金貨の聞き込み~謎は全て解けた!
「どんな金貨やったかって、柄が見たことないものやったんよな」
魔王の娘・アイリーンの問いに、ミミックのスズエは軽快に答える。
「誰か偉げなヤツの横顔が入っとんねん。あと文字に、なんかの紋様な。よくあるデザインやけど、古今東西の金貨を集めてるワイも、初めて見るもんやった」
「大きさは? どのくらいだった?」
「普通の金貨と同じくらいやったな。めっちゃキラキラしとって、こりゃ新品やなと思った。大事にとっておいて、ダクラネル様に後で鑑定をお願いしようと思うとうたさかい」
その前に、なくなってしもうて――と、スズエはがっかりしたように身を縮める。
大事に身体の中にしまってあった金貨がなくなってしまったのだ。
ミミックのスズエとしては大変な事件である。かつ、アイリーンにとってそれは密室という謎なのだ。
双方にとって解決すべき問題だが、そろそろアイリーンは真相が読めてきてしまっているらしい。
複雑な顔をするお嬢様を、執事のフィオネルは冷や汗を垂らしつつ見つめる。
「持った感じはどうだった? 重いとか軽いとか、手触りとか。何か気づくことはあったかしら」
「ワイ、手がないさかい、大抵のものは浮かして動かしとる。だから重さとか手触りとか、その辺はよう分からんのよ」
「……そう」
出されたティーカップを、浮かせて中身を飲んでいたスズエ。
そのときの光景を思い出したのか、アイリーンはうなずいた。この部屋に来た当初、彼は独自の手法でお茶を飲んでいたのだ。
そしてスズエはもうひとつ、何と言ったか。
フィオネルが記憶を探っていると、アイリーンは述べる。
「珍しい金貨。ミミックの習性。宝箱という密室。それらに加え、金貨を拾ってからスズエの目が覚めるまでの少しの時間」
落ちていた金貨。
亜空間に倉庫を持つミミック。
入ったら出られない宝箱。
金貨はどこへ消えたのか――。
それらの謎が、アイリーンには解けたらしかった。言葉を重ねるうちに、彼女の瞳がみるみると輝きを帯びてくる。
真相を暴いてしまって少しテンションが下がったものの、推理を開陳していくうちに楽しくなってきてしまったらしい。
探偵になりたい。
そう口にしたアイリーンが、こういう態度に出たということは。
つまり――
「謎は全て解けたわ」
彼女がまた、誰もが言ってみたいセリフを言うべきときが来たということで。
フィオネルとスズエは、息を呑んでアイリーンの次の言葉を待った。