フィオネルの災難・お茶会は再び
「いやまさか、またミミックの中に入ることになるとは思ってませんでした……」
謎が解け、再びお茶会を始めた魔王の娘の部屋で。
執事のフィオネルは、げんなりとつぶやいた。
推理の披露が終わった後、証拠を見つけるためにフィオネルは、もう一度ミミックの倉庫に入ったのだ。
消えた金貨――と思われていた、コインチョコレート。
その金色の包み紙を見つけて、ほうほうの体で外界に戻ってきた。肉を溶かす、つまり身体の成分を溶かすミミックの体内にいたのだ。生きた心地がしなかった。
山ほどある金貨の中で、ペラッペラになったチョコレートの金紙を探すのも、それはそれで大変だったけれども。
ちなみに当のミミックであるスズエは、「こんな偽物に騙されおって、ワイ恥ずかしいー!」と持ち帰ってきた包みを見て叫んでいた。
文字通り、金貨を食べてしまった――食いしん坊のミミックのことをクスリと笑い、アイリーンは言う。
「いいじゃない。おかげでまたひとつ、楽しい時間が過ごせたわ。やっぱり推理っていいものね」
お茶会の途中でやってきたミステリーは、探偵を目指す彼女にとってみれば、いい休憩のおやつだったかもしれない。
また温かく淹れなおしたお茶を片手に、アイリーンは笑う。
「じゃあ、やっぱり最初のお話に戻りましょうか。フィオネル、私お茶に合うお菓子がほしいわ」
「……そのお菓子、というのは、言葉どおりの意味ですか。それともまた謎を持ってこいということですか」
お嬢様の再びの小さなワガママに、さすがのフィオネルといえども憎まれ口が出た。
今回は推理の実証に、軽く命の危機を感じたのだ。いくら忠実な僕といえど、そんな態度に出たくもなる。
だがアイリーンは、「あら、ご挨拶ね」とカップを両手に包んでおかしげに言うばかりだ。
「まあ、両方――と言いたいところだけど。今回の件の働きに免じて、お菓子だけで許してあげるわ。今日のところは」
「恐ろしい答えですね……。分かりました。では何かお持ちいたしましょう」
無邪気に笑うお嬢様に一礼し、フィオネルは部屋を出る。
クッキーにしようか、スコーンにしようか。
あるいは、今の彼女の気分的にはやはり、チョコレートケーキだろうか――そんなことを、考えながら。
金貨はどこへ消えた? ~完