表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/60

第二の事件〜残された手掛かり

「ダクラネル卿……なんと無残な姿に」


 宝物庫の守り番、暗黒竜ダラグネルの殺害。

 その現場に駆け付けたフィオネルは、ダクラネルの遺体を見て思わず声を上げていた。


 魔王城の通路サイズ上、普段は一般的なモンスターと同じくらいの形を取る、ドラゴンのダクラネルである。

 ただ、今見えている姿はそうではない。

 戦闘形態。真正の竜としての姿をとっている――宝物庫もまた、それほどの大きさを誇っている。


 うず高く積まれた金貨の山。そこに倒れ伏したダクラネルの身体は、真っ黒に炭化していた。

 つまり焼き殺された、ということになる。鋼鉄の皮膚、魔法を跳ね返す鱗を持つドラゴン族相手に、これほどの。

 犯人の凶悪さを思い知り、フィオネルは唇を噛んだ。


「卿の後ろにある宝箱から、めぼしいものが持ち去られています……強盗致死、ということでしょうか」

「そうね。宝を守るダクラネルを狙った犯行、と考えるのが自然でしょう」


 苦しげなフィオネルに、応えたのは魔王の娘・アイリーンだ。

 彼女は金髪をなびかせ、気丈にも臣下の遺体を見つめていた。感情を押さえつけて話す姿は、フィオネルにとって痛ましいものだ。

 いくら時間をかければ蘇るモンスターとはいえど、死の際に受ける痛みや苦しみは本物である。

 激しいショックに耐え切れず、前線から退いて花を育てる職業に就きたい、などと言い出す者もいる。


 ダクラネルはそういった修羅場を駆け抜けてきた猛者でもあった。だからこそ、彼が倒されたという事実はフィオネルに重くのしかかる。


「ダクラネル卿……あなたの仇は、必ず」


 フィオネルがつぶやき、アイリーンは硬い表情のまま何も言わなかった。ただドレスの裾を、きゅっと握っただけだった。


「ご報告申し上げます。ダクラネル様の死因は、焼死。重度の火傷によるものです。筋肉層の内部まで炭化が進んでいます」

「この大質量の内部まで燃やすか……相当な魔力量だな」


 部下の一角ウサギ(アルミラージ)の報告に、フィオネルはドラゴンの体軀(たいく)を見上げつつ応える。

 またしても、凶悪な犯人像が思い浮かんだ。巨大なドラゴンを焼き尽くすほどの力を持つ相手とは、いかなるものか。そんな相手からアイリーンを守れるのか、不安になる。


「犯人は強力な魔法使いか? いや、だとしても一般的な炎魔法で、ここまでの火力が出るものか……」

「普通の炎魔法で、ここまで燃やすのは無理でしょうね。お父様の炎魔法(ハデス・フェニックス)ならともかく」


 超高火力の炎の鳥を、「娘が喜ぶから」という理由で遊び相手に出す魔王の姿がよぎって、フィオネルは一瞬白目になった。

 あのときは焦土と化した庭の復旧に苦労したのだ。まあ、その爆心地でもアイリーンはケロッとした顔をしていたのだが――そういえば、あのときの庭の再整備にもダクラネル卿は力を貸してくれたなあ、と遠い目をすると。


「……あれ?」


 フィオネルの視界に、天井に開いた大穴が入ってきた。

 魔王城の周りに光る雷で空いた穴だろうか。いや、周囲の雷は闇属性を帯びている。

 同じ闇属性を持つ城の壁を破るまでには至らないはずだ。耐性があるのだから。


 だとしたら、あの穴もまたこの事件の手がかり――?


 そう思うフィオネルの隣で、アイリーンが言う。


「ねえ、フィオネル」


 彼女もまた、天井に開いた大穴をじっと見上げていた。


「私、さっきのサイクロプスの事件とこちらの事件の犯人、同じだと思うの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=189428228&s
― 新着の感想 ―
[一言] まさか宝物庫を守るドラゴンを炭化させるほどこんがり上手に焼けました状態にさせるとは……、犯人おそるべし! やはり、こんなとんでもげいとうは、ムラゾウにはできそうもないので彼の容疑も晴れそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ