冷えた倉庫
ミミックの中に頭を突っ込んだら、広がっていたのは驚きの光景だった。
まず、広さ。外側から見た宝箱より、明らかに大きな空間が内部には広がっている。
人がひとり暮らせるくらいの広さはあるだろうか。暗い空間はひんやりしていて、まるで洞窟にある倉庫のようだった。
口を開けたときに広がっていた虚無は、どうやらこの空間につながる門のようなものであるらしい。
水面をくぐるような感覚はあったが、顔や髪は濡れていない。前髪を触って確認し、フィオネルはミミックの不思議さを改めて確認する。
そして、驚くべきことがもうひとつ――案外と広かったミミックの内部には、金銀財宝が山のように積んであった。
「こんなにあるのに、わざわざ『珍しい金貨』とやらを持っていったのか……?」
ミミックの中から、知らないうちに金貨がなくなっていた、ということだったが。
いかに珍しいものといえど、盗人がこんなにある中から好き好んでそれを持っていくだろうか。
あるいは、最初から例の金貨が目当てだったのか。
これはその金貨がどういうものだったのかも聞いておく必要がありそうだな、とフィオネルがうず高く積まれた金銀財宝に改めて目をやると。
きらびやかな山の中に、くすんだ白があるのが目に入ってくる。
「……ガイコツ、か」
ミミックの中から宝を盗もうとした者の成れの果てだろうか。
あるいは戦いを挑んで、呑み込まれた者だろうか。宝の山の中には、鎧や王冠をつけた白骨があった。
金色に埋もれるようにして、彼らは眠っている。ミミックに挑むということは、常にこうなる危険がともなうということだ。
宝を守るために自動防御で襲い掛かる、という性質は間違っていなかったらしい。
むしろこの骨たちによって、ミミックのスズエの言い分は強化されたように思える。
ミミックという密室。
外部からの干渉を受け付けない部屋。
そして侵入者を許しはしない、ということも――スズエに気づかれずに内部に侵入し、金貨を持って脱出するというのは、かなり難しい芸当なのではないか。
金貨の中から、しゃれこうべがこちらを見ている。
宝の山に沈むのは冒険者か、またはモンスターの盗人か。
それに黙礼してフィオネルはこの冷えた倉庫から辞することにした。
再び水に塗れるような感覚をおぼえながら、上半身を引き抜いていく。
正直に言えば、少しだけ安心した。
探偵を目指す己が主人――アイリーンには、この寒々しい光景を見せずに済んだからだ。