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02.第1ゲーム①:魔法ボウリング

 学校からバスで5分。キノアが案内するボウリング場に着いた。


 何でも魔法使い専門のボウリング場らしく、放課後にはうちの生徒達でよく賑わっているらしい。


 受付を済ませたら、自分達のレーンに向かい準備を始める。

 ボウリングシューズに履き替え、自分に合ったボールを選ぶ。さすがにマイボール&マイシューズは、今は手元にない。どちらもここで借りたものだ。


「ところでキノアとサラってどのくらいの腕前なんだ?」

「あたし? うーん……」


 と、キノアは腕を組んでジッと考え込んでしまった。

 サラの方も、どう答えたものかと何やら困った様子。


「そりゃあ誰とやるかとか、何人でやるかにもよるけど……平均スコアで言えば、100前後くらいかなぁ」


「私は100~120くらいでしょうか。もちろん戦うメンバーにもよりますけど」


 二人とも、なぜか対戦相手によりスコアが変わることを強調していた。


 正直ボウリングなんてほぼ自分との戦いだと思うのだが。周囲の雰囲気によって調子が変わったりするのだろうか。


 ちなみに中学時代の俺のアベレージは180前後。調子がよければ200に届くこともあった。

 プロテスト(男子)の受験資格――アベレージ190にはギリギリ届かないが、そこに迫るレベルであったことは自分の中でちょっと自慢だったりする。


「それにしても……」


 と、俺は周囲を見回して、首をひねった。


「なあキノア、このボウリング場……妙な設計してないか?」

「そう? 普通だと思うけど」


 なんてキノアは言ってるが……やっぱり違和感がある。


 普通ボウリング場と言ったら、何本ものレーンが隙間なく連なっている場所を想像するだろう。

 でもこのボウリング場は、なぜか間隔が広い。

 各レーンの両サイドは3メートルくらい開いていて、本来30レーンほど敷けるスペースを6、7レーンだけで贅沢に使っているのだ。

 

 他にも場内の至るところに魔法陣が描かれていたりと、奇妙な点も多い。

 どうも防護系の魔法っぽいし、地震や火事で倒壊しないような対策、的な?

 なんつーか、土地と魔法の無駄づかいって気もするが……。



「よーし、じゃあさっそく始めようか!

 3ゲーム勝負、SPチャージは第3フレームまでで文句ないね!」


「えぇもちろん、構いませんわ」

「え、えすぴー、チャージ……?」


 後半、聞き慣れない単語に首をかしげる。が、質問するより先にキノアがアプローチ(ボールを構える場所)に立った。


 ……まあ、いいか。

 投球はキノア、サラ、俺の順だ。控え席に付属されたモニターには、上から順に三人の名前が表示されている。


 さて、まずはキノアの第一投。

 期待しながら見ていると、キノアはボールを大きく振りかぶり、



「――(うな)れ、《火球(ファイアボール)》っ!!」



 投球されたボールは……炎を纏ってピンに迫る!


 勢いよく突っ込んだ火の玉は一番手前のピンに触れた瞬間、炎を発散。

 なぎ倒されたピンに次々と引火し、結果すべてのピンを消し炭と化した。


「やったぁ! ストラーイク!」

「ってちょっと待てやぁっ!」


 喜びはしゃぐキノアに思わず待ったをかける。

 しかし当の本人はきょとんと首をかしげるばかり。っていやいや!


「どうしたのヨウ? あ、もしかしてあたしファールしてた?」


「してたねぇ! ファールってか思いっきり反則だったねぇ! なにボウリングのピンに攻撃魔法ぶっ放してんのおまえ!?」


「何言ってんの? あれはボールに魔法を付加しただけで、あたしが直接ピンに攻撃したワケじゃないんだけど?」


「その理屈で俺が納得するとでも!?」


 ダメだコイツ、話が通じねぇ……。


 互いの主張が理解できず、不毛な口論を続ける俺とキノア。

 そこにサラが「そういえば」と口を挟む。


「たしかヨウさんは一般の中学出身でしたわね? ひょっとしてヨウさんがやってたボウリングって、オリジナルの方ではないかしら?」


「お、オリジナルぅ?」


「はい。魔法を使わず、純粋にボールを投げあいスコアを競うシンプルなルールですわ」


 サラ曰く、どうやら魔法使い達は普通のボウリングに魔法要素を追加し、独自のスポーツとして発達させたようだ。

 それがこの、通称「魔法ボウリング」。魔法使いの間では通常、ボウリングと言えばこちらを指すらしい。


 スコアの付け方などは基本的に同じだが、魔法ボウリングではその名の通り、魔法の使用がルールで許可されているらしい。ボウリング専用の術式や魔道書も存在するのだとか。


 にしてもピンを焼き払ってもOKだなんて……むちゃくちゃ過ぎる。


「ふふ、それにしても初手からストライクだなんて。やりますわね、キノアさん」


「へっへーん、あたしは先行逃げ切りタイプだからね! 初っ端からどんどん飛ばして行くよ!」


「そうですか……。では私も、負けてられませんね」


 そう言って次の投球者、サラがボールを構えた。

 そしてキノアと同様、魔力を球に込める。


「――清水の女神よ、この手に加護を。《水弾(アクアショット)》っ!」


 華麗なフォームで放たれたボールは、水を纏って滑るように進む。

 一番ピンに当たったボールは水しぶきを散らし、見事10ピンすべてを倒しきった。

 ……かのように思われたが。


「あぁ惜しいっ! 1本残ったか」

「あらら……。ですがまあ、十分でしょう」

「え?」


 ストライクを逃したというのに、サラは満足げだった。

 そしてさっさと戻ってきたボールを手に取り、狙いもつけずに第二投を転がしてしまう。

 ボールは残ったピンに向かうことなく、まっすぐガターへと沈んだ。


「いいのかサラ? あんな適当に投げて」

「ええ、これが私のやり方ですから」


 まるで魔力を使うだけもったいないとばかりに、サラはあっさりとスペアチャンスを捨てて席に戻ってきた。


 これが彼女のやり方って、どういう意味だ?

 さっき「手加減はしない」と豪語していただけに、奇怪な行動が逆に引っかかる。


「まっ、サラがそれでいいなら、いいか」


 人は人、自分は自分ってね。

 そんなことより、次は俺の投球だ。


「よぅし、俺も一発決めてやるか!」

「お、やる気だねぇ、ヨウ」

「ったりめーだ。見せてやるぜ俺の実力」


 俺は送風機で軽く手を乾かし、満を持してボールを構えた。


 あの二人は派手な魔法をかましていたが、俺はそんなインチキな手は使わない。

 正々堂々、技術だけでストライクを取ってやるぜ!


「っしゃ……いけっ!」


 俺の投じたボールがレーンのやや右側を転がっていく。

 だがそれも途中まで。ボールはピンの手前に達すると、方向転換。一番ピンと三番ピンの間に吸い込まれていく。


 これぞ中学時代に習得したフックボール――曲がる球筋だ。

 この軌道ならストライクはほぼ間違いなしだ。さあ、いけっ!


 ゴロゴロゴロ……ガキンッ!


「弾かれた!?」


 完璧に捉えたと思ったピンは、まるで鉄杭のごとくびくともしなかった!

 スクリーンに映る俺のスコア表には、無慈悲にも「(ガター)」の文字が浮かび上がる。


 不甲斐ない結果に、キノアがやれやれとため息。


「あーあ、ダメだよヨウ、ちゃんと魔法使わなきゃ。ただ重いボール当てただけでピンが倒れるわけないじゃん」


「いまさらっとボウリングの大前提が全否定された!? そもそもピンが倒れなきゃゲームが成り立たないんだが!?」


「だからこれは一般社会のボウリングじゃなくて『魔法ボウリング』。ピンが物理耐性もってるのなんて常識でしょ?」


「ぶ、物理耐性!?」


 言われて周囲のレーンも見てみると、確かに普通に球を投げている客は俺以外誰ひとりいなかった。

 みんな思い思いの魔法でピンを蹴散らし、その爽快感を楽しんでいる様子。


 え、何これ? もしかして、俺が間違ってるのか……?


「とりあえずヨウも試してみなよ。ほら、こうやって魔力を手に集中させて」

「うーん……じゃあ」


 郷に入っては郷に従え、か。


 何とも腑に落ちない感はあるが、ゲームが進まなくては仕方ない。キノアの指示に従い、俺はボールに魔力を注入してみて……、


 瞬間、ボールが暴発した。


「どわぁっ!? な、何が起き――へぶっ!?」

「あ、力込めすぎだね。アハハよくあるよくある!」


 まるで暴れ馬のように宙を飛ぶボールを顔面に食らう俺。そしてノックダウン。こんなあるあるあってたまるか!

 魔法を込めたボールの制御って、こんなに難しいのか……!


 と、上体を起こした俺を覗き込んで、サラ。


「もしかしてヨウさん……ボールに書かれた数字、大きいやつ選びました?」

「……数字? ボールの重さなら俺は14ポンドを使って」


「魔力出力レベル14ですと初心者でなくとも扱いづらいと思います。パワータイプでないなら、レベルは6くらいに下げた方が安定するかと」


「この数字重さじゃねえのかよ!」


 俺のツッコミ連打はまだまだ続く。

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