01.プロローグ:嵐の前の……
「ねぇヨウ、帰りにボウリングでもやっていかない?」
放課後、帰り支度をしていると、突然そんな誘いが飛び込んできた。
紅色ショートヘアの魔法使い少女、三枝キノアが机の前に立ち、楽しそうな表情でニッと八重歯を覗かせている。
「ボウリングかぁ。そういや久しくやってないな」
「あれ? もしかしてヨウ知らないの~? いま魔法使いの間でボウリングが一大ブームなんだよ!」
「へぇ、そうなのか」
ボウリングといえば俺が中学生だった頃に遊んで以来だ。ここ私立宇津々魔法高校に入学してからはご無沙汰だったが、まさかそんな流行があったとはな。
おもしれぇ。この俺、永瀬ヨウだって魔法使いの端くれだ。そのブームとやらに乗ってみるのも一興だろう。
「よしいいぜ。その案乗った」
「やった! さすがヨウ、ノリがいいね」
「ちなみに負けたら明日の昼メシおごりな」
俺の軽口にキノアが「ええっ!?」と目を丸くする。なんてな。
「それはさすがに……いいの? 罰ゲームぬるすぎない?」
「ハハ、冗談冗だ……なんかいま不穏な言葉が聞こえた気が……」
なんて他愛のない会話をしていたときだ。
同級生の柳川サラが群青色の長い髪を揺らしながらやってきた。
「あらキノアさんにヨウさん。今からお帰りですか?」
「あ、サラ、ちょうどよかった! 今からあたしとヨウでボウリング行くんだけど、一緒にどう?」
「ボウリング、ですか。私は構いませんけど……」
「けど?」
キノアがきょとんと首をかしげる。
と、サラはにこやかだった笑顔をスッと真顔に変えて、
「やるからには、手加減しませんわよ?」
「……え? そ、そこはちょっとお手柔らかに……」
「いいじゃん、そうこなくっちゃ! やっぱ遊びとはいえ、全力でやらなきゃ楽しくねえもんな」
なぜかキノアの表情は引きつっていたが、俺はサラの飛び入り参加を嬉々として受け入れた。
別にボウリングなんてスコアを競わなくても十分楽しめる。むしろうまい人のプレイは見ていてスカッとするしな。
学校では学年主席と謳われるパーフェクト魔法使いサラ。そんな彼女はやはりボウリングの腕も完璧なのだろうか。こいつは見物だ。
「よーし、そうと決まりゃ、さっそく行こうぜ! 二人とも帰りの準備はできてるか?」
「私は大丈夫ですよ。……ふふ、腕が鳴りますわね」
「こ、これは……戦争の予感がする……っ!」
「大げさだなぁ、戦争だなんて」
だが、このとき俺は知らなかった。
キノアの発言が、決して冗談ではなかったことを。