094 若き魔導士の追憶Ⅶ
「確かに剣術も騎士レベル、狙撃は現役スナイパー以上の腕、体術も国別対抗戦に出れば優勝間違いなしじゃないのか?」
「無理ですよ」
「なぜだ?」
「私には実戦経験が無いからです」
エミリーは、静かに紅茶を飲みながらそう言った。
「実践経験が無くとも上位には食い込めるだろう?」
「そうですね。しかし、実戦を経験している者は私よりも優れているものがあります」
「それは?」
「殺気と感です」
「殺気と感だと?」
「はい。殺気、つまりは誰でも殺す覚悟を持っている事。そして、幾戦の中で人間をどれだけ殺してきたか。感は、言葉通りに意味です。私が思っている事よりもそれよりも先回りしてくるって事です」
「なるほどな。お前の言う通り、俺の護衛と言っても本物には勝てないって事か……」
「そうですね。ですが、あなたを逃がすくらいの時間は稼げると思いますよ」
「ふざけるな! 俺がお前を置いて逃げるとでも思ってるのか? 俺はいつまでもお前の陰には隠れてはおらんぞ!」
デミトロフは、いきなり立ち上がって、トレイを持ち、一人先に立ち去ろうとする。
だが、少し歩いたところで足を止め、背を向けたままこう言う。
「まぁ、それでもお前は俺が絶対に守る」
その言葉に嘘偽りない。
言葉や表情には現さないが、彼なりの照れ隠しでもある。
エミリーは、小笑いする。
――――ほんと、似合わない言葉を使って……。
――――でも、あなたのそういうところ……嫌いじゃないですよ。
――――私はいつまでもあなたのそばにいますから……。
エミリーは、デミトロフの後姿を見ながら席を立って、後を追いかける。
追いつくと、いつも通りに平然とした顔をして隣でゆっくりと歩く。
小さな一歩であってもそれは価値のある大きな一歩。
× × ×
放課後――――