ミミックのひみつ
「どうだった? フィオネル。スズエの中は」
「……結構な量の金銀財宝がありました。あと、白骨も。ミミックの宝を狙った者の成れの果てでしょう」
ミミックの内部から顔を引っ張り上げて、フィオネルは勢い込んで訊いてくるアイリーンにそう答えた。
持っていた金貨が消えた。
そう証言するミミック・スズエから詳しい話を聞き、調査に乗り出したフィオネルとアイリーンである。
魔王の娘であるお嬢様、アイリーンは、執事の報告を今か今かと待っている。
対してフィオネルは、見てきたものををなるべく感情を挟まず、端的に述べた。
「外から見えるミミックの身体に対して、中の空間は不釣り合いなほど大きなものでした。ミミックの口というのは、恐らく亜空間につながっているのでしょう」
「そや! 兄ちゃん鋭いなあ!」
フィオネルの報告に、当のミミック・スズエがぴょんと跳ねて同意する。
金と黒の立派な宝箱――に擬態するモンスター。
宝を集め、保管することを生きがいとする種族、ミミック。
生きる宝物庫。当然、その宝を狙った者を撃退する仕組みも持っている。
「ワイから宝を盗もうとしたヤツはばっくり食うたるし、運よくワイの中に入ったヤツも、そう簡単には出られへん!
ワイが自分の意志で口を開けない限り中からは出られへんし、そうでなくてもその亜空間、生き物を溶かす物質が分泌されるからな! 脱出を試みてるうちにドロリ、や!」
「なぜ俺を箱の中に入れた⁉ そうと知っていて、なぜ俺を止めなかったぁ⁉」
まるで食虫植物。生物を溶かす内部機構を持つミミックと、そうと知らずに入ったフィオネル。
危うく溶かされるところだったと、フィオネルはスズエを掴んで思いっ切り揺さぶった。「おおお落ち着きいや兄ちゃん! ちょっとの時間だったらワイも我慢するさかい、大丈夫やて!」という声に、ようやく彼はスズエを離す。
「ええやん、ちょっとくらいなあ。植物系モンスターに比べたら、ワイらは可愛いもんやと思うで。なにせあいつら、肉じゃなくて服を溶かす悪趣味なヤツらやからなあ」
「そういう問題ではないのだが……まあいい。お嬢様に危害が及ばなかったのだ、よしとする」
ミミックの恐るべき生態を知って戦慄するフィオネルである。
もう二度と入ってたまるか――と思いつつ、彼はアイリーンへと報告する。
「というわけで……まあ、何かどっと疲れましたが。ミミックというのは『自分の身体を通して亜空間に宝物庫を形成し、管理する生き物』なのでしょう。
扉の開閉も出入りも本人次第。スズエの言うとおり、よほどの幻惑魔法の使い手でなければ本人の意思とは関係なしに、金貨を持ち出せる思えません」
「つまり鍵穴どころか、密室はさらに強化されたということね……なるほど」
破るどころか完全密室となってしまったスズエの体内である。
これではますます、金貨がどこに消えてしまったのか分からなくなる。
捜査は振り出しに――と思いかけたフィオネルはしかし、アイリーンが小さくつぶやくのを聞いた。
「……なるほど」
――え、お嬢様、大体わかってきた顔ですよねそれ。
小さなあごに手を当て、うなずくアイリーン。
彼女の表情は複雑なものである。謎が解けてしまったガッカリ感と、謎が解けた嬉しさが同居しているような――
苦笑い、という感じだろうか。そんな表情のまま、アイリーンはスズエに質問する。
「ねえ、スズエ。一応確認なのだけれど……拾った金貨というのはどういうものだった? 詳しく聞かせてもらえるかしら」
――いや。その物言い、どう考えても大体わかってるでしょ。
自らの主人の洞察力に戦慄を覚えつつ、フィオネルはスズエの返答を待つ。