執事の告白
「アイリーン様、どうしてここに……?」
目の前に現れたアイリーンに、フィオネルは呆然と声を上げていた。
本来ならば魔王の娘という立場上、アイリーンは城の中にいるはずである。
それがどうして、城下町にいるのか。
理解が追い付かず固まるフィオネルに、アイリーンがずいと詰め寄った。
「どうしても何も、貴方の様子が最近おかしいから、後をつけてきたんじゃない」
「は、私の様子が、ですか」
「たまに上の空で返事をしないことがあるし、どうしたのか訊いても誤魔化すばかりでちゃんと答えてくれないし。気になってお城を抜け出してきたわ」
憮然とした顔で言ってくるアイリーンに、段々とフィオネルも事態を飲み込み始めたらしい。
気まずげに追い詰められた執事は、目を泳がせ始める。
すると彼の視界に、アイリーンとは別の者たちが入ってくる。
「あー。残念ながら執事の兄ちゃんの行動は、全部見張らせてもらっとった」
「フィオネル様、観念して本当のことしゃべった方が身のためですよ……?」
ため息をつきながら進み出てくるミミックのスズエに、おずおずと進言してくるミノタウロスのムラゾウ。
彼らとアイリーンの三名は、今日フィオネルの行動をずっと見ていた。
「花屋に寄ったところから、妹さんの家に寄ったところまで。さらに、この占いの館に入ったところまでな」
「な……妹のところに行ったのも見ていたのか、おまえら⁉」
「あ、やっぱりあれ妹さんだったんですね」
道中でフィオネルによく似たダークエルフの女性を見かけたが、あれはやはり彼の妹だったらしい。
休みの日に、家族に会いに行った。
それ自体は別にいい。問題は、ここに来るまで持っていた花束はどこにいったのか――フィオネルの目的はなんだったのか、である。
主人であるアイリーンにすら隠さねばいけない秘密とは、なんだったのか。
この期に及んで口を閉ざしたままのフィオネルを、アイリーンは口をへの字にして見上げた。
つまり、泣きそうな顔をした。
「……やっぱり、私には言えないような良くないことなの?」
「うっ……」
「私の執事の任を解かれてしまうの? さようならしてしまうの?」
目に涙を溜めたお嬢様にこうまで言われては、折れざるを得ない。
ぐぐぐ、とうなったフィオネルは一転して大きくため息をつき、渋い顔で言う。
「そうまでお嬢様に心配させてしまったのは、私の失点ですね……」
「もったいつけとらんで、キリキリ白状せい」
「そうですよー。こっちも城から出てきたアイリーン様をエスコートしたり守ったり、大変だったんですから。ここまで来たら真相を聞かせてください」
「おまえらは全くお呼びでないのだが……まあ、お嬢様をここまで護衛してくれたんだ。そこは、感謝する」
横から出てきたスズエとムラゾウに一瞬フィオネルは半眼になるが、覚悟を決めたらしい。
一行に対して向き直り、休日の執事は言う。
「今回、私が城下町に来たのは」
『来たのは?』
固唾をのむアイリーンたちに、フィオネルは少しだけ照れた顔をした。
「……お嬢様への、プレゼントを買うためです」




