お嬢様のライバル
言い出したらきかない、というのはアイリーンだけではなく、ある意味ではフィオネルも同じだった。
「学校に保護者同伴で登校するなんてあり得ないでしょう!」
と抵抗したアイリーンだが、教室には入らない・下校までは別室で待つという条件に渋々首を縦に振った。
子どもじゃあるまいし、とまだ道中でぶつくさ言うアイリーンに、フィオネルが言う。
「私から見ればアイリーン様はいつまでもお嬢様なのですが」
「それがいつまでも子ども扱いって言ってるのよ、まったく……」
揺れる馬車の中と外で、お嬢様と執事のやり取りは続く。
しばらくゆったりと揺られたところで、馬車は学園の前へとたどり着いた。
広大な敷地と、巨大な建物。
ただの学校ではない。魔王の娘であるアイリーンが籍を置く、魔界でも屈指のお嬢様学校だ。
つまり他の生徒たちも、高貴な身分の者たちである。
交わされるのは蝶のような笑い声。そんな中から――しかし、ひときわ高い声が飛んでくる。
「久しぶりですわね、アイリーン!」
馬車から降りるなりかけられたセリフに、呼ばれたアイリーンは眉間に指を当てた。
フィオネルが声のした方向に顔を向ければ、銀髪で翠の目をした少女がこちらをにらみつけている。
見たところアイリーンと同じくらいの年齢だ。名前を呼んだことからしても、知り合いとみて間違いない。
「どちらの御令嬢でしょうか、あのお方は」
「……精霊界から留学してきてる、精霊王クオンタージュの娘、ミラベルよ。同じクラスなの」
「これはまた、大物が出てきましたね。ご学友でいらっしゃいますか」
「違うわ、むしろ……」
「何をぶつくさ言ってるのか分かりませんが、今度こそ決着をつけますわよ、アイリーン!」
再び銀髪の少女――精霊姫ミラベルが言い放つ。身につけたクリスタルと白銀の衣服が揺れた。
精霊王の娘ともなれば、魔王の娘であるアイリーンとは身分上でほぼ同格である。立場で決着がつかないのなら他の要素で勝負、という闘志がミラベルの眼差しからは透けて見えた。
つまり二人はライバル関係ということだ。
しかもこの様子からして、ミラベルの一方的な――と。
そこまで考えて、フィオネルは顔をしかめた。
『ライバル』という単語を示して青白い炎が燃え上がったのは、ついこの間のことだ。
「違うわフィオネル。ミラベルは犯人じゃない」
雰囲気を鋭くする執事に、アイリーンが釘をさす。
楽譜庫の案内板を暗号化し、暗黒竜の日記から炎を出した相手は、彼女ではない。そう言い切るアイリーンの声は確信を持ったものだ。
「性格的に、ミラベルはそういう遠回しな方法を好まないわ。むしろ今みたいに、正々堂々真っ向から挑んでくる」
「……なるほど」
魔王の娘の物言いは、ある意味ではその銀髪の少女を信用していると言っているようでもある。「まあつまりバカなのだけれど」と付け加えるのはちょっとどうかと思ったが、ともかくフィオネルは警戒を解いた。
「お友達なのですね」
「違うわ。向こうが勝手に突っかかってくるだけよ」
ふん、とそっぽを向くアイリーンに、苦笑するフィオネル。
そんな二人の会話を知る由もないミラベルは、ずんずんと馬車に近寄ってきた。
「しばらく見ないと思っていたら、何やら探偵の真似事をしているのですってね!」
「あら、あなたの耳に入るまでになっているとはね。私も有名になったものだわ」
「この魔界であなたがこれ以上有名になるとか、嫌味ですこと⁉ 頭にきましたわ、やっぱり勝負ですわよ!」
あからさまにやる気のないアイリーンに、「きいいいい⁉」とミラベルはハンカチを噛む。
「勝負といっても、何で?」と首を傾げる魔王の娘に、精霊王の娘は指を突きつけた。
「ここは貴女に免じて、探偵勝負で決着をつけましょう。
逃げ出した魔導生物を、先に捕まえた方が勝ちですわ!」




