099 氷の女王Ⅱ
目の前の敵をただ倒すだけ。他の者の事など考える隙もないのだ。
演習場の舞台に顔を見せると、目の前には敵がいる。
自分の事を知り尽くしている敵だ。普通の相手とは格が違う。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「なんでしょうか?」
「この観客は一体何?」
「分かりません。私も今、初めて知りました」
「ちっ……誰の仕業だ」
観客席に目をやる。
「はーい。貼った、貼った! 一口千円。当たった奴には返金するからね!」
一人の男子生徒が賭け事の商売を行っていた。
「ん? あいつは……」
デミトロフは、あの面影に見覚えがある。
先日の男子生徒だ。
あの忌々しく、憎たらしい。顔が頭に浮かぶ。
「貴様! 何をしている!」
デミトロフは男に叫ぶ。
「おお、久しぶりだな!」
「久しぶりじゃない‼ そこで何をやっている!」
「ただの賭け事さ。いいだろ? 商売っていうのはこういう時に稼がなければ」
ハウロックは、笑いながら観客席からデミトロフを見下ろす。
デミトロフは苛立ちながら視線をエミリーに向ける。
「ジョン。戦いにおいて、違う事を考えていると死にますよ」
「全くだ。この事については後で考えることにしよう」
「それいいのです……」
エミリーはフッと、笑む。
「じゃあ、このコインが地面に落ちた時が始まりという事で……」
「分かった……」
二人は呼吸を整える。
エミリーが、持っていたコインを上空へと投げる。
二人は武器を手に持ち、落ちる瞬間とタイミングを見計らう。
コインは落下し、そして、地面に落ちて音を鳴らす。
カキンッ……。
と、同時に二人は動き出した。




