表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/60

お嬢様の推理

「……は?」


 犯人は勇者――そう告げられて、フィオネルは呆けた声でそう言った。


 魔王城、連続殺モンスター事件。

 サイクロプスが殺され、宝物庫を守るドラゴンが殺され、城門のスケルトンが殺された事件。

 犯人はこの中にいる――そう言い切っておきながら、犯人がこの場にいないことにフィオネルは目をぱちくりさせた。


「ええっと……アイリーン様。先ほど『犯人はこの中にいる』と……」

「犯人は『魔王城』の中にいる、よ。さっき指をさしたじゃない。城の方を」

「あ、えーと。その……」


 アイリーンがビシっと指をさしたのは、フィオネルたち群衆ではなく、背後にそびえる魔王城だったらしい。

 ひょっとしたら、探偵役を務めたアイリーン自身が犯人なのではないか、などと思っていたフィオネルにとっては拍子抜けする話である。

 得意げに鼻を鳴らす魔王の娘に向かって、執事はその結論に至った経緯を訪ねる。


「アイリーン様。最初から説明していただいてもよろしいでしょうか? 特にその。第三の事件で裏付けられた、仮説というものを」

「いいわよ」


 先ほどアイリーンは、第三のスケルトン殺害事件で犯人の確証が得られた、というようなことを言っていた。

 犯人は、勇者――ここにいない人物のことを呆然とした頭でフィオネルが考えていると、アイリーンは言う。


「まず初めに引っかかったのは、城の天井に開いた大穴のことだったわ。闇の属性を持つ城壁は、同じ闇属性を持つ魔王城周りの雷では破れないもの」


 建築上当然のことであるが、毎日のように鳴っている雷対策として、魔王城には防御策が施されている。

 それが、同質の属性を持つ素材を使って、威力を散らす方法だ。闇属性の建材は他の属性への防御耐性も高く、魔界では手に入れやすいことから魔王城の建築にも使われた。

 ただし。


「ただ、この壁はあるいち属性にだけは非常に(もろ)いわ――光属性。闇属性とは正反対の性質を持つ、神威(しんい)の力」


 勇者の光、雷魔法(ライボルト)

 伝説の魔法だけには、さすがの魔王城も耐えきれない。いち個人の力で城を崩壊させるには至らないが、収束して放てば壁を打ち壊し、暗黒竜を殺すほどの威力は出る。


「今日、フィオネルも勇者が近くまで来ているらしい、って言ってたじゃない。それに、スケルトンの死因が『浄化』であると聞いた時に確信したわ。ああ、これは魔界の眷属の仕業じゃないって」

「まあ、それはそうですが……えーっと」

「さらに言うなら、事件の順番もまた、犯人が勇者だと思った理由なのよ」

「順番?」


 まあ、確かにそうかもしれないが――と納得いかないながらも納得しようとしていたフィオネルの耳に、『ちゃんとしていそうな推理の情報』が飛び込んできて、彼は思わずそちらに食いついた。

 順番。事件の。

 今回は、三つの事件が起こったが――


「伝令兵。スケルトンの死亡推定時刻は?」

「はっ、一時間ほど前と思われます! 浄化で死体が塵状になっていまして、発見するまでに時間がかかりました!」

「それは――もしや。最初に殺されたのは、このスケルトンということですか?」

「そう。発見されたのは一番後だったけれど、殺されたのは一番最初。犯人はここから侵入し、城内を歩いていき、宝物庫にたどり着いた」


 元々は、これが最初の事件だったのだ。

 発見された順番が前後していたため、ややこしくなっていただけだった。門番のスケルトンが最初に殺されていたのが分かれば、犯人が外部からやってきた者だと想像もつく。


 昨今噂されていた勇者が、ついに魔王城まで乗り込んできて、モンスターを殺し金品を奪っていった。


 いくつかの状況から、そんな結論を導き出すことはできるだろう。実際に現場でどんな魔法が使われたかを検証したり、何より復活した被害者たちから話を聞けば、アイリーンの推理は裏付けられる。


 彼女が犯人ではないという、立派な証拠になる――ひょっとしたらアイリーンが今回の事件の犯人なのではないか、と密かに思っていたフィオネルは、ほっと息をついて脱力した。

 魔王の娘の容疑は晴れたのだ。

 これにて一件落着、一安心。

 世は全てこともなし――と、言いたいところだったが。


「あら。安心するのはまだ早いわよフィオネル。勇者はまだ捕まっていないのだから」

「それはそうですが、でも」

「考えてもみなさい。門番。見回り。宝物庫番。それらを殺した犯人は、次はどこに行くと思う?」


 ケロリとした顔でアイリーンが言うのでどうにも危機感がなかったが、言われてみれば勇者はまだ野放しのままなのだ。

 無差別連続強盗殺害犯、勇者。

 魔界史上、とんでもなく凶悪な相手である。過去を振り返っても、これほどの罪人がいたかどうかは怪しい。

 そんな人物が、次に狙う相手といえば――


「もちろん、魔王(おとうさま)のところに決まってるじゃない」

「えっ……衛兵ー! 衛兵ー⁉ 非常事態である、魔王様の元に向かうぞーっ⁉」


 ほっとしたのも束の間、魔界の大黒柱に迫った危機に、フィオネルは周囲の兵を集めて駆け出した。


 魔王城、連続殺モンスター事件。

 本当の解決は、まだこれからである。

あと1話、続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=189428228&s
― 新着の感想 ―
[一言] この中にいるって、まさかの魔王城全体のことを指していたとは…… 完全に予想外でした……。 それにしても、アイリーンお嬢様すごい! 意外とちゃんと推理してる←失礼 魔王の元に向かった勇者が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ