るパーティーは多い。

 そういった危険な職業なのだ。

 それを知っていて、経験して、生き延びたからこそ、Bランクの冒険者になりえたのだ。


 故に、こういった時の対処は嫌という程理解していた。


 ――全力で逃げる。他の事は考えない。


 仲間の命も、この際二の次である。

 自分の命も、危ないのだから。








 冒険者達が一目散に逃げていく。

 その光景を、呆然とアベルは見ていた。


「……おいおい、初手逃亡とかありかよ」


 アベルが思わず呟くと、


「ハハハ……凄い逃げっぷりだね」


 ベェルも呆れ半分、感心半分に乾いた笑い声を上げる。


 アベル――カインは”勇者”だった。

 半分冒険者の様なモノであっても、確かに”勇者”だったのだ。

 負けて良い、逃げて良い戦いなどなかった。

 負けた戦いなど一つもなかった。

 ”勇者”としての誇りが、立場が、それを許さなかった。

 故に、アベルにとって敵前逃亡という行為自体経験がないのだ。

 冒険者に良くある話だと、噂には聞いていても。


「どうする大将?」


 トロスがアベルに近付き判断を仰ぐ。

 人狼達の視線が、アベルとベェルに向く。


 ――この村の支配者は俺だ。判断するのは(支配者)の役目だ。


 アベルは直ぐに頭を切り替える。


 今ヴァルミラにここを知られてはマズい。

 まだ此方は準備が整ったとはいえない。

 今度来るとするならばAランクの冒険者だ。

 Aは普通の冒険者が到達する最上位。

 恐らく、逃げた冒険者達よりも圧倒的に強い筈だ。


 それでなくとも、ヴァルミラが合同で部隊を組んで襲って来るかもしれない。

 なら、少しでもヴァルミラに情報が渡るのを阻止するのが最善策だ。


「――狩れ。【人狼(お前等)】の得意分野だろ?」


 アベルはトロスに向けてニヤリと笑い掛ける。

 それに対し、トロスも獰猛に笑い返す。


「へっ、流石大将。俺達の事良くわかってるじゃねぇか。――手前等、狩りだ! 狩りの時間だ! ウオオオオォォォォォン!!」

「「「「ウオオオオオォォォォォン!!」」」」


 トロスが一際大きな声で鳴くと、その場にいた人狼全員が一斉に咆哮する。

 それは歓喜の咆哮だ。


 久しぶりの狩りだ。【ニンゲン】狩りの時間だ。

 獲物が逃げた。

 それ追え、それ追え、追い掛け回せ。

 追って――殺せ。


 先日は冒険者に狩られる側だった彼等であるが、彼等【人狼】は狩猟部族である。

 追われる側ではなく追う側、狩られる側ではなく狩る側。

 それが【人狼】だ。


 精鋭達を筆頭に、老若男女問わず皆が冒険者を追い駆け始める。

 その光景はまさに、ケモノの狩りである。


「おーおー……皆やる気じゃねぇか」

「いつもは可愛い子供達まで追ってっちゃった。皆それ程狩りに飢えてたのかな?」


 この世は弱肉強食。可哀そうだが彼等には文字通り生贄になって貰おう。

 さて、何人生きて帰れるかねぇ……。


 そんな事を思いながら、アベルは冒険者の逃げて行った方角の空を見上げたのだった。




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