第12話 冒険者1
冒険者ギルド”七色の巨塔”に所属している冒険者パーティー”白銀の剣”のリーダー、ヒュードリクは依頼を終えたその足で、ギルドの本部の廊下を歩いていた。
今回はなんとギルドマスター直々の招集命令である。
「とうとう俺等が認められたって事かな?」
「さぁてな」
「き、緊張しますね」
同じパーティーメンバーである【斥候】のベネデット、【重戦士】のヴォーム、【魔術師】のテルの緊張と期待が入り混じった会話を聞きながら、ヒュードリクはギルドマスター専用の執務室の扉をノックする。
「入れ」
扉の向こうから応答があり、ヒュードリク達は扉を開け、室内に入る。
「来たか」
机には一人、禿頭の男――ギルドマスターのギリアンが座っており、その前にある複数人用のソファには既に男四人が座っていた。
「よぉ、待ってたぜ”白銀の剣”」
ソファに座っていた男の一人が、ヒュードリクに親しそうに話しかける。
同期である”翡翠の眼”のリーダーであるマーティンである。
その仲間である【斥候】のバイト、【魔術師】のユーマ、【神官】のバルべも、ヒュードリクを視界に入れると、挨拶をしてくる。
マーティンは立ち上がって近付いてくると、拳を上げる。
ヒュードリクもそれに合わせる様に拳を上げると、こつんとぶつけ合った。
「久しぶりじゃねぇか。まだ生きてたんだなマーティン」
「へっ、そう簡単に死んでたまるか。手前等こそ、今頃は魔物の腹ン中にでもいると思ったぜ」
一般からしてみれば過激な冗談を交わして笑い合う。
これが冒険者流という奴だ。
仲間達も、互いに挨拶を交わす。
会話が途切れるのを待って、ギリアンが話し出した。
「早速だが、今回手前等を呼んだのは、とある依頼を受けて貰う為だ」
「依頼? どんなです?」
代表してヒュードリクが訊ねると、ギリアンは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。
「……依頼内容はそこまで難しくねぇ。『人狼の巣の殲滅』だ」
「【人狼】ですか?」
人狼。
強靭な肉体と鋭い牙、爪を持つ俊敏な魔物である。
群れをつくり、まるで人間の様な村を作る事で知られている。
危険度のランクはC~B。
「あぁ。ここからそう遠くないマルクト大森林に巣を作りやがってな。それを殲滅するって依頼だ」
「マ、マルクト大森林の人狼? た、確かそれ、ウチの若手達が大勢で受けた依頼じゃないですか?」
魔術師のテルの質問に、ギリアンは重苦しく「あぁ」と頷く。
「その通りだ。……何があったのかはわからねぇが、5パーティー、総勢20人。その全員が帰ってこねぇ。どうやらしくじったみてぇだな」
ギルドが受ける依頼はランク、というモノが設定される。
通常であればA~Eに分かれており、冒険者ランクもそれと同様に分類される。
E~Dが駆け出し、C~Bが中堅、Aがベテランである。
『人狼の殲滅』の依頼の難易度は、最初はC……つまりCランクの冒険者相当の依頼だった。
だが、冒険者が失敗すればする程、危険だとしてランクが上がる。
ヒュードリクが記憶している限り、最初に請け負ったパーティーは将来有望な若い冒険者も多かった筈だ。
それが全滅したという。
俄かには信じられない話だった。
「全員が帰って来ない? 一人位は逃げて来た奴がいるんじゃ……」
「……この依頼はウチの若い連中の中でも腕は確かな連中を選抜して当たらせた。【人狼】は確かに強力な魔物だが、今回はウチも20人の大所帯だった。事前調査じゃ、数は多いが強そうな個体は多くなかったって話だ。……何かがあった。そうとしか考えられねぇ。……そこでだが、ウチでは1つランクを上げる事にした。今現在、この依頼のランクはBだ」」
ギリアンの言葉に、場の空気がピリッとし始める。
「そこでお前等の出番だ。Bランクの冒険者の中でも、トップクラスの実力を持つお前等ならこの依頼を熟せるだろう。……これ以上の失敗はウチの看板に泥を塗る。今回は特に他国からの依頼だ。……わかるな?」
威圧的なギリアンに気圧され、ヒュードリク達は無言で頷く。
任務の失敗はギルドの評判を落とす事になる。
それが何度も続けば尚更だ。
駆け出しの――EやDランクの冒険者が失敗したというのならば、それは余り大した評判にはならない。
誰だって最初は失敗する。
冒険者というのは失敗から学び、成功するにはどうするかを工夫し、ランクを上げていくのだ。
しかし、今回は若手とは言われてもCランクの冒険者達が失敗した。
ともなればギルドの沽券に関わる。
これ以上の任務の失敗は許さない。
しかも今回は国からの……いや、国同士が組んだ連合からの依頼だ。
重要度でいえば最上位だろう。
ゴクン。
誰かが唾を飲み込む音が、やけに大きく響く。
「って事で、だ。受けるか?」
ヒュードリクは仲間と、そしてマーティンとも視線を交わす。
全員が頷いた。
「わかりました。その依頼、受けます」
「ウチも文句はねぇ。受けるぜ依頼を」
リーダー二人が、其々のパーティーを代表して言う。
「良し、なら準備は怠るなよ。油断はするな」
「はい!」
「終わったら、酒でも奢ってくれやマスター」
マーティンの軽口に、ギルドマスターは口の端を上げる。
「フン、良いだろう。良い報告を待ってるぜ」
人狼達の村にもう一度、火の粉が降りかかろうとしていた。
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