093 若き魔導士の追憶Ⅵ
「はい。少々荒っぽい手を使って椅子を持ってきました。それよりもジョン。もう、時間が無いんですから早く食べてくださいよ。こっちの身にもなってください」
深々と溜息をつき、持ってきた椅子に座ると、少し冷めた料理を食べ始める。
周りからはざわざわと噂声が聞こえてくる。
無理もない。
学年トップスリーが揃って同じ席に座り、昼食をしているのだ。
――――気に食わん。なぜ、こんな奴が俺よりも上にいる。
――――そもそも、なんで俺はこの男と一緒に食事をしているのだ?
――――野性的に嫌なはずだ。だが、なぜか、自分から引き下がるのは許せん。
プライドの高いデミトロフは、意識的にというよりもいつの間にか、目の前の男だけには弱みを見せるのは嫌だと思っていた。
「エミリー、食べ終わったらすぐに教室に戻るぞ」
「はい」
デミトロフは、最後のデザートまで食べ終えると、コーヒーを飲み干し、食器を重ねれるところだけ重ね、エミリーが食べ終わるのを待つ。
ハウロックは、最後の肉を口で大きく開けて、一気に食べると口元を白い布巾で拭く。
エミリーもいつの間にはデザートに差し掛かっており、残りわずかとなっていた。
「じゃあ、俺は先に上がらしてもらう。じゃあ、後はごゆっくりどうぞ」
ハウロックは嫌味ったらしく言い残して、立ち上がるとトレイを持ち、食器返却コーナーへと行ってしまった。
「ちっ、やっとうっとしい奴が消えたな……」
デミトロフは、ポツリと言った。
「ジョン。あの人は魔法科のトップですよ。確か、二つ名は『氷結の秀才』。氷系統の魔法を専門としている魔導士です」
「『氷結の秀才』だと? くだらん二つ名だな。俺だったら火魔法の方がいいな」
「そう言うと思いましたよ。ですが、あなたは錬金術師を目指しているんでしょ」
「それを言うならお前は何を目指しているんだよ。魔法とか錬金術、お前ならすぐにも一つ頭が抜けるほど、すごいと思うが……」
デミトロフは、食べ終えたエミリーを称賛し、なぜ、一般学生なのか不思議に思っていた。
「私は魔法や錬金術を覚えることができないんです。魔法や錬金術には、才能が要ります。その才能が私にはないだけですよ」
「そうか……」
言葉を失う。
「でも、それ以外で体術や狙撃、剣術を学んでいますから……」