凶器はいったい?
サイクロプス殺しと、宝物庫強盗殺害の犯人が同じ。
そう言い出したアイリーンを、フィオネルは驚きとともに見つめた。
「本当ですか、アイリーン様……⁉ これが連続殺人であると?」
「ええ。まだ確証はないけれど、おそらく」
対するアイリーンは、従者に落ち着き払った態度で答える。
魔王の娘たる彼女は、何かの答えにたどり着いたのか、じっと天井の穴を見つめていた。
その姿は次世代の魔王たるに相応しい堂々としたものだったが、見とれている余裕はない。
フィオネルは混乱の中、なんとか疑問点をまとめて口に出す。
「ですが、手口が異なります。サイクロプスの方は斬殺で、ダクラネル様は焼き殺されています。凶器が共通してません」
「剣を持っていて、魔法も使えるのだとしたら? 裂傷があるからといって、剣で斬られたとは限らない。サイクロプスは風の魔法で切り裂かれた可能性だってある」
凶器は見つかってないわけだし――と、小さなあごに手を当てて考えながら、アイリーンは言った。
「どちらにしろ、巨大な力を持っていることに変わりはないわ。サイクロプスと戦って勝ち、ダクラネル卿の防御を貫通する。そしてそんな存在が――この魔王城の中をまだ、うろついている」
「……っ!」
静かにアイリーンは告げるが、その事実はフィオネルの心を揺るがした。
凶器――剣か、魔法か。
または未知のマジックアイテムか――それを持ったまま犯人は、周囲をうろついている。
このままではまた、次の事件が起きてしまう。そんな焦りと共に、フィオネルは部下に訊く。
「ダクラネル卿の死亡推定時刻は? 死後まだ間もないように見えるが」
「はい、死亡されてから数分といったところです。身体の中にまだ熱がこもっていて、冷まさなければご遺体も運べないほどホットです」
「順番としてはサイクロプスの後、か? となれば――徒歩であれば、まだ遠くまで行っていないな。城の皆に、総警戒態勢を取るように伝えよ。怪しい者を見つけたら捕らえるように!」
「はっ」
「決して一人で行動してはダメよ。弱い者は無理しないように」
フィオネルの号令の下に、一角ウサギが走っていく。
その後ろ姿に声をかけ、アイリーンは天井の大穴をもう一度見つめ、「……これまでの情報をまとめましょうか」と言った。