犯人は誰? 絞られていく候補たち
「まず第一に、サイクロプス殺傷事件。魔王城の廊下にて、見回りに出ていたサイクロプスが殺された。死因は弱点の一つ目を刺されたこと。凶器は見つかっていない」
関係者たちが周りにいる中、探偵役・アイリーンが人差し指を立てた。
魔王城、連続モンスター殺害事件。
まず最初の事件から整理していく。この事件の第一発見者は、ミノタウロスのムラゾウ。
サイクロプスの同僚で、金を貸していた経緯はあるものの、犯人とするには決定的な証拠がない。
実は話の流れでムラゾウはついて来ており、すぐ近くでハラハラと事の成り行きを見守っている。
「第二に、宝物庫の強盗殺傷事件。目的が宝物庫にあったのか、ダクラネル卿の殺害にあったのかは不明。けれど宝はなくなり、ダクラネル卿も殺されている」
死因は焼死。ドラゴンの鱗を焼き尽くすほどの火力でもって燃やし殺された。
伝説級のアイテムを使ったのか、魔法を使ったのか具体的には不明。ただ普通の炎魔法で犯行は不可能であり、半人前の炎魔法使いはこの時点で犯人候補から外される。
魔王クラスの使い手であればともかく――ということで、城内のあらゆる力ある者が容疑者であり、誰もが疑わしい状況だ。
「フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット。誰が、どうやって、どうして。それらの情報を並べてみましょう」
城内の誰かが。
魔法か武器を使用して。
なんらかの目的でもって、一連の事件を起こした――。
「手掛かりは、天井の大穴。闇属性を帯びた城の壁を、破るくらいの威力の魔法。おそらくそれで、ダクラネル卿は殺された」
城の周りの雷にびくともしないはずの壁。
それを壊すほどの威力であれば、確かにドラゴンの鱗といえども貫けるかもしれない。
「犯人像としては、それほど強力な一撃を放てる、お金がほしい人物――」
「おまえかムラゾウ! おまえが金欲しさに事件を起こしたのか!」
「落ち着いてくだせえフィオネル様⁉ オラにダクラネル様を殺すのは無理だあ⁉」
二つの事件に共通している『金銭』の問題を持つムラゾウに、アイリーン付きの執事であるフィオネルが自棄になって詰め寄った。
相変わらず、弁明をすればするほど怪しくなるムラゾウである。疑いを向けられている者自身が「違う」というとかえって信用できなくなる、謎の法則。
こういった場合、助け舟を出す他人がいるものだが――今回もまたアイリーンが、ムラゾウをかばった。
「そうよフィオネル。ムラゾウに犯行は無理。少なくともダクラネル卿の殺害は無理」
「そうですね。ムラゾウごときにダクラネル卿を倒すのは無理だ」
「容疑が晴れたのはいいけど、なんか嬉しくないのはどうしてなんですかね⁉」
解せぬ、と叫ぶムラゾウ。しかしとりあえず容疑者から外れたことは事実である。
ミノタウロスのムラゾウには、ドラゴン族を倒せるほどの魔法は放てない。
仮に伝説級のアイテムを持っていたとしても、ここまで身近にいれば微細な魔力の漏れのようなものをアイリーンもフィオネルも感知する。
二つの事件の犯人が同じであれば、第二の事件の犯人ではないムラゾウは、必然的に第一の事件の犯人ではない、ということになる。
「ああ――分かってきたわ。これが推理というものなのね。探偵というものなのだわ」
物語に憧れて探偵を志したアイリーンが、うっすらと口の端に笑みを浮かべた。
蘇るとはいえ、臣下が殺されたにしては不謹慎な笑みである。普段は魔王の娘として押さえている彼女の素の感情が、喜びと共に姿を現した――そんな酷薄な笑みだった。
背筋に寒気を走らせるフィオネルをよそに、アイリーンはそのまま続ける。
「私の読みでは、もうひとつ事件が起こる。既に起こっている――まだ見つかってないだけで」
「アイリーン様。それは……」
一体、どういうことですか――と口にする裏で、フィオネルは主人に対してある疑念を抱いていた。
もしかしたら。
アイリーンが。
探偵役をやりたいがためだけに、一連の事件を起こしたのではないかと――
「申し上げます!」
そんな執事の思考をさえぎって、フィオネルの元にさらなる事件の報告があがる。
「魔王城の門番、スケルトンのスー、バラバラ死体で発見されましてございます!」