事件の結末
自室で読みさしのままだった本をめくり、アイリーンはひと息ついた。
「ふう。とても有意義な時間だったわ。やっぱり推理というものは楽しいわね」
本の内容と、先ほど起きた事件をだぶらせて、彼女はうっとりと微笑む。
サイクロプス殺害事件。
宝物庫強盗殺害事件。
スケルトンバラバラ殺害事件。
一連の事件は、解決するのにスリルと興奮を伴うものだった。むろん、臣下たちを殺した勇者は許せないが――犯人を追い詰めていると自覚するだけで、狩りに似た喜びを味わうことができるのだ。
執事のフィオネルなどは、そんなアイリーンの表情に何か思うところがあったようだったが。
うるさい小言を言われる前に、彼には父の元に行ってもらった。別にいいでしょう、ちゃんと犯人は言い当てたんだから――と駆けていったフィオネルを思い出し、アイリーンは頬を膨らませる。
内部に勇者が侵入、第一級警戒態勢を取った魔王城は、一部を除き静かなものだった。
静寂の中ひとり、魔王の娘は手にした本のページをめくる。本当はこの推理小説のように、容疑者を土壇場で追い詰め推理を披露し、ビシリと指をさすのが美しい流れだったのかもしれないが――謎が解けた嬉しさのあまり、ついあの場で「犯人が分かった」などと口走ってしまったのだ。
これについては反省だ。次はちゃんとやってみせる。
探偵になってみせる。そうアイリーンが決意したとき。
ガシャンと窓の割れる音がした。
始まったのだ。勇者と魔王の戦いが。
音の発生源はアイリーンの父、魔王の謁見の間。
つまり玉座があるところである。窓の外に父の炎魔法が見えて、アイリーンは状況を悟った。
この一連の事件は、ようやく本当の解決を迎えるのだ。
「……馬鹿なニンゲン。お父様に敵うわけないのに」
舞い散る火の粉。飛び散るステンドグラス。
それに混じって、黒い人影が窓の外を落下していく。
彼女が父の元に凶悪犯が向かっていると知っても、動じなかった理由がこれだ。
あの程度の雷魔法では、魔王には勝てない――敵の程度が分かっていたからこその余裕である。
落下する人影に対して、アイリーンは言う。
「滅びなさい――突かれて焼かれて浄化されて。あなたが殺してきた分、今度はあなたが殺されるのよ」
割れたステンドグラスに炎が映り、輝きが反射してキラキラ光る中で。
ぐしゃり、と何かが地面に叩きつけられた音がして、彼女は窓の外から視線を切った。
魔王城連続殺モンスター事件。
犯人は最後に非業の死を遂げる。
「ええ、これで事件は解決ね。今回一番の怪物が殺されたのだから」
その結末に微笑んで――アイリーンは読み終えた本を、満足げにぱたんと閉じた。
魔王城連続殺モンスター事件~完