お茶会へようこそ
「お茶に合うお菓子がほしいわ、フィオネル」
お嬢様の言葉に、フィオネルはふむ、とうなった。
ここは魔王城、魔王の娘アイリーンの一室。
相変わらずベッドでごろごろと本を読むお嬢様・アイリーンに、フィオネルは息抜きにどうですかとお茶を淹れたのだ。
ダークエルフ執事の手先の器用さを駆使した、渾身の出来である。ティーカップを両手に包み、大人しくフィオネルの淹れたお茶をこくこくと飲んでいたアイリーンだったが。
ふと彼女が思い出したかのように放ったのが、今の一言だった。
確かにお茶だけでは少し寂しいかもしれない。何か用意しようか、とフィオネルはアイリーンに尋ねる。
「そうですね、夕食まで時間もありますし。何かお持ち致しましょう。スピリット印のクッキーなどはいかがですか?」
「良いわね。あとスコーンとジャムも欲しいわ。少しお腹が空いてしまった」
「承知いたしました」
カップを抱えてちんまりとしているアイリーンを微笑ましく思いつつ、フィオネルは頭を下げた。
人間界の推理小説を嗜み、探偵に憧れているとはいえ、見た目は可愛らしい金髪の少女である。
お菓子がほしいなどという小さなワガママくらい、笑って請け負うのが執事たるものの勤めであろう。
クッキーをいくつか。あとは数種のジャムとスコーン。さらにチーズケーキなどはどうだろうかと上機嫌で考えつつ、フィオネルは部屋の扉を開ける。
すると。
「なんで無くなったんや! どこに行ったんや! ワイの可愛い金貨ちゃんたち‼」
「……」
途端にガラガラしたダミ声が聞こえてきて、フィオネルは半眼になった。
その声が優雅な空気をぶち壊しにする、力強い下町情緒あふれるものだった、というのもある。
しかし何より、叫びの内容が――
「あら。面白そうじゃないフィオネル。その子をお部屋に入れてあげて。お話を聞いてあげましょう」
「……承知いたしました」
アイリーンの推理欲をかき立てるもので、また何か厄介なことが起こらないかと不安になったのだ。
魔王の娘・アイリーン。
探偵に憧れ、お菓子よりも謎に目を輝かせるお嬢様である。




