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犯人からの問いかけ

 真犯人の当たりを付けてさあどう詰めようと考えていたときに、真っ黒な封筒が届いた。


「……怪しいですね」

「怪しいわね」


 魔王城に届けられた怪しすぎる封筒に、執事フィオネルはうろんげな目をし、お嬢様アイリーンは淡々とうなずく。

 真っ黒の封筒に白い(ろう)の垂らされたその手紙は、不吉な雰囲気をこれでもかというほどまき散らしていた。

 おまけに蝋に押された判は百合ときている。明らかに黒百合の姫――真犯人からの挑戦状だ。

 これまではさほど、表立って仕掛けてくることはなかったが。


「……では、意を決して。開けてみましょうか」


 先日の事件でアイリーンが大体の目星を付けたことで、もはや隠れる必要もなくなったということか。

 段々と笑い事では済まされなくなってきたここ最近の事件を思い出しつつ、フィオネルは封筒を開けた。下手をすれば命に関わるものだってある。警戒するに越したことはない。


 恐る恐る開封してみたものの、中に剃刀などが入っている様子はなかった。

 そんな古典的というか、あからさまな真似はしないお嬢様のようだ、その黒百合の姫とやらは――アイリーンとほぼ同格の魔界の重鎮の性格を胸中で推し測りつつ、フィオネルは手紙を読み上げる。


「――『探偵と犯人の違いは何?』」


 黒い便箋には、たった一言そう書かれていた。


「……どういうことでしょうか」

「謎かけでしょうね。犯人からの」

「確かに、そうなのでしょうが……」


 感情を挟まず答えるアイリーンに、フィオネルは首を傾げてもう一度便箋を見る。

 ここでいう『探偵』とはやはりアイリーンのことなのだろう。

 格好いいからと小説を読んで、探偵を志した彼女だ。対して、『犯人』とやらは――。


「……自らのことを、指しているのでしょうか」


 つまり、アイリーンと自分にどれほどの違いがあるのか、と。

 そう問いているのだろうか。

 それともただ単に、概念的な意味で探偵と犯人との違いを訊きたいだけなのだろうか――そんなことを考えていたときに。


「……あれ?」


 ぐらり、とフィオネルの視界が揺らいだ。

 力が抜ける。身体が崩れ落ちる。気が付いた時は床に横たわっていて、事態についていけずフィオネルは目を白黒させた。

 ただ、駆け寄ろうとするお嬢様へ直感的に、ありったけの声で叫ぶ。


「近寄らないでください‼」

「……っ」


 介抱しようと近づきかけたアイリーンは、フィオネルの制止の声に踏みとどまった。

 彼女の表情と自らの身体の状態に、ようやく執事は事態を把握する。

 毒だ。手紙に毒が仕込まれていた。

 しかも呪いにも似た強力なもの。手にした黒い便箋の感触に、フィオネルは歯噛みしようとした。

 でもできなかった。どんどんグラグラと歪んでいく視界に、相手の性格の悪さを実感するのみ――。


 倒れ伏す執事を見下ろし、アイリーンは深々とため息をついて言う。


「……いい加減姿を現したら? ユリア」


 その呼び声に応え。

 黒百合の姫、冥王の娘・ユリアの姿が浮かび上がった。

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