弁解するやつほど怪しい
「ち、違う! オラじゃねえ!」
サイクロプスが殺されていた事件。
その第一発見者であるムラゾウは、質問に激しい反応を示した。
自らの主人と現場検証をしているときに、フィオネルは気づいたのである。ミノタウロスであるムラゾウの肌は赤黒くて分かりにくいが、確かに血がついていることに。
そのことを訊いた直後、ムラゾウは慌てて弁解を始めた。
あからさますぎて、かえって怪しい。
フィオネルが顔を歪めると、ムラゾウは続ける。
「サイクロプスが倒れてるのを見つけて、生きているのかどうかを確かめるために死体に近寄ったんです! そしたら、脈がなくて……オラ、慌てて、報告に……」
「血を拭うのも忘れて俺のところに報告に来た、と。よりにもよってお嬢様の部屋にいるときに……」
「許してくだせえ! 悪気はなかったんです!」
完全に犯人の言うセリフだが、今のところムラゾウがこの事件の犯人である証拠はなかった。
あるのはただ、『血がついている』という状況のみである。
それだけで疑ってかかるのは、根拠が弱い。魔王城内という身近なところで起きた事件だけに、気が立っている――と、謝り倒す部下を見て、フィオネルがため息をつくと。
『お嬢様』が言う。
「あまりいじめないであげてフィオネル。私が関わってきてしまったから、気を遣っているのでしょう?」
泣きそうになっているムラゾウをかばったのは、フィオネルの主人、アイリーンだ。
金髪で黒のドレスを着たアイリーンは、魔王の娘でもある。当然、上に立つ者としての気品も兼ね備えている――自室でダラダラしているとき以外は。
お目付け役としてアイリーンの執事となっているフィオネルである。
たとえ彼女がクッキーを食べながら昼寝していても。魔法で重要書類の偽物を作りまくっても。己が主を守ろうと警戒の度合いは高める。
しかし、いささかムラゾウに対してはやり過ぎた。
状況証拠だけで問い詰めるべきではなかった――やんわりと制止してくるアイリーンに「申し訳ございません、取り乱しました」と謝り、フィオネルは少し頭を冷やした。
「嘘感知の魔法に引っかからなかったもの。ムラゾウは嘘を言っていないわ」
「しっかり魔法でチェックしてる辺り、抜け目ないですねアイリーン様……」
「あら。なんの根拠もなく疑ってかかるより、よっぽどフェアなやり方じゃない?」
あんまり部下をいじめると、お父様に言いつけちゃいますからね――と半ばパワハラ事案になりかけたことに、釘を刺される。最近は魔界もコンプライアンスに厳しいのだ。
その辺りの職場環境の改善も、アイリーンは期待されているのである。事情聴取はクリーンに。オープンに。
次世代の魔界を担う者として、アイリーンはムラゾウに問いかける。
「黙って嘘感知の魔法を使ってしまったことは謝罪するわ、ムラゾウ。でもこれも、あなたの疑いを晴らすためだから」
「ううっ……アイリーン様ぁ……」
「お嬢様。魔法といえど、すり抜ける手段はいくらでもあります。完全にシロと判断するにはまだ早いかと」
にこりと笑いかけるアイリーンに、すがるように抱き着くムラゾウ。
そして主からムラゾウを引きはがすフィオネル。三者三様の立場だが、役割自体ははっきりしていた。
探偵と、第一発見者。
そして助手。
果たしてこの中に、犯人はいるのか――。
レビューをいただいて嬉しいので、今日は2話更新します(•̀ᴗ•́)و ̑̑