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第10話 情報

 カインの予想通り、冒険者の持っていた荷物の中には一帯の事が書き記された地図があった。


「えっと……」


 それを人狼達の眼の前で広げ、赤い丸印が記された場所が恐らくこの村の場所だろう、と察する。


「ここがこの村……ヴァルミラが一番近いか」


 ヴァルミラは人間の国――というよりかは自治領に近い――の一つであり、通称”冒険者の国”と言われている。

 通称の通り、冒険者達の拠点となっている大きな街が幾つかある。

 国としては冒険者ギルドのギルドマスター達による合議制を取っており、戦争においては中立国として冒険者や傭兵を派遣している。

 恐らく、先刻やっていた冒険者達は、この国の冒険者だろう。


「……兎に角、次の冒険者達がやって来る前に戦力を底上げしないといけないな。オル―、今人狼達の中で戦える奴は幾らいる?」


 カインの問いに、オル―は胸を張って答えた。


「雌子供であろうと、我等は誇り高き【人狼】! 皆生まれながらにしての戦士です! 戦えぬ者などおりませぬ! ……と言いたい所ですが、実際に冒険者と対等に戦える程の腕を持っている者はトロスも含めて10もいるかどうかでしょうな」


 10か。……少ないが悪くないとカインは考える。

 身体能力や頑丈さでは人間を遥かに凌駕する【人狼】である。

 対する人間の強みは数、そして知恵だ。

 特に人狼は、魔術に対して知識のない者ばかりである。

 前回、魔術によって殺された人狼達が多い。

 それは人狼達も良く理解しているだろう。


 なら、徹底的に教え込み、鍛えれば良い。

 幸いにして、教える事ならカインも以前にやった事がある。

 カインはオル―に向け、命令を出す。


「……兎に角直ぐにその9人を集めてくれ」

「承知しました」


 頭を下げ、去っていくオル―。

 暫くして、オル―が9匹の人狼を連れ、小屋に入ってくる。

 どれも精悍な顔付きをした、若い人狼だ。


「何をするつもりだ? 大将」


 近くにやって来たトロスの質問に、カインは全員の顔を見てから、


「――手前等、これから死ぬ気で鍛えるぞ。人間が数で来るならこっちは少数精鋭だ」


 ニヤリと笑って答えた。








 一方、その頃”冒険者の国”ヴァルミラ。


 円卓の置かれた広大な部屋に、19の椅子が置かれている。

 その椅子には、屈強な身体付きの男達――何人かは魔術師の様な格好をした者もいる――が座っていた。

 ここはヴァルミラの心臓。

 国の方針が決められる場所である。



 この部屋にある豪奢な造りの円卓には意味がある。

 この国にある18の大ギルドは対等であり、その関係には上下関係がないという証明であり、象徴だ。


「では、今日の合議はここまでとしよう」


 一人の男がそう言うと、それまでピリッとしていた空気が弛緩し、各々が好き勝手に喋り出す。


「失礼します!!」


 そんな中、大きな音を立てて、扉が開き、若い男が駆け込んで来た。

 若い男は、目的の人物を見つけると、小走りで駆け寄った。


「ギルドマスター。お話が!!」


 若い男がそう言うと、ギルドマスターと呼ばれた男が面倒臭そうに返答する。

 屈強そうな筋肉質な身体に、完全に頭髪の抜けた禿頭をボリボリと掻く。


「なんだなんだ、そんなに急ぎやがって。……他の奴等の前だってのに。……何かあったか?」


 若い男は息を整えると、ギルドマスターに報告を始める。


「――は、はい。ウチの若い衆が帰って来ません」

「あぁ?」


 若い男の言葉に、ギルドマスターが眉尻を跳ね上げる。

 周りの男達も、内容が気になったのか話を止め、若い男の報告を聞く。


「……誰が帰って来ねぇ?」

「はい。……ウチの若手のエースの”鈍色の鉤爪”。それに”赤銅の誓い”、”漆黒の剣”、”黄の錫杖”、”蒼の逆鱗”の5パーティーです」


 並べられた5パーティーの名前に、ギルドマスターは舌打ちをする。


「チッ……この間ドゥレイブの依頼で人狼共を殺しにいった筈の奴等だな」

「はい」


 ギルドというものは、長によって特色が出る。

 例えば魔術師が多いギルド、逆に魔術師の一切いないギルド、パーティー名を統一するギルド等々……。

 このギルドマスターは、ギルドに所属している冒険者パーティー名を色で統一していた。


「なんだギリアン。お前ンとこのがヘマしたかぁ?」


 別の椅子に座っていた男――勿論彼も別のギルドマスターだ――が茶々を入れる。


「手前ンところじゃ無理なら、俺ンところが代わりにやってやろうかぁ?」


 男が続けてそう言うと、ギリアンと呼ばれたギルドマスターは舌打ちを返した。


「チッ……ふざけんなダニー。若いモンがしくじったってんならそれを拭うのは身内の義務だ。ウチがやる。……おい、”白銀の剣”と”翡翠の眼”の連中を集めろ。今連中はどこにいる?」


 ギリアンは自分のギルドの中堅に当たる二つのパーティーの名前を出す。


「確か依頼中だったかと! 数日は帰ってこれない筈です!」

「……なら依頼から帰還したらギルドマスターが用があると伝えとけ」

「は、はい! わかりましたぁ!!」


 若い男が慌てて出て行く。

 それを見て男達が徐に喋り出す。


「……ドゥレイブからの依頼か」

「どうせまた連合による”魔族狩り”だろ」

「魔族がいなくなったら俺達は食ってけないんだがな……」

「全くだ。ある程度は残しておいて欲しいね」

「おいギリアン、俺のギルドにその依頼を寄越せ」


(好き勝手に話してろクソ野郎共)


 ギリアンは席を立ち上がる。

 何にせよ、ギルドの看板に泥を塗った奴等を許す訳にはいかない。

 それが魔族だろうと。


 クソみたいな話し合いも終わった。

 もうここに用はない。


 ”冒険者の国”ヴァルミラを統治する組織の一つ、ギルド”七色の巨塔セブンスカラー・タワー”の長ギリアンは、大股で歩き出した。



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