推理とティーパーティー
「ワイにまでお茶を出してもろて、えらいすんまへんなあ!」
ま、ワイお茶の味とかようわからへんのやけどなー! などと言いながらガブガブと出されたお茶を飲むのは、ミミックだった。
ミミック。
宝箱に擬態する、モンスターの一種である。
金と黒の豪勢な造りの身体。一見無機物に見えるが口を開くとふにふに動く謎の生き物。
ダークエルフのフィオネルからするとなんとも奇妙な生物だが、種族の違いは受け入れるしかない。魔界でも差別はなくそうという動きはあるのである。
苦い顔をするフィオネルと、同じテーブルにつく魔王の娘に向かって、ミミックは続ける。
「それにお嬢様に話もできるなんて夢みたいやな! アイリーン様、ワイの金貨一緒に探してくれるってホンマ?」
「ええ。そのためにもお話を聞かせてほしいの」
にこにことミミック――スズエと名乗った――に答えるのはアイリーン。魔王の娘であり、人間界の推理小説を読んで探偵に憧れるお嬢様である。
金貨がなくなった、と騒ぐスズエを発見し、謎を解くために部屋に入れた彼女。
ちょうどお茶の時間だったこともあり、一緒にカップを傾けながら謎を解こうということになったのだ。
ミミックにお茶を淹れる、という人生初の経験をすることになった執事フィオネルは、渋い顔で傍に控えている。
どういう原理かカップを宙に浮かせてお茶を飲んでいたスズエは、がちゃんとカップを皿に置いて「そや! 話やな!」と言った。
「珍しい金貨を拾うてんよ。ひょっとしたらえらい価値があるかもしれん、大事に口の中に入れとった! それが昼寝から起きたら無くなってたんや!」
「身体の中にしまっていたのね? 寝ている間に誰かが持ち去っていった可能性は?」
「ない! ワイらミミック族は、寝てる間でも誰かが宝を持っていこうとしたら反応する! こう、口ぱかーって開いてぱくり、や!」
蓋に見せかけた口を、スズエはぱかぱかと開け閉めした。よくよく見れば、そこには鋭い牙が生えている。
寝ている隙に開けて中身を持ち去ろうとしても、自動防御が発動して撃退する仕組みだ。
良くて怪我、悪くすれば食い殺されるだろう。元々ミミックというのはそういう習性を持った生き物である。起きていようが寝ていようが、内部にあるものを持ち去ろうとする輩を、ただではおかない。
「ということは、箱を開けていないのに金貨はなくなった、ということ?」
「そうや。おかしな話やろ? 誰も手ぇつけてへんのに金貨が無くなったんや」
興味深そうに質問するアイリーンに、スズエはうなずく。
困ったように身をよじるミミックだったが、アイリーンはしかし目を輝かせた。
「お嬢様。今の証言をまとめるに、これは……」
「ええ。開かずの宝箱。中に入った金貨。誰にも手を付けられずに忽然と消えたミステリー……これは」
楽しげに聞いた情報をまとめるアイリーンに、フィオネルはこっそりため息をつく。
そう、これは彼女の大好きな謎だ。
曰く、鍵のかかった部屋。出入り不可能な空間。
不可能犯罪――つまり。
「密室ね」
古今東西、探偵が挑む最大の謎なのである。