090 若き魔導士の追憶Ⅲ
十二年前、まだ二人が軍に入っていない頃、まだ、十代だった時の話。
元々、二人は幼馴染であり、魔導士・錬金術師になるための魔法学校に通っていた頃に遡る。
これは『氷結の魔導士』と呼ばれる前の話。
× × ×
十二年前――――
オストワール魔法学校・中等部――――
幼きデミトロフは中等部の錬金術科に所属していた。
いつも隣には幼き頃から一緒にいる普通科に在籍しているエミリーがいた。
デミトロフが何か余計な事を起こさないか、いつも隣で見張っていたのだ。
「エミリー、なんでいつも隣にお前がいるんだよ」
デミトロフが嫌そうな顔をして、隣で眼鏡をかけ、教科書を持ち歩いているエミリーを見た。
「それはジョンが学校内で悪さをしないか、監視しているのよ」
「だったら、命令だ。監視はしなくていい。お前はお前のしたいことをしていろ!」
「分かりました。でしたら、このまま隣にいるとしましょう」
「お前なぁ……」
デミトロフは面倒そうに頭を悩ませながら、溜息をついた。
デミトロフの家系はマリエスト国のノースシティの中でも富豪の家系である。
そして、エミリーの家系は代々デミトロフ家に仕える者であり、歳の近いエミリーは、デミトロフの仕えの者である。
成績優秀であり、デミトロフの近辺を警戒しながら、いつもそばにいる。
デミトロフにとっては、面倒な女としか思っておらず。
全てにおいて、彼女に勝ったことが無い。
「エミリー、食堂はしっかりと抑えてあるんだろうな?」
「何ですか? しっかりと抑えてありますよ。心配しなくても席は逃げたりしませんから……」
「いつも思っているが、お前の弱点って、一体どこにあるんだ?」
「さぁ、どこにあるんでしょうね。それよりも早くしないと置いていきますよ」
エミリーは少し歩いて、後ろを少し振り返ると笑って言った。
「ちっ……喰えねぇ女だ」
デミトロフは前髪を上げて、首をゆっくりと一周させた。
二人は中等部の大食堂へと向かった。
大食堂には多くの中等部の生徒が昼食を取りに集まっていた。