フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット
探偵役、魔王の娘・アイリーン。
助手、執事フィオネル。
第一発見者、ムラゾウ。
事件現場には三人が顔をそろえていた。
ムラゾウの疑いはまだ完全に晴れたわけではない。ただ、今のところは白ではないか、というのがアイリーンとフィオネルの意見だ。
この暗雲立ち込める魔王城で、白も黒もないのだが。ピシャリとひときわ高く雷が鳴った窓の外を見て、フィオネルは思う。
視線を元に戻せば、足元には深紅の絨毯がある。
しかしその一部は、黒く変色している――サイクロプスの血で。
魔王城でサイクロプスが殺された。
何者かによって。解決に乗り出したアイリーンであるが、元々ミステリーに憧れ探偵になりたいなどと言い出していたのだ。この状況は願ったり叶ったりかもしれない。
お目付け役としては頭が痛いが、満足するまで付き合うのもまた、執事としての役目であろう。
もし彼女が危機に直面するなら、身を挺して守ることも辞さない。
密かに覚悟を決めるフィオネルであるが、そうなる前に、まずきちっと事件を解決することが重要だ。
では、ここから何をすべきだろうか――考えるフィオネルに先んじて、アイリーンが口を開く。
「そうよ、こういうのが『ふーだにっと』というのよね。本で読んだわ」
「フーダニット。誰が犯行に及んだか、というものですね」
読んだものの影響か、推理小説の用語を持ち出すアイリーンに、フィオネルは相槌をうった。
己が主人ほどでなくても、彼もまたそれなりに人間界の書物には目を通している。
確か、フーダニットの他にも、ハウダニット、ホワイダニットというものがあったはずだ。
「確か、ハウダニットがどうやって犯行がなされたか。ホワイダニットがどうして犯行に及んだか、というものだったはずです」
「ずるいわフィオネル。それ、私が言うはずだったのに」
「も、申し訳ございません」
唇を尖らせるお嬢様に、フィオネルは慌てて謝る。いつもなら冗談で済ませられるものだが、今のアイリーンは本気である。
本気で、探偵というものを目指している。だからこそフィオネルの言葉を「まあいいわ」と流し、彼女は事件の本筋の方へと戻った。
「誰が、どうやって、どうして犯行に及んだか。これを調べることが解決へとつながるはずよ」
「誰が、どうやって、どうして、ですか……おいムラゾウ。念のため訊いておくが、おまえにサイクロプスを殺害するような動機はあるか」
「動機、と言われましても……」
ちょうど目の前に容疑者そのいちがいるので、フィオネルは試しにムラゾウに話を向けてみる。
第一発見者が犯人だった、というパターンは珍しくない。先ほどはアイリーンの嘘感知の魔法に引っかからなかったが、何らかの方法ですり抜けることは可能である。
例えば、魔法で記憶を消しているとか。まあ、ミノタウロスであるムラゾウは、そこまで高度な魔法は使えなさそうだが。
そうでなくとも、マジックアイテム等、方法はいくらでもある。この辺りを考え出すとキリがないため、まずは動機の面からフィオネルは攻めることにした。
問われて困った顔をしたムラゾウは、そのまま首を傾げる。
「まあヤツには確かに、お金を貸したりはしてましたよ? けれども多少延滞したくらいで、殺してやるなんて……」
「あの。ムラゾウ。今嘘感知の魔法に微妙に引っかかったわ……嘘はいけないわよ?」
「なっ、貴様……!」
「違う違う違う! 信じてくんろ!」
身構えるフィオネルに、必死に否定するムラゾウ。
自らの魔法の手ごたえに、渋い顔をするアイリーン――そんな三人の元に。
「ご報告申し上げます、フィオネル様!」
ウサギの耳と額から飛び出た角を持つ、モンスターが話しかけてきた。
衛兵の証をつけた一角ウサギは、ひざまずき次の事件の内容を告げる。
「宝物庫にて、暗黒竜ダラグネル様の遺体が発見されました!」